109、女帝リマの髪飾り
「何? 変な雰囲気ね」
ヤヨイさんは、僕達が密談をしていたことに気づいたのかな。意外に鋭い。
「これの話をしてたんだよ」
スウセイさんは、高価な髪飾りをヤヨイさんに見せた。闇市なら金貨150枚になるお宝だ。これを、僕達がこの宿場町に留まる理由にすると言っていたけど、上手くいくのだろうか。
「何だか怪しいわね。その髪飾りは呪具じゃないの?」
呪具? 呪いの道具?
「へぇ、やはり、ヤヨイさんには見えるのか。これは、『女帝リマの髪飾り』だよ」
「ええっ!? 高価な骨董品じゃない! そんな物を、どうしたんですか」
「うーん、魔法袋に入れてたんだけど、魔力を吸い始めたから、出したんだよね。しばらく身につける人が居なかったから、魔力を欲しがっているらしくてね」
スウセイさんは、スラスラと答えている。そんな骨董品だとは聞いてなかったけど、嘘をつく意味はないよな。ということは事実か。なるほど、金貨150枚もすることに納得だ。
「ずっと、お宝扱いしていたからでしょ。『女帝リマの髪飾り』は7種類あるはずだけど、これは、何の呪いがかかっているの?」
「さぁ? 何だったかな。イアンさんは、わかる?」
ん? なぜか、イアンさんはまた笑っている。芝居だとバレるじゃないか。
「あはは、あぁ、失礼。霊が面白いことを聞いてきましてね。くくっ。えーっと、その髪飾りにかかっている呪いでしたな?」
イアンさんは笑いながら、髪飾りに魔力を放った。すると、髪飾りに触れた魔力が、ぶわっと広がり、僕は、ゾゾッと恐ろしさを感じた。何が起こった?
「これは、威圧かな? 近寄る者を従わせるのか」
「今、体験してもらったのが、その髪飾りが放つ最大出力ですな。魔力が馴染むまでは、大した威力にはなりませんが」
イアンさんは、演技をしている様子はない。
「あぁ、そういえば、威圧を振りまく呪いだった気がするよ。普通に売れないからと、譲り受けたんだ」
これは、スウセイさんの演技が混ざってる?
「そりゃ、普通には売れないわよ。そもそも、とんでもなく高価でしょう? だけど、魔力を吸収し始めているなら、身につけないと、宝石にヒビが入るかもしれないよ」
「まぁ、古い物だからな。バラバラにして、宝石だけでも売ればいいかと思ったが、分解できないんだよ」
「スウセイさん! バラバラにするなんて、とんでもないことを言わないで! この世に同じ物はないのよ?」
なぜか、ヤヨイさんが怒っている。
「じゃあ、ヤヨイさんが、しばらく髪に付けて、魔力を供給してあげればいいんじゃない?」
おっ! ムロさんが、作戦を開始した。
「はぁ? どうして私が、他人のお宝の世話をしなきゃいけないのよ」
ヤヨイさんは、即座に反論した。ムロさん、失敗かな。するとスウセイさんは、髪飾りを手に持ち、ヤヨイさんの頭の方に向けている。
「その服に合うかもしれないね。ヤヨイさんが制御できるなら、あげるよ。魔法袋が乱されるし」
スウセイさんの言葉に、ヤヨイさんは、一瞬嬉しそうな顔をしたけど、すぐに疑いに変わったようだ。
「あげるって、何? どんな下心があるのかしら」
だよね。高価すぎる骨董品だもんな。
「ん? いらないならいいよ。エドさんのアイテムボックスなら、魔力を吸収されても乱れないかな? エドさんが引き取ってくれるなら……」
「ちょーっと! 待って待って! エドさんに渡してどうするのよ? 魔力を吸収する髪飾りなら、一般の人には扱えないわ。まさか、エドさんが髪飾りをつけるわけじゃないでしょ?」
ヤヨイさんが、食いついた。
「でも、売りにくいし、それに威圧を振り撒く呪いを制御できない人が身につけると、問題が起こるからね」
あっ、ヤヨイさんの口角が上がった。
「仕方ないわね。じゃあ、私がとりあえず預かってあげるわよ。制御できるかは、しばらくつけてみないとわからないもの」
「ヤヨイさんに、似合いそうですよね」
ムロさんがそう言うと、ヤヨイさんは照れたのか、髪飾りを持って、無言でシャワー室へ行ってしまった。
スウセイさんとムロさんは、親指を立てて、微笑んでいる。とりあえず、ヤヨイさんが髪飾りをつけることになったけど、絶対に失くさないよね。あっ、盗賊か!
「ヤヨイさんが髪飾りをつけると、盗賊に狙われますよね?」
無事に、この宿場町に留まることができそうだ。
「ん? それはないと思うよ。イアンさんがいるからね。俺達から、何かを盗るなんてことは、させないよ」
「スウセイ、じゃあ……いや、何でもない」
ミラックさんは、僕と同じ疑問を抱いたのだと思う。盗賊に盗られる方が、闇市に出入りしやすい。だけど、シャワー室の扉が開いたから、これ以上の話はできないな。
「これでいい? ちょっと重いけど」
ヤヨイさんは、髪型を変えたようだ。まとめ髪にして、髪飾りが映えるようにしてある。大人っぽいな。
「ヤヨイさん、すごく似合ってますよ」
ムロさんがすぐに褒めた。僕も、しっかりと頷く。ヤヨイさんは、全員の顔を見ている。そして満足そうに頷いた。
「そう? ちょっと重いけど、我慢するわ。早く食事に行きましょう」
◇◇◇
僕達は、大きな食堂に入った。ヤヨイさんが、大人っぽい服を着ているからか、やたらと見られる。だが、誰も話しかけてこない。Sランク冒険者の二人が、顔を知られているためだろう。
「夕食で、たくさん食べるのは久しぶりだぁ」
スウセイさんがワインも頼んでいたから、ヤヨイさんは、上機嫌だった。確かに夕食は、ずっと質素な混ぜ飯だったよな。
「その分、昼食はたくさん食べてたじゃねぇか」
ミラックさんは、僕に気を遣ってくれたみたいだ。
「そうですね。ここまでの旅は、エドさんに一番負担がかかっていましたね」
イアンさんも、優しいことを言ってくれる。
「でも、エドさんが作るご飯って、少ないし、何だか貧しい気分になるし、飽きちゃうよ〜」
えっ……。
僕は、胸を槍で突き刺されたような、鋭い痛みを感じた。飽きる、か。幼馴染にも言われたことだ。
ヤヨイさんは少し酔っているから、いつも思っていることが、ポロッと出たんだよな。
「ちょっと、ヤヨイさん、飲み過ぎじゃないですか? エドさんのご飯は、いつも美味しく頂いてますよ」
ムロさんは、僕の表情の変化に気づいたのか、すかさずフォローしてくれた。優しい。
毎日味を変えていたつもりだけど、やはり飽きるか。僕は料理人じゃないのに、強いショックを受けた。




