86、冷たいデザート
それから、10日ほどが経過した。
数日前に、高位ランク冒険者が10階層までの地図を作成してからは、ソアラ迷宮には、大勢の冒険者が挑んでいるようだ。
僕達が見た1階層から3階層までの街には、まだ結界があって、入ることはできないらしい。だが魔物のいない階層は、冒険者には安心できるようだ。街の門の前は、冒険者がテントを張って泊まる場所として、活用されているという。
仮設置をしていた4階層の休憩所は、頑丈な物に建て替えられたそうだ。だが、ソアラ高原と同じく弱い魔物しかいないから、4階層もテントを張って泊まる冒険者が多いと聞く。
僕達が行った5階層は、泉までの道が整備されているが、多くの冒険者は、泉へは行かないらしい。『海の神様の使者の泉』と呼ばれていて、汚すとダンジョンコアが出てくると、恐れられているそうだ。
実際に、その泉の水を飲もうとした冒険者が、光の入った壺に吹き飛ばされて、瀕死の重傷を負った事件が複数あったらしい。ダンジョンコアの壺の目撃情報は、毎日のようにあるが、幼児の姿は見せてないようだ。
「エシャナちゃんだっ!」
食堂の昼の食べ放題の時間が落ち着いた頃、たまに騎士団長が、高位の冒険者を連れてやってくる。要人の暗殺事件もまだ片付いてないらしいが、今は、トランクの街に大勢の冒険者が押し寄せているため、対応に忙しいようだ。
「アスカさんは、今日も元気だな」
「うん! エシャナちゃんは元気がないの? エドちゃんに言って、デザートを作ってもらおうか?」
僕は厨房で休憩中だったが、ホールの方へ顔を出した。あっ、Sランク冒険者のスウセイさんもいる。
「いらっしゃいませ。何か甘い物を作りましょうか?」
「エドさんの混ぜ飯か。デザートも作れるのか?」
「はい、ケーキなどは無理ですが、果物を使ったデザートなら、できますよ」
「エシャナちゃん! エドちゃんが作る冷たいデザートは美味しいよっ」
「へぇ、周りのお客さんも、食べたそうにしているな。じゃあ、それを頼む」
「かしこまりました」
僕は、食べ放題の分も考えて、デザートを作る。10日ほど前にスキルレベルが上がったことで、冷たい混ぜ飯を作ることが可能になった。無意識に魔法を組み合わせているのだと思う。
ケモ耳の女の子が、ソアラ迷宮の5階層の泉の冷たさを、いろいろなお客さんに話していたから、それを意識したデザートを作ったのが、始まりだった。
果物に砂糖を加えて混ぜ混ぜすると、凍った果実デザートができる。シャリシャリしていて、口に入れると溶けるから、かなり評判がいい。
ただ放っておくと、すぐに溶けて果実水になってしまうため、料理人さんが容器に、保冷魔法をかけてくれる。
子供用は、取りやすいように、料理人さんがスプーンを使って、丸くしてから皿に並べている。それも、かわいいと評判が良いそうだ。
エシャナさん達の分は、料理人さんが綺麗に器に入れてくれた。しかも、カットフルーツも添えられている。エシャナさんの横に、ケモ耳の女の子がちょこんと座っているから、料理人さんも張り切ったのだろう。
僕は、トレイに乗せて、エシャナさん達のテーブル席に運んでいった。
「お待たせしました。あれ? あーちゃんも食べるの?」
「うんっ! あっ、私の分は無いの?」
ケモ耳の女の子は、厨房の方に視線を移した。食べ放題のテーブルへ、凍った果実デザートが運ばれるのを待っているのか。
「あっ、一つ多めにあるみたいだ。あーちゃんの分を料理人さんが用意してくれたのかな」
僕がそう言うと、彼女は、ピカピカな笑顔を厨房に向けている。ふふっ、かわいい。
「エドさん、これは一体、何だ?」
「エシャナちゃん、スプーンで少しずつすくって食べるんだよっ。真ん中がエドちゃんが作ったデザートで、周りは料理人さんが、かわいく飾ってくれたんだよ」
ケモ耳の女の子は、お行儀よく、いただきますを言ってから、スプーンを持つ。
エシャナさんも、彼女を真似をして、そっとすくって、口に運んだ。
「ひゃっ! つ、冷た……あれ? もう無くなったよ」
「うふふっ、エドちゃんのデザートは、魔法みたいでしょ。たぶん魔法を使ってるんだよ。食べ放題のお客さんに、大人気だよっ」
「エドさんは、こんなことも出来たのか」
「10日ほど前に、スキルレベルが上がったからです」
僕がそう答えると、エシャナさんは目を見開いた。やはり、そうだよな。僕は、レベル2に上がるまで1年半以上かかったのに、その後は、ほんの30日程度で、レベル3に上がった。MAX5だから、簡単には上がらないと聞いていたけど。
「エドさん、このデザートには、氷魔法を使っているのですね。こんな形で魔法を組み合わせるとは、驚きましたよ」
「無意識なんですが、そうだと思います。スウセイさんのお口に合えば良いのですが」
「とても珍しくて驚きましたが、慣れてくると美味しいですね。果実を潰して凍らせた後に細かく砕いているのかな。エドさんのスキルだからこそ、可能なのでしょうね」
「おかわりが欲しい人は、あっちのテーブルにあるよっ」
ケモ耳の女の子は、お手伝いも忘れない。
「そうだ、騎士団長。エドさんのスキルのことは知ってますよね? 新たに増えた能力が、俺達には理解できなかったんですよ。見てあげてください。発動条件もわからないし」
スウセイさんが、エシャナさんに頼んでくれた。僕も聞きたかったことだ。
「エドさん、どういう能力かな?」
「はい、魔石の生成です」
「は? 魔石?」
「はい、スキル詳細には、そう出ています。説明を出しても、魔石を生成するとしか出てこないんです」
「見せてもらっても良いか? しばらく前にも見せてもらったが」
「では、表示しますね」
僕がステイタスとスキル詳細を表示すると、エシャナさんは、また目を見開いている。毒薬が作れるからかな。
「これは驚いた。そうか! ソアラ迷宮のダンジョンコアを壺の中で寝かしつけたと聞いたが、その影響を強く受けた成長のようだな」
「あっ、ダンジョンコアのせい……」
「うむ。エドさんのスキルは、例が少ないから、わからない部分も多いが、終着点は、個人により大きな差がある。錬金協会に協力をしていた彼は、『混ぜ壺』のスキルMAXになったときには、あらゆる金属とマナの融合が可能となったらしい」
「それでガチャ壺を創造したのですね」
「あぁ、しかし、彼は魔石を生成することはできないけどな」




