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84、海の神様の使者さま

「人族のご飯? キミが食べるの?」


 僕には、ダンジョンコアの意図がわからなかった。ダンジョンコアは、人族のご飯に興味を持ったのだろうか。


 そういえば、以前、何を食べるのかを聞かれたことがあったっけ。壺の修理をした後に、ソアラ高原に送り届けたときだから、男の子だったけど。



「私じゃないよ。海の神様の使者が、ここにあるものだけで、人族が食べられる物が作れるかを知りたいみたいだよ」


「海の神様の使者? えっ? 神様?」


「キャハハハ、エドがびっくりしてる〜。海の子の迷宮には、海の神様の使者がいるんだよ。街に結界があったのに、気づかなかったの?」


「僕は、結界のことは、わからないから」


 女の子は、またケラケラと笑っている。ダンジョンコアは、僕が驚くと嬉しいのかな。



「エド、作ってみて! 5階層の魔物は、人族が食べられるモノだけにしたよ。冒険者が狩った魔物を使う?」


「うん、そうだね。って、持ってきたの?」


 天井から伸びたツタが、魔物をつかんで運んできた。白い砂浜に放り出したから、塩が血で汚れてる。


 だけど、すぐに血は、塩に吸収されたのか、消えていった。浄化されるのだろうか。



『ダンジョンコア、わしが精製した塩を汚すでない。魔物の血は、弱い人族には毒になるぞ』


 ええっ? この声って……。


「海の神様の使者なら、そんなのすぐに綺麗にできるでしょ。エド、早く作って」


「う、うん。じゃあ、少し野菜も……ええっ!?」


 天井から、ドサッと4階層に生えていた草が落ちてきた。野菜じゃないんだけどな。


「これでいい?」


「うーむ。僕なら使えるけど、この草は、人族が食べられるものじゃないんだ。むしろ、あっちに生えている野草なら食べられ……あ、ありがとう」


 ツタが、僕が指差した付近の野草を引き抜いて、白い塩の上に置いた。今度は塩が泥だらけだな。



 ミラックさんの方に視線を向けると、道の整備が進んでいるのがわかった。まだジョーモさんの姿は見えないけど、木を切り倒していた人達は、ミラックさんと一緒に立っている。


「みんなも食べるかな?」


「エドちゃん、海の神様の使者は、みんなが食べられるかを知りたいみたいだから、みんなの分を作るといいよ」


 ケモ耳の女の子は、泉を見て頷いている。彼女には、海の神様の使者の姿が見えるのだろうか。


「じゃあ、大きな鉢で作ってみる」



 僕は、ダンジョンコアが運んできた魔物を包み込むように、土魔法で深い鉢を作った。そして、その中に、ツタが引き抜いてきた野草を放り込む。


 鉢に触れ、長い棒を使って混ぜ混ぜを始める。


「エド! 塩を忘れてるよ!」


 げっ!? 女の子は、白い砂浜の塩をつかむと、鉢の中に放り込んだ。これは、塩が多すぎる。


「あーちゃん、悪いけど、泉の水を少し入れて」


「うん、いいよっ」


 ケモ耳の女の子は、魔法を使った。大きなおけを作って泉の水をすくうと、パシャッと鉢に入れた。少しって言ったのに……。


 頭の中のイメージが大きくかき乱された。僕は、集中して、修正していく。ドクッと胸が大きな音を立てて、一瞬、動作が止まる。すぐに治ったけど、これは……。



「わぁっ! いい匂いだねっ。シチュー?」


「うん。魔物をそのまま使ったから、ちょっと時間がかかったけど、完成かな」


「ジョーモちゃん、シチュー皿がたくさん必要だよっ」


 ケモ耳の女の子は、元気な声を出した。お腹が減っていたみたいだな。


「それなら、俺が作ろうか」


 ミラックさんは、すぐに、たくさんの木製の深皿を作ってくれた。すごい器用だ。スプーンもある。


「ありがとうございます。じゃあ、入れていきますね」


 最初の皿は、ダンジョンコアが取った。そして、泉にふわふわと運んでいく。海の神様の使者に渡したのか。



 二つ目からは、冒険者の手にわたったようだ。ダンジョンコアの壺が浮遊する場所で食べる気にはなれないのか、みんな、まだ食べていない。


 全員に行き渡ると、ケモ耳の女の子が食べ始める。すると、冒険者達は次々に食べ始めたようだ。


 僕も食べてみる。イメージよりも美味しい。この泉の塩を入れたことが原因だと感じた。



「エドちゃん、美味しいよっ! いつものエドちゃんの混ぜ飯も美味しいけど、これもすっごく美味しいよ」


「あーちゃん、ありがとう。たぶん、この塩のおかげじゃないかな。いつもは、僕のスキルが生み出すけど、海の神様が作ってくれた塩は、味が違うんだと思うよ」




『ふむ。わしが精製した塩が、人族に合うのだな』


「あっ、海の神様の使者さまが精製されたのですね」


 どこから声がするかわからないから、僕は泉の方を向いて、そう答えた。だが、シチューの鉢に入れてあったお玉が、動いている。誰かがおかわりをしている?


「海の神様の使者、その姿だと、エドには見えないよ」


 壺から顔を出した女の子がそう言うと、深い鉢のふちに乗っている小さな子供の姿が見えた。声の印象とはあまりにも違う。



『これで、見えるかの? む? なんじゃ?』


「使者ちゃんが小さいから、エドちゃんは驚いたんだと思うよっ」


「エド、びっくりした? キャハハハ、びっくりしてる〜」


 チビっ子達に見つめられ、一瞬、思考停止した。見た目とのギャップで、頭が混乱する。


「海の神様の使者さまは、若いのですね」


「エド、海の神様の使者は、みんな人族の子供みたいな姿をしてるよ。私は半分しか人族の姿になれないから、人族のご飯は食べられないよ」


「海の神様の使者さまは、人族のご飯を食べられるんですね」


「そうだよ。あれ? エドは少し成長したね」


 やっぱり?


「難しい混ぜ混ぜをしていたから、スキルレベルが上がった気がするよ。魔力量が少し増えたのだと思う」


 ダンジョンコアが、僕をジッと見ている。緊張して、シチューの味がわからなくなってきた。サーチをしているのだろうけど、睨まれているようにも見えて、落ち着かない。



『エド、この塩は、人族はそのまま調理に使えるか?』


 また、おかわりしてるよ。食欲旺盛な使者さまだな。


「ここの塩は、人族が普段使う塩とは、少し違うと感じました。料理人なら上手く調理できると思いますが、個人なら最初は失敗するかもしれません」


『ふむ、他の迷宮の使者が作った塩は、人族が舐めると、からくて喉を痛めると聞いた。どうすれば良い?』


「水に溶いた塩水を、調理に利用すれば、そのような失敗は減らせると思います。僕は料理人じゃないから、詳しいことはわかりませ……あっ」


 話の途中で、使者さまは姿を消した。



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