82、騎士団は監視ではなく護衛をしている?
錬金協会の人達とその護衛を4階層に残し、僕達は、5階層への階段を降りて行った。
迷宮の5階層だと思うと、少し怖い気もするけど、この迷宮は、4階層が通常の迷宮でいえば1階層なんだよな? そんなに強い魔物は、まだいないか。
それに、プラストさんを含めてSランク冒険者が3人もいるし、ギルド長や、元ナープラストだった人達もいる。しかもケモ耳の女の子は、弱い魔物は寄せ付けない。
ジョーモさんは、もうすぐAランクだと聞いたし、イアンさんはAランクだ。王都の騎士団に所属しているムロさん達は、やはりAランク相当の力があるはずだ。
僕だけが、圧倒的に弱いよな。
「エドさん、いきなり迷宮らしくなってるっすよ」
ジョーモさんが小声で教えてくれた。僕の目には、5階層は、密林のように木々が生い茂っているように見える。
先頭を歩いていたプラストさんは、後ろから他の人達が合流するのを待つようだ。僕達も階段の下で立ち止まった。
「こんな階層は、見たことないですよ」
「階層全体が道なき道になってるっす。マッピング能力がないと、歩けないっすね」
マッピング能力? あー、階層の地図を頭の中で描く能力だっけ。そんな能力は、魔導士じゃなきゃ無理だよな。
「ジョーモちゃん、匂いでわかるよっ」
「あーちゃんは、すごいっすね。俺達が迷子にならないように、頼むっすよ」
「うんっ! あ、でも、ダンジョンコアは、エドちゃんと遊びたいんだよね? 魔物もいるから、気をつけて進まないとね」
「あーちゃん、この階層の魔物は強いかな? ノワール洞窟でいえば、何階層くらいな感じ?」
「ん〜、あたしの匂いでは逃げないのもいるから、5階層くらいかな?」
「えっ? いきなりノワール洞窟の5階層?」
「エドちゃん、ここは5階層だよ?」
確かにそうだけどさ。
「ジョーモ、マッピングは不要だ。未踏破の階層は、こんなもんだろ。どの迷宮も、最初に入った冒険者が道を作るんだよ」
プラストさんは、目を輝かせている。未踏破の階層には、高位の冒険者はワクワクするのだろうか。ギルド長も楽しそうに見える。
「プラストさん、ここのダンジョンコアは植物なんすよね? 木々を傷つけても大丈夫っすか?」
「あー、そうだったな」
二人が同時に僕の方を見る。彼らはダンジョンコアに嫌われてるもんな。
「プラスト、この階層は、食える魔物だらけだぞ。海の神の意向なのかもしれないぜ」
食える魔物? 赤髪のミラックさんは、階層の魔物サーチを終えたみたいだ。
「だろうな。4階層は、野菜を育てられる。5階層で肉を狩ることができるなら、人族が迷宮に移住しても、食料には困らない」
「やはり、山の神が暴れているのは、人族が原因か」
すると、ずっと気配を消していたイアンさんが口を開く。
「神域とされる深い山の中に、冒険者が立ち入り、山の神が大切に集めていた何かを、持ち去ったようです。山の神が暴れているのは当然のことだと、亡霊達が話しています」
「兄さんは、テンディボの新人だったな? スキルは『古代魔術』か。陰陽道とかいう古い術式使いだったな」
ミラックさんがそう言うと、スウセイさんが彼を小突いた。ミラックさんは、ハッとした表情に変わった。二人とも、イアンさんが追放されたことを知ってるんだな。
「私は、どこにも所属していません」
「あぁ、貴族のゴタゴタに巻き込まれたんだったな。それで、王都の騎士団が、兄さんに付きまとっているわけか」
すると、ムロさんが近寄ってきた。
「俺達は、付きまとっているわけではありません。イアンさんの監視という形ですが、正確にいえば、彼の護衛です。イアンさんを犯人に仕立てようとした者がいるなら、必ず襲われますからね」
えっ? 護衛?
「なるほど。その若さでSランクの昇級試験を受け始めたキミは、私服での護衛か。ということは、相手は裏ギルドの有名な暗殺者だな?」
「請け負った人物は、まだ特定されていません。ただ、依頼人に正当な理由がなければ処罰されるため、いろいろと難しい問題もあります」
「殺された商人貴族には、敵が多かったからな。あぁ、さっき、3階層で、エドさんに突っかかっていた奴は、確かその商人貴族の分家の坊ちゃんだな。アイツから辿れるかもしれないぜ」
「はい、そのつもりです」
ムロさんは、Sランクの昇級試験を受け始めた? 僕と同い年だよな? 冒険者登録って、スキルを得てからじゃないのか?
「あーちゃん、ムロさんってすごいんだね。僕と同い年なのに、もうSランクになるのか」
「うん、ムロちゃんは強いよっ」
コソコソと、ケモ耳の女の子と話していたのに、彼らには聞こえたみたいだ。パッと僕の方に視線が集まった。
「エドさん、Sランクの昇級試験は多いからな。Aランクになると、受け始めることができるんだよ。彼がAランクでいる期間は、まだまだ長いはずだ」
プラストさんが、そう教えてくれた。
「そうなんですね。知りませんでした。僕はCランクになったばかりだから、短期間でAランクなんて、すごいですね」
「ん? あぁ、そっちか。ムロさんは、貴族だからな。冒険者登録は10歳から可能だ。普通はスキルを得た15歳からだけどな。若くて高位ランク冒険者になっているのは、みんな下級貴族だね」
「下級貴族?」
「あぁ、だから、彼は騎士をしているのだろう。務めがあるらしい」
「プラストさん、そういう話は、やめてください。俺は、平民です。俺を強引に引き取った叔父は、家を潰しましたから」
ムロさんも、壮絶な人生だな。
「あれ? みんな、どうして動かないの?」
僕達が階段の近くで話していると、大きめの壺が現れた。女の子は顔を出してない。
皆の視線が、僕に集まる。交渉役は、僕の役割だな。
「女の子かな? 僕達は、ちょっと困ってたんだ」
そう声をかけると、壺からピョコッと頭が出てきた。
「うん、私だよ。エドは何を困ってるの? この階層の魔物は弱いよ? エドの方が強いよ。泉で待ってたのに、なかなか来ないんだもん」
「泉があるの?」
「うん、あるよ。何を困ってるの?」
「この階層が、すごい密林だからさ。木を切って道を作らないと、迷いそうだなって思ってたんだ。でも、木を切っても、すぐに生えてしまうかもしれないからさ」
「ふぅん。あたしは、人族がどんな道が好きか、わかんないよ。どうしよう。エドが困ってる」
ダンジョンコアは、僕を泉に行かせたいらしい。上手く話を誘導しないとな。




