81、有名なSランク冒険者
僕達は、ソアラ迷宮の4階層に降りた。
先に降りた人達は、また呆けている。明るくて美しい草原が広がっていた。一番美しい季節のソアラ草原が、そのまま移されたかのような光景だ。いや、複数の季節が混ざっている?
「すごいな、ここは。あらゆる季節が閉じ込められているみたいだ」
僕が呟くと、近くの壁から大きな壺が出てきた。これは、女の子の壺だな。オリジナルのダンジョンコアの壺はひとまわり大きくしたから、すぐに見分けられる。
「エド、びっくりした?」
女の子の壺だけが現れた。だが、この子がすべての決定権を持っているから、他の壺がいなくても、脅威は変わらない。
「うん、驚いたよ。この辺は春の草原だけど、夏の花が咲く草原もあるし、奥にキラキラ光る湖は冬の湖だよね? ソアラ高原の一番綺麗な光景が、ぎゅっと詰まってる」
「うふふっ、エド、びっくりしてるー。うふふふふ」
女の子は、両手を口に当てて笑った。ダンジョンコアだということを忘れそうになる。
「この階層には、魔物はいるの?」
「上の高原にもいるネズミやホッパーがいるよ。気づかずに当たっただけで死んじゃうから、魔物というより虫だよね。でも、そういうのが居ないと、綺麗な草原が維持できないの」
「へぇ、ソアラ高原と同じ魔物しかいないなら、この4階層は、迷宮の中で、一番ホッと休憩できる場所になりそうだね」
「うん。人族は、ご飯を食べるでしょ? エドやアスカが、上の草原は気持ちいいって言ってたでしょ? だから、同じものを作ったよ」
ん? あー、割れた壺を修理して、持ってきたときのことか。
「男の子から聞いたの?」
「聞いたというか、私には聞こえるからね」
「そっか。うん、この階層は、すごく気持ちいいよ。お昼寝したくなる」
「うふふふ、びっくりした?」
ダンジョンコアの機嫌は、ますます良くなっている。これはチャンスだな。
「うん、すごく驚いたよ。でも、ホッパーやネズミがいるなら、昼寝は難しいかな」
「えー、どうしよう。でも、ホッパーを消すと草原がすぐに枯れちゃうし、ネズミを消すとゴミが溜まっちゃう」
女の子は、ちょっとオロオロしているように見えた。そろそろいいかな。
「あっ、そうだ! この階層に、人族の休憩所を作ってもいいかな? 魔物が入れない結界を作っておけば、その中で寝転べば、昼寝できるよ」
「エドに、そんなことできる? 結界の能力はないでしょ」
えっ……わかるのか?
「迷宮の見学に来た弱い人族の中に、休憩所を作る能力のある人達がいるはずなんだけど」
僕がそう言うと、女の子は錬金協会の人達の方に顔を向けた。彼らは、血の気が引いたようだ。青白い顔をしている。
「人族にしては魔力量が多いのがいるね。エドが、お昼寝できるようにできる?」
ダンジョンコアは、威圧の術を乗せたのだろう。錬金協会の人達は、何人かは気絶したが、アロンさんはニコリと微笑んで、口を開く。
「私達なら、エドさんがお昼寝できるよう結界を張り、簡易的な昼寝場所を作ることができますよ」
「ふぅん。それなら、弱い人族は嫌いだけど、エドの休憩所を作ってもいいよ。あっ、エドは冒険者だから、集団行動をするの。エドの仲間もちゃんとお昼寝できる広さにしなさいよ?」
「かしこまりました。お任せください。場所は、どのあたりがよろしいでしょうか?」
アロンさんは、すべてダンジョンコアに指定させるんだな。それほど、脅威を実感したのだろう。
「エド、どこでお昼寝したい?」
「ん〜、寒そうな場所は困るなぁ。5階層への階段は、どこにあるの? 5階層から戻ってきたときに、近くに休憩所があると嬉しいかな」
女の子は、キョロキョロすると、4階層の真ん中付近を指差した。あんな場所に下層への階段があるのか。
「あの丘だよ。春の花が咲いてるよ」
「綺麗な場所だね。丘の近くの平地に作ってもらってもいい?」
「うん、いいよー。弱い人族は、ここで仕事をさせておこう。エド、5階層に行くよね?」
よかった、お許しが出た。アロンさんも、ホッとした表情を浮かべている。
「じゃあ、弱い人族と護衛は、この階層で作業をしてもらうね。5階層?」
「護衛なんて、いらないでしょ。あっ、弱い人族は弱いから、ホッパーにも負けるのかな」
「うん、ホッパーにも、強いのがいるからね」
「ふぅん。いいよー。他の冒険者は5階層に連れて行こうよ。強い人族が魔物と戦うと、お得だもん」
「わかった。じゃあ、5階層に降りるね」
僕がそう返事をすると、大きな壺は、壁の中に消えて行った。
「エドさん、完璧ですよ。ありがとうございます。では、私達は、休憩所の仮設置を始めます」
アロンさんはそう言うと、テキパキと指示を始めた。錬金協会の人達は、もう疲れ切っているみたいだけどな。
「エドさん、4階層の記録は完了した。5階層に行くか。しかし、こんなに神経を使うことになるとはな」
ギルド長は、ふーっと息を吐いた。
「ダンジョンコアは、だいぶ理解が早いみたいですね。人族より、かなり知能が高いのかな」
「海の神が作った個体なら、当然だ。しかし、とんでもないエネルギー量だな。魔物化したダンジョンの深層にいる魔物よりも、圧倒的だ。これほどの迷宮なら、ダンジョンコアよりも深層の魔物の方が、エネルギーを持つのだがな」
ギルド長の話は難しい。見知らぬ冒険者が口を開く。
「この迷宮は、まだ深層の魔物は作られていないのではないか? ちょっと特殊な印象を受けた。1階層から3階層までの街に使われている結界は、あのダンジョンコアとは別の波長の結界だったしな」
「海の神の結界だろう。俺は、あらゆる結界の構造を分析できるが、あの街の結界は未知のものだった」
この二人は、Sランク冒険者なのかな。二人の話を聞いて、プラストさんが大きく頷いている。
「エドさん、この二人は、フリーでやっている変わり者だが、冒険者としての腕は確かだぜ。こっちの結界オタクがスウセイだ。そっちの赤髪はミラックだよ」
プラストさんにそう紹介され、僕は一瞬返事が遅れた。超有名なSランク冒険者だ。
「そんなすごい人達だとは……お会いできて嬉しいです」
「俺も、錬金協会の金の卵に会えて嬉しいよ。エドさんの壺のキーホルダーは、俺も持っている」
また、金の卵って……。
「おい、ミラック、そんな言い方をするな。エドさん、よろしくな。この迷宮のダンジョンコアの前では、俺達は無力だ。緊張が続いて大変だが、頼むぜ」




