80、話し方が難しい
「ちょっと待って」
新たに分けられたダンジョンコアの分身の入る壺に魔力を流しながら、僕は演技をすることにした。上手く誘導しないと、休憩所の仮設置などできそうにない。
「ん? エド、遊ばないの?」
「あのね、僕達は冒険者なんだ。迷宮内では団体行動をしないといけない決まりがあるんだよ。それに、弱い人族を連れている時は、冒険者が守らなきゃいけないんだ」
「じゃあ、弱い人族は殺す? 食べようか?」
いや、殺さないでー!
「キミ達に食べられると、弱い人族を守る冒険者の仕事が失敗になるから困るよ。僕達は、キミ達の迷宮の成長を邪魔しないように、互いに協力して探検するんだよ」
「ふぅん、でもエドは困らないでしょ? 食べちゃおうか」
食べないでー!
「ちょっと待って。僕も、困るんだよ」
「ん? エドも弱い人族を守るの? エドに酷いことを言ったじゃない。男の子は、放り投げずに食べることもできたんだよ? だけど、ここで食べるとエドの服が汚れるといけないから、あっちにポイっとしたんだよ」
ダンジョンコアの話は、錬金協会の人達にも当然、聞こえているだろう。プラストさんを馬鹿にしていた人達も、真っ青な顔をしている。
あっ、ジュートと呼ばれる錬金術師も、回復薬で治ったみたいだな。ブルブルと震えてるけど。
「あのね、男の子が街に訪ねて来たとき、僕は別の仕事をしていたんだ。弱い人族は、お客さんなんだよ。お客さんが減ると困るんだ」
「ん? 別の仕事? お客さん?」
「うん。僕は冒険者をしてるけど、食堂の手伝いもしてるんだ。食堂というのは、ご飯を食べる場所だよ」
「エドは、弱い人族に利用されてるの? 全部殺そうか?」
殺さないでー! 話し方が難しいな。
「えーっとね、利用されているわけじゃないよ。宿代を無料にしてもらうために手伝ってたんだけど、僕のスキルを使うから、僕の成長のためでもあるんだ」
「ふぅん、エドが利用してるなら、殺しちゃダメだね。エドが困るもん」
女の子は、男の子と顔を見合わせ、頷き合っている。宿屋の様子の情報共有だろうか。
さて、ここから、どう話を繋げようか……。失敗はできない。ダンジョンコアにとって人族の命なんて、すごく軽いみたいだもんな。
「うん、お客さんが減ると困るからね。迷宮も同じでしょ? たくさんの冒険者が来て、迷宮内の魔物と戦うことで、迷宮は冒険者が放つ魔法を吸収できるし、迷宮内の魔物は学習して少しずつ強くなる」
「ん? あっ、そうなんだ。魔物が弱すぎるって思ってたけど、人族と戦ってないから? あっ! 海の神様が言ってた難しい話が、わかったかも! 海の神様は、私達のダンジョンがいろいろな経験を積むと、魔物が強くなるって言ってたよ」
「実戦経験は、大事だからね。迷宮の魔物が学習したことは、迷宮の知識になるんじゃないかな? 人族は、個人の能力を鍛えることになるけど」
「そうだよ! きっと、そうだよ! エド、すごぉ! 海の神様がね、山の子は長い経験があるから、深層の魔物が強いんだって言ってたの。深層には魔力が溜まりやすいから、深くしなきゃって思ってたよ」
「迷宮は、深くなるほど魔物が強くなるよね。探索する冒険者も、弱い人族は浅い階層しか行けないけど、強い人族は深い階層に行けるよ」
「じゃあじゃあ、私達の迷宮が深いのは、強い人族が来るから、お得なの?」
「うん、強い人族は、階層が少ない迷宮を探索しようとはしないから、迷宮が深いと強い人族が集まるね」
目がキラッキラだよ。これで、冒険者が深層に潜ろうとしても、ダンジョンコアはお得だと考えてくれるかな。
「私達の迷宮をエドに見せるよ! 4階層に行こう! 弱い人族もお客さんだから、来てもいいよ。私は嫌いだけど、お客さんが減るとエドが困るから!」
「ありがとう。僕達は階段を降りていきたいんだけど」
壁に向かって行ったダンジョンコアは、慌てて戻ってきた。
「そっか。じゃあ、私達は壁で移動するから、エドは階段を使うといいよ。あっ、寝た子は、私が連れて行くね」
そう言うと、僕が持っていた壺は、ふわりと浮かんだ。そして、グンッとすごい勢いで、壁に向かって行く。女の子が引っ張っているのか。二つの壺は、壁の中に消えた。
「エド、はやくきてね! 4かいそうは、エドがすきだとおもうよ。おんなのこが、そういってた」
「僕が好きな階層? 楽しみだな」
そう返すと、男の子は、ふにゃっと微笑み、ビュンと壁の方へと消えて行った。
「エドさん、助かったよ。ヒヤヒヤしたが。では、ゆっくりと4階層へ移動しようか」
ギルド長が緊張しているのがわかる。ダンジョンコアの気分次第で、僕達なんて簡単に殺されるからだ。
「はい、移動しましょう。まだ休憩所の話はできてないですが、なんとか切り出してみます」
「あぁ、頼む。しかし、海の神ハルメシンが、街の近くに人族の避難所を作らせていたとは、驚いたな。これが、各地の湖が枯れて迷宮が誕生している理由か」
「そうですね。僕は、その神話は知らなかったんですけど」
「山の神オルケニウスが暴れている話は、数年前に我々も知った。いくつかの勇者パーティが、魔物化したダンジョンの調査をしている。山の神が暴れる原因を探すためにな」
「人族が原因なのでしょうか。だから海の神様が、人族の避難場所を作らせているのかも」
僕がそう指摘すると、ギルド長は、ハッとした表情を浮かべた。
「エドさんは、人をよく観察しているから、気付くのだな。確かに、そう考えるとすべてが繋がる。山の神は人族を滅ぼす可能性があるのかもしれない」
ギルド長は、そこまで話すと、冒険者達に合図をして、4階層への階段を降り始めた。
「さっき、ダンジョンコアに拘束された奴らは、一切逆らうなよ? 身体にはダンジョンコアの目印がついているからな。次は、確実に殺されるぞ!」
山の神オルケニウスと海の神ハルメシンの神話の話を始めていた、錬金協会の人達は、プラストさんの言葉で、シーンと静かになった。
アロンさんは、錬金協会の人達を安心させるためか、笑顔で口を開く。
「プラストさん、大丈夫でしょう? ダンジョンコアは、エドさんを気に入っているみたいですし」
「は? アロンさんは危機感が足りないですね。エドさんが失言すると、彼も俺達も全員殺される。ダンジョンコアにとって、人族は餌だからな。今は、エドさんが、幼いダンジョンコアのオモチャなだけだ! 誰かのほんのわずかな失敗で、全員が死ぬぞ」




