75、エド、17歳になる
それから、10日ほどが経った。
僕は、気がつくと17歳になっていた。ステイタスのスキル詳細を見たときに、偶然気づいたんだ。
王都の騎士のムロさんに、同い年になったと話したことで、ケモ耳の女の子にも伝わってしまったが。
彼女は、食堂の手伝いをするときに、彼女に喋りかけた人全員に、僕が17歳になったと話している。食堂のお客さんから、おめでとうと言われて、ちょっと恥ずかしい。
イアンさんは、ギルド職員を退職したときに、この街に借りていた部屋を解約したらしく、宿暮らしをしていたようだ。
彼は数日前から、僕達が泊まる宿屋フローラルに滞在している。下位冒険者や旅人だらけの宿屋だから、気楽だと言っていた。宿屋を変えたのは、新たな迷宮探索の同行を、ギルド長から正式に依頼されたからだと思う。
また、イアンさんが宿屋を変えたことで、王都の騎士団に所属する騎士も、交代で宿屋フローラルに宿泊している。イアンさんが要人を暗殺したわけではないとわかっていても、監視しないといけないらしい。
「エドさん、今夜から調査に行けるっすか?」
髪型が大変なことになっているジョーモさんが、昼過ぎに起きてきた。
「はい、大丈夫ですよ。夜に調査するのですか? ダンジョンコアが活動する時間ですけど」
「ギルド長は、一番危険な時間を指定したみたいっす。かなり大規模になるっすよ。錬金協会も同行するらしいっすからね」
ジョーモさんは、大あくびをしながら、厨房内に入ってきた。そして朝食のトレイを受け取ると、店員さんの休憩室で食べ始める。見慣れた光景だ。
「錬金協会も同行って、危なくないんですか?」
「プラストさんが、何人かのSランク冒険者を呼ぶみたいっすよ。それを聞いた錬金協会が、自分達も行きたいと言い出したらしいっす。それに、イアンさんも参加するから、王都の騎士団もついてくるはずっすからね」
「それなら、安心ですね。錬金協会は、新しい迷宮に関心があるんですか?」
「休憩所を作りたいんじゃないっすかね。ある程度の深さのあるダンジョンなら、浅い階層では躍動が起こらないっすからね」
躍動って、大変革だっけ? 階層が入れ替わったりするやつだよな。
「それで、ノワール洞窟には、5階層までの各階層に休憩所があるんですか。その先は知らないですけど」
「俺も、ノワール洞窟が何階層まであるかは、知らないっすよ。古くなると、ダンジョンの深層は特に、魔物が強くなるっすからね。人族では、Sランク冒険者でも厳しいと思うっすよ」
そうだよね。僕はノワール洞窟の6階層でさえ、死にそうになったからな。
◇◇◇
夕食を食べた後、僕達は冒険者ギルドへ行った。高位ランク冒険者は、ソアラ高原に現地集合するらしい。
イアンさんも直接行くと言っていた。ギルドには行きたくないんだろう。彼の監視をする王都の騎士も、直接ソアラ高原に行くことになる。
今回の調査には、モモさんは参加しない。食堂を手伝っていた僕が居ないと、混ぜ飯絡みのクレームが増えるからだと言っていた。でも、それだけが理由ではないと思う。宿屋の店主である彼女の父親が、許可しなかったのだろう。
「おぉ! エドさん、新たな魔道具をありがとうございます!」
冒険者ギルドに入ってすぐ、錬金協会のアロンさんが僕を見つけた。僕と手を繋いでいたケモ耳の女の子は、ジョーモさんの方へ逃げていった。やはり大人に囲まれることは、まだ怖いみたいだ。
「アロンさん、こんばんは。剣じゃなくてすみませんね」
「いえいえ、貴重な魔道具が創造できたのですから、ありがたいですよ!」
僕は、嫌味を言ったつもりなのに、アロンさんには通用しない。
「でも、あれは量産できないでしょう? 貢献できてないような気がしますけど」
「いえ、試作品が完成しましたよ。エドさんが創造した魔力貯蔵ブレスレットの劣化版です。全く同じ物を作るには、貴重な金属が必要になりますので、採算が取れません。そこで、劣化版を作りました。今回、高位ランク冒険者に、テストをお願いするつもりです」
アロンさんは、少年のように、目を輝かせている。王都の錬金協会の偉い人には思えないな。
「もしかして、そのために同行するのですか?」
「我々の主な目的は、休憩所の仮設ですよ。できたばかりの洞窟であっても迷宮ですからね。休憩所がない状態では、冒険者ギルドとしても、その場所のミッションは、受け付けられませんから」
へぇ、そういうものなのか。
「洞窟とは違って、迷宮は危険なのですね」
「はい、当然です。ただ、発見から、まだひと月ちょっとしか経たない迷宮ですので、階層は多いようですが、深層でも危険はないと考えております。あっ、ダンジョンコアが動き回る特殊な迷宮であることは、警戒すべきですが」
アロンさんは、これまでの迷宮、という過去のデータからしか見ていない。魔物が強いことも、プラストさんが報告しているはずだ。だから、Sランク冒険者を助っ人に呼んだのにな。
「皆さん、時間だ。これより、ソアラ高原にできたソアラ迷宮の調査に向かう。全体の指揮は、俺に任せてもらうが、迷宮内ではプラストさんに従ってくれ」
ギルド長が、全体の指揮か。プラストさんは、杖をついている。彼の足が治っていることは、かなり知られたと思うけど、杖を使うことで、まだリハビリ中だと思わせておきたいみたいだ。
ギルドに集まっていた半数以上は、錬金協会の人達だな。冒険者の大半は、錬金協会に雇われた護衛だろう。だから、純粋に調査をするメンバーは、少なく見える。僕達以外には、ナープラストだった冒険者が5〜6人いるだけだ。主戦力は、現地集合だけどね。
「調査の人数は、これだけですか? 俺達は、錬金協会の休憩所の仮設の護衛だから、不安ですね。やめようかな。俺はCランクだけど、護衛の多くはDランクですよね」
高そうな鎧を身につけた冒険者が、集まった人達を見回して、顔を歪ませている。
「いや、現地集合の冒険者もいるぞ」
「錬金協会は、新たな迷宮には、Eランクでも対応できる魔物しか居ないと言っていたけど、深いんですよね? 戦力不足じゃないですか?」
「心配はいらない。錬金協会に雇われた冒険者には、調査の手伝いはさせないからな。それに、プラストさんは、Sランク冒険者だ」
ギルド長はそう言ったけど、鎧の彼は、プラストさんの杖を見て、不安そうにしている。
「では、出発するぞ」




