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74、魔力貯蔵ブレスレット

「魔力貯蔵ブレスレット? こんな小さな金属で、魔力の貯蔵など……」


 イアンさんは、手の上の二つの細い腕輪をジッと見ている。サーチでもしているのだろうか。


 僕は、まだ空中に浮かんでいた文章の品物名を選択し、説明を表示した。読み上げるには長すぎるな。僕が要約して伝えようか。


 こんなに細いブレスレットだが、ちゃんと魔力を貯められるようだ。


 魔力を貯蔵する魔道具は存在するが、彼が言うように、こんな小さな魔道具ではない。非常用の魔力タンクとして、高級な宿屋に設置されているのを見た記憶がある。タンクの中には、魔力の吸収と放出ができる大きな魔石が入っているそうだ。


 魔力タンクは、多くの魔力を使う錬金協会には、複数設置されているらしい。だから錬金協会には、魔導士が魔力を売ることもあるんだ。



「イアンさん、そのブレスレットは、二つを左右の手首に装着して使用します。それを使えば、もう魔力の不安定さに悩まされることはありません」


「両手に装着するために、二つあるのですか」


「はい、そうです。イアンさんが使うすべての術は、そのブレスレットを通って、放たれることになります。また、魔道具を操作しようとしたときに、魔道具から魔力を吸収する逆流は、ブレスレットが止めるため、うっかり壊してしまうこともなくなります」


「えっ!? じゃあ……」


「はい、いわゆる魔力の制御用の魔道具だと考えてください。そのブレスレットには、左右それぞれに、イアンさんの魔力量分までを貯蔵できます」


「二つあるということは、私の魔力増量の2倍の貯蔵が可能なのですか」


「はい、そう説明が出ています。その魔道具は、イアンさんの体内魔力量が90%を超過すると、少しずつ貯め始めるようです。逆にイアンさんの魔力量が20%以下に減っているときは、ブレスレットから身体に戻すようです」


「そんな魔道具など、聞いたこともありません」


「ガチャ壺が、イアンさんの話を聞いて創り出したものです。僕のガチャ壺は、本当に困っている人にしか反応しません。そのブレスレットは、今のイアンさんに合わせた仕様になっていますが、魔力が馴染めば今後のイアンさんの成長に応じて、機能も少し変化するかもしれません。上手く使ってもらえたら、魔力切れのリスクも減らせると思います」


「まるで、私専用のオーダーメイドのようですね。そうか、これが、エドさんのスキルなのですね。すごいな」


 イアンさんは、さっそく両方の腕に、魔道具を装着した。ブレスレットという名前の通り、なんだかオシャレに見える。僕の腕輪とは輝きも違うよな。


 あれ? 消えた?



「すごい勢いで、私が身に纏う余剰魔力を吸収していますよ。装着していることを感じないくらいフィットしますし、透過魔法を使えば隠せますね」


 余剰魔力を身体にまとわせていたのか。


「隠したのですか?」


「はい。アクセサリーを身につけるのは、恥ずかしいですから」


 確かにそうだよな。僕も、オシャレなブレスレットは恥ずかしい。



「えー、イアンちゃん、似合ってたよ? でも、隠す方が、こっそりでカッコいいかも」


「ふふっ、そうですか? アスカさんにそう言ってもらえると、嬉しいですね」


 イアンさんは、ケモ耳の女の子の後ろに立つムロさんに、視線を向けた。その表情は、さっきまでとは違う。ギルド職員をしていた頃の彼の表情だ。


 その変化に気づいたムロさんが、口を開く。



「イアンさん、このまま逃げ回っていると、逆に疑われます。我々には、要人を暗殺した犯人の手掛かりを探すようにと、命令が下っています」


「王都の騎士が、私を探し回っていることは、亡霊達から聞いています。関わりたくないのですが」


「イアンさんが無実なのは、僕も証言しますよ。一緒に行きましょう」


 僕はそう提案したが、ムロさんが、手で制止するような仕草をした。部外者だからか。ケモ耳の女の子は、何か言う前に、ムロさんによって口を塞がれている。



「エドさん、その必要はありません。無断で申し訳なかったのですが、この魔道具には、音を拾う機能もあります。一連の話は、すべての騎士団長に聞こえています」


 盗聴されてた?


「いつから聞かれてたのですか? 今もですか?」


「エドさんが、支援局のガチャ壺を出したところからです。今も聞こえています」


「じゃあ、僕達に傍聴をバラしていることも?」


「はい。話が終わったときには、音を拾っていたことを伝える義務があります。無断で申し訳ありません。ですが、手間を省くためでもあります。ご理解ください。では、魔道具を切ります」


 ムロさんは、僕達の目の前で、パチンとスイッチを切った。そういう決まりなのか。



「じゃあ、私はこれで失礼しても構わないのですね」


「イアンさん、こちらを」


 ムロさんは、別の魔道具を操作して、紙を出したみたいだ。いくつの魔道具を持ってるんだろう。


「騎士団からの命令書ですか」


 さっと目を通した後、イアンさんは僕にも見せてくれた。この街トランクから出ることを禁止する内容だ。出る場合は、騎士団長の許可と、騎士の同行が必要らしい。


「容疑者として名前が上がった人には、本当の犯人が見つかるまでは、居場所がわかるようにしてもらいたいのです。容疑者を放免した後に、やはりその容疑者が犯人だったということがあるためです」


「ムロちゃん! イアンちゃんは犯人じゃないよっ!」


 ケモ耳の女の子は怒っているみたいだ。だが、騎士団長からの命令書に書かれてあることは、当然のことだとも言える。護衛中に、要人が暗殺されたのだから、騎士団の面目めんもくも丸潰れだよな。


 だが、ケモ耳の女の子には、そんな理屈は理解できないと思う。人族の駆け引きなんて、他の種族にはくだらないことに見えるよね。



「いつまでの命令ですか」


 イアンさんは、大きなため息をつくと、そう尋ねた。たぶん、犯人が見つかるまでだよね。


「ある程度の調査が終わるまでです。おそらく、ひと月ほど経てば、命令は解除されます」


「ひと月? そんなに長い間、街から出られないのですか。職員をしていた頃ならまだしも、私は冒険者なんですけどね」


「ミッションを受けられるなら、騎士が同行します。今回の件が片付くまで、俺達も、この街に足止めになりそうですから」


 ん? それなら、ある意味、好都合か。10日後に……。



「じゃあ、イアンちゃんも、迷宮の捜索隊ができるねっ! ダンジョンコアは、10回寝たらおいでって言ってたよ」



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