73、テンディボを追放された理由
「誰かが、イアンさんに罪をなすりつけたということですか!」
ムロさんは、正義感が強いのだろう。だが、彼の強い口調に、イアンさんは警戒したようだ。
「ムロちゃん、エドちゃんのお仕事の邪魔をしてるよ」
ケモ耳の女の子にそう言われて、ムロさんは、口を手で押さえた。彼女がよくやる仕草だよな。彼は幼少期をセルス村で過ごしたから、似ているのかもしれない。
「僕のガチャ壺に、追放の件を話してもらえますか? 追放ざまぁ支援ガチャなので」
「そうですね。エドさんのガチャ壺から何が排出されるか、興味があります」
僕達の周りには、立ち止まる人もでてきた。見せ物になってしまっているが、イアンさんが嘘をついてないことも、ガチャ壺が証明する。
「私は、ソアラ高原の迷宮で、職員としての限界を感じました。私は魔力が不安定なため、魔道具の操作ができません。冒険者を引率する上で、非常に不便なことなのです」
「魔力が不安定なのですか」
「はい、私のスキルのせいだと思います。『古代魔術』というスキルは、爆発的に魔力消費をする術が多いので、私の身体は常にマナを集めています。それが、魔道具に触れていても起こるのです。魔力を使っているつもりが吸収していたり、ボンと大きな魔力が流れることもあります。だから、魔道具を壊してしまうのです」
「なるほど」
魔力を流して使うべき魔道具から、逆に魔力を吸収してしまうなら、そりゃ、壊れるよね。逆流防止装置もないからな。
「退職後は、私は、以前から勧誘を受けていたテンディボというAランクパーティに、加入しました。変わったスキル持ちばかりのパーティだから、気楽だったんです。彼らは、私のスキルを理解し、ミッションに関しても、やりたくないものは断ることができて、居心地も悪くないと思っていました」
イアンさんは、急に辛そうな表情に変わった。僕は、ムロさんから聞いていたけど、彼に直接尋ねる必要がある。
「なぜ、追放されたのですか」
「昨夜、ちょっとゴタゴタがあったんですよ。昼に殺された商人貴族が私に、無茶振りをしましてね……」
「無茶振り、ですか?」
「はい、私が魔道具を操れないと知り、彼は私に、古い魔道具を強引に持たせたのです。持つだけなら壊れません。ですが、その魔道具は壊れないから使ってみろと強要されました。当然、断りましたが、テンディボへ多額の資金提供をする貴族の指示です。断り切れず、操作することになりましたが、一瞬で壊れました」
「良かれと思って、イアンさんに貸したのでしょうか」
「わかりません。ですが壊れたことがわかると、彼は豹変しました。高価な魔道具を壊すような愚か者は、テンディボに所属するべきではないと主張し始めたのです」
「その主張は、テンディボの方にですか?」
「その場にいた全員の前で、大騒ぎでした。大切な魔道具だったのかもしれません。私を追放しないと、テンディボへの資金提供を止めるとまで言い出したので、彼の怒りを鎮めるためにも、私は一旦追放されることになりました。商人貴族は、すぐに忘れる性格らしく、一年ほど経てば再加入できるようにすると、副団長が約束してくれたので、私は追放に応じました。ですが……」
イアンさんは、少し迷うような素振りを見せた。チラッと、ガチャ壺を見て、僕達の表情を確認したようだ。信頼できるかを試したのか。
「何か、あったのですか?」
「はい。私の追放は、副団長が決めたことでしたが、それを知った団長が怒ったのです。金の亡者に脅されたくらいで、団員を追放するなんてあり得ないと」
「イアンさんを想ってくれたんですね」
「そうですね。それはありがたいのですが、追放を承諾した私にも怒りが向きまして、追放を命令した商人貴族に、撤回させて来いと……。その結果として、資金提供を打ち切られても構わないとまで言われたので、私は昼前に、商人貴族の宿泊する宿屋へ行きました。王都の騎士に阻まれて、会うことができなかったのですが。そして、副団長の元に戻り、どうしようかと相談していたときに、この地の亡霊が騒がしくなりました」
壺は、ずっと白い。僕は大切な質問をする。
「イアンさんは、その商人貴族を殺してないんですよね?」
「私は、殺していません。私の追放は期間限定ですし、再加入の約束もありました。彼はテンディボにとって、重要な資金源でもあるので、まさか殺すなんてありえません」
壺は白い。それを見るイアンさんの表情も、少しずつ穏やかになってきた。足を止める人が増えてきたが、周りの人達は静かに話を聞いている。
不幸な冒険者の話、完了可能、という表示が少し前から出現している。もう話を終えてもいいかな。ガチャを引いてもらうと、このガチャ壺は消える。
「イアンさん、他に伝えるべきことはありますか?」
「私は、誰も殺していません。この地の亡霊達が、私の罪にされていると言っています。だが、商人貴族を殺したのは、オロロン公爵に雇われた裏ギルドの暗殺者だと、亡霊達が言っています」
「オロロン公爵は、殺された商人貴族と同じ宿屋に泊まっていたのですか」
「そうだと思います。私は、一度も会ったことはないので、どういう人物かはわかりませんが」
そこまで話すと、イアンさんは軽く頷いた。周りにも話を聞いていた多くの証人がいる。ガチャボタンを出現させるようか。
白い壺を左右にユサユサと振ると、壺が淡い光を放ち始め、目まぐるしく色が変わっていく。そして、真っ黒になったところで変化は止まった。
「ガチャのボタンが出現しました。どれか一つを押してみてください」
壺には、左から、武器、防具、魔道具の3つのボタンが出現している。
「あぁ、どうしようか。私は魔道具は操れないからな」
「ガチャ壺が、イアンさんの話を聞いて出したボタンです。何が出てきても、操れると思いますよ」
「それなら、魔道具にしてみますよ。武器も防具も、私には必要ありませんから」
イアンさんは、一番右のボタンを押した。すると壺の上部から、カプセルが飛び出す。カプセルが頭上でパカっと割れて消えると、小さな金属二つが、彼の手元に落ちてきた。
説明が出てきたので、僕はそれを読み上げる。
「イアンさんが引き当てたのは、魔力貯蔵ブレスレットです。それを使って復讐するも良し、売ってお金に変えても良しです。以上、追放ざまぁ支援局でした」
セリフが終わると、壺はパッと消えた。




