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72、対象者 ③ イアン

「全然、匂いがわかんないよ。隠れてるよー」


 ケモ耳の女の子は、イアンさんを見つけようとしてくれている。王都の騎士であるムロさんも、魔道具を使って探してくれているようだ。


 だが、イアンさんのスキルは、魔力を隠し、魔道具のサーチを弾くのだろう。



「あーちゃん、ムロさん、彼を見つけても、暗殺の話はしないでもらえますか? おそらく彼は逃げますから」


「うん、わかったよっ。あたしは、その話は知らないことにするよ」


「俺も、知らないことにします。さっきのダンジョンコアに関わっていたことを理由にしますよ。実際に、この連絡は、騎士団長の口から直接聞いたわけじゃないし」


「そうだねっ! それがいいよっ。あっ、でも嘘はダメだよ。エドちゃんのガチャ壺は、嘘を見抜くの」


「あぁ、知っている。エドさんは、錬金協会の金の卵と言われているからな。これまでの膨大な累積赤字は、もうすぐ解消されるらしいよ」


 ムロさんが難しい言葉を使ったから、ケモ耳の女の子は、首を傾げている。金の卵って何だ?



 僕は、道をジグザグに選んでいる。真正面に僕達が見えると避けられる気がしたから、角でバッタリ会うタイミングを見計らっている。


 よし! その角を左に曲がれば、ぶつかる。

 僕は勢いよく左へ曲がる。


 あれ? 居ない。僕の目には、スキルを使って隠れるイアンさんの姿は見えないのか。しかし、光は見える。腕輪に触れて情報を表示した。



 ──────────────────


【名前】 イアン(32歳)

【職業】 冒険者(Aランク)

【スキル】 古代魔術(レベル20)[MAX20]


 ──────────────────



 光に照らされる先に、彼は居る。

 僕は、後ろを振り返って、手を出した。


「イアンさん? 待ってください! Cランク冒険者のエドです」


 光が止まった。


「なぜ、私が見えるのですか」


「見えてないです。ただ、ガチャ壺が反応しています。僕は、追放ざまぁ支援局員でもあります。僕のガチャ壺は、真偽を見抜く力がある。話を聞かせてもらえませんか」


 イアンさんは術を解除したようだ。


 僕達を引率していた職員さんとは、まるで別人だな。もともと顔色の悪い人だけど、ひどくやつれた顔をしている。



「あっ! イアンちゃんだ! ソアラ高原の迷宮では大活躍だったね。イアンちゃんに助けられたって、みんな言ってるよ」


 ケモ耳の女の子が元気にそう言うと、彼は少し穏やかな表情をしたが、道での立ち話だからか、辺りを気にしているようだ。


「イアンさんには、本当にお世話になりました。ありがとうございます!」


「いえ、私は別に……」


 場所を移動しようかとも思ったけど、ここの方がいいか。多くの人から見えるし、話も聞こえるだろう。僕のガチャ壺が真偽を見抜くと言ったことで、彼は術を解除してくれた。彼は要人を殺してないと、僕は確信した。




「決まったセリフがあります。少しお付き合いください」


「は、はぁ」


 僕は腕輪に触れ、魔道具を起動した。そして、目の前に現れた文章を読み上げる。


「不幸な冒険者を発見しました」


「いや、私は……あっ、セリフですか」


 僕は、対象者であるイアンさんをしっかりと見て、頷いた。これで、ガチャ壺は対象者を認識するのだと思う。



「不幸な冒険者さんに説明しますね。突然の追放って、ムカつきますよね? 復讐したいですよね? そんなアナタを支援するのが、私達、追放ざまぁ支援局なのです」


 そこまでセリフを読み上げると、白い壺が出てきた。壺を手で持ち、イアンさんによく見えるように掲げる。


「この壺は、魔道具です。アナタの不幸な話を聞かせてください。それに応じてレア度が決まります。話が終わったら、ガチャを引くことができるのです。武器や防具そして魔道具の中から、不幸なアナタが復讐するために役立つ物が得られますよ」


 僕のセリフが終わるのを待っているのか、イアンさんは無反応だ。


「さぁ、アナタの不幸な話をしちゃってください」


 セリフは、ここまでだ。僕が沈黙すると、イアンさんは、ガチャ壺を見ながら口を開く。



「私は、追放されていませんし、そもそもパーティ加入などしていませ……へぇ、私のスキルも効かないのですね。これが、エドさんのスキルですか。壺無双とは、よく言ったものです。私のスキルが破られるのは、少し悔しいですね」


 白い壺は、赤く染まったが、その後、白に戻った。


「はい、俺のスキルレベルは、迷宮で上がったので、出来ることが増えました。以前の僕では、イアンさんのスキルを破れなかったかもしれませんね」



「エドちゃんは、壺に入ったダンジョンコアを寝かしつけることができるんだよっ!」


 ケモのの女の子が、ドヤ顔で割り込んできた。ムロさんにしーっ! と叱られて、ハッとした顔をしている。


「ダンジョンコア? あっ、キミは……」


 イアンさんは、少し警戒したようだ。ムロさんが、王都の騎士団に所属する騎士だと気づいたのか。



「ダンジョンコアは、さっき、僕を訪ねて来たんです。魔物と間違われていて、大騒ぎだったんですよ。彼は、街に入り込んだ魔物を探して、僕がいる宿屋に来たんです」


 すると、ムロさんも口を開く。


「イアンさん、俺は以前、王都で命を助けてもらったムロです。2日前から要人の護衛で、この街トランクに滞在しています。昼前からは、街に入り込んだ魔物騒ぎに対応していましたが」


「魔物じゃなくて、ダンジョンコアだよっ! ソアラ高原に連れてったんだよ」


 ケモ耳の女の子が喋ると、ヒヤヒヤする。だが壺の色は、白いままだ。嘘はついてないからな。


「そうですか。それで、王都の騎士団の人なのに、軽装なんですね」


「ん? ソアラ高原に行ったときは、ムロちゃんは、鎧を身につけてたよ。ダンジョンコアを持ってたのはエドちゃんだけど、危ないからねっ」


 僕だけでなくムロさんも、ヒヤヒヤしているようだ。壺の色は白いけど、イアンさんには気づかれたかな。


「私を探し出すために、軽装に着替えたのですね」


 ムロさんは、僕が持つ壺に視線を移すと、ガクリとうな垂れた。あーあ、バレてしまったな。


「俺が着替えたのは、エドさんの邪魔をしたくないからです。エドさんのガチャ壺が反応することは珍しいので……」


 壺は白い。ムロさんの顔も青白くなっている。


「私は、誰も殺していませんよ。だが、この地の亡霊達が、私の罪にされていると言っています。あの金の亡者を殺したのは、オロロン公爵に雇われた裏ギルドの暗殺者ですよ」


 壺は、白いままだった。


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