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71、逃げる理由と起こった事件

 路地裏で、ムロさんは軽装に着替えた。身につけていた鎧は、王都の騎士団のものだという。どこかに収納し、冒険者らしくするためか、地面の砂で、ズボンを汚している。


 僕には、イアンさんが逃げた場所は見えている。彼は、スキルを使っているらしく、ケモ耳の女の子は見失ったと言っていたけど。



「俺がいたからですね。すみません」


「いえ、だけど、騎士団の鎧を見て逃げ出すということは、何かがあったのでしょうね。要人の一人が暗殺されたのは、いつのことですか?」


 僕がそう尋ねると、ムロさんは少し迷ったようだが、意を決して、僕に魔道具を見せた。さっきの画面だ。


『要人の一人が暗殺された。犯人は、昨夜テンディボから追放された新人の可能性が高い。情報を集めてくれ』


「これは、騎士団長からの指令です。時間を見てください。ほんの十数分前です。騎士団長が昼休憩を取る前は、護衛対象は無事だったはずです。俺達が、門を破って街に侵入した魔物を探しに行くことになったのは、要人の一人から指示されたことです」


「えっ? 殺された要人ですか?」


「いえ、俺達に、街の安全に力を貸してやれと言った要人は、暗殺されていません」


 なんだか、護衛の隙をつくったようにも聞こえる。しかも、エシャナさんが昼休憩で離れた後の事件だ。ダンジョンコアが、暗殺計画に利用されたのか?



「さっき暗殺されたのなら、イアンちゃんは関係ないよね? 一緒にいたの?」


「暗殺された要人が、彼の追放の原因なんだよ。その要人は、昨夜、テンディボを呼び出していた。その時に、要人が使っていた魔道具を、彼が壊したらしい」


 魔道具を壊しただけで、パーティから追放されるのか?


「イアンちゃんは、魔道具の操作はできないって言ってたよ? だから、イアンちゃんが壊すわけないよ」


「俺もよくわからないけど、要人に命じられたんじゃないかな? 高価な魔道具だったらしく、それを壊したことで、要人が、彼はテンディボに所属する価値がないと騒いだんだよ」


「それだけで、イアンちゃんが追放されたの?」


「あぁ、かなり騒いでいたからな。彼を追放しないとテンディボへの資金提供は止めるとも言っていた」


 金持ちなのか。


「ひどいね」


 ケモ耳の女の子は、自分がナープラストから追放されたときのことを思い出したみたいだ。最近はマシになっていたのに、小さな身体が震えている。


 僕が手を出すと、キュッと握ってきた。冷たい手だ。



「イアンさんを追放させた人が暗殺されたから、イアンさんが犯人だと考えているのですか? 話を聞く限り、その殺された要人を恨んでいる人は、少なくないような気がしますけど」


「昼前に、追放処分の撤回をしてほしいと、彼が、要人が宿泊する宿屋に訪ねてきたんですよ。当然、俺達は彼を、その要人に会わせていません。その後、街に侵入した魔物の話を聞いた別の要人が、街の安全を守れと言ったらしく、俺達は魔物探しに出たのです」


「なるほど、それで、イアンさんに疑惑の目が向けられたのですね。でもイアンさんは、暗殺なんてしないと思いますよ」


「俺は、彼の人間性はわかりません。ただ、昨夜眠れなかったのか顔色が悪く、ゲッソリとしていて、何かを思い詰めているように見えました」


 イアンさんは、いつもそんな感じだよ? だが、そんなことを言っても仕方ないか。



 あっ、イアンさんが移動を始めた! 街から出るつもりか。街から逃げると、本当に犯人にされてしまう。


「とりあえず、僕が事情を聞いてきます。ムロさんは……」


「俺も行きます! 彼とは直接話したことはないので、顔バレはしていないはずです」


「ムロちゃん! イアンちゃんを捕まえるつもりなの?」


「俺は、事実を知りたい。さっきも言ったけど、以前、彼には命を助けられたことがある。彼の操る死霊術は、非常に有効だとわかった」


「死霊術じゃなくて、古代魔術だよっ」


 イアンさんも、ハメられたのだろうか。その要人を暗殺するには、イアンさんのスキルが邪魔だったとしたら……でも、魔道具を渡して追放しろと言ったのは殺された要人か。


「とりあえず、急ぎますね」


 僕は、イアンさんが向かっている南門へ先に着くために、全力で駆け出した。




 ◇◇◇



 南門に着いた。まだイアンさんは、見える距離には来ていない。彼は、王都の騎士を避けながら歩いているようだ。


 走ってきた僕達に、門番は怪訝な顔をしている。何か、言い訳が必要だよな。南門の先には何があったっけ?



「キミ達、何の用だ?」


「あたし達は、探してるのっ!」


 しまった。ケモ耳の女の子は、嘘をつけない。


「ん? 何を探している?」


 返事をしようとしたケモ耳の女の子の口を、ムロさんが塞いだ。


「それは言えない。門番には関係ないことだ」


 ムロさんも、何も良い考えが浮かんでないみたいだな。門番の視線は、ケモ耳の女の子の髪留めに向いた。あっ、そうか。見慣れていたから気にならなかったけど、真偽を見抜く壺の簡易版があるから、嘘をつくとバレるんだ。


「は? 怪しい奴らだな」


 ここは、僕が話すしかないな。



「門番さん、僕は、支援局員をしているエドといいます。今、ガチャ壺の反応があった人を探しています」


「おおっ! 追放ざまぁ支援局のエドさんか。こんなに若い少年だったとは驚きだよ。その二人は見学人か? 支援局員は、よく冒険者を引き連れているよな」


 僕の名前だけは、有名みたいだ。


「この二人とは、さっき一緒にソアラ高原に行ってたから、そのままついて来てくれてるんですよ」


「あぁ、そういうことか。南門からは、俺の昼休憩後は、冒険者らしき人は出ていかなかったよ。この時間に頻繁に出入りするのは、商人か旅人だ」


「そうですか。じゃあ、他を探します」


「もし不幸そうな冒険者が出て行こうとしたら、支援局員が探していたと言っておくよ」


 僕は返事はせず、軽く会釈しておいた。門番さんとしては、親切心からのことだろうけど、不幸そうな冒険者みんなに声をかけられても困る。


「ガチャ壺に反応しないと、ガチャは引けないんだよ。ねー?」


 ケモ耳の女の子は、そう言うと、僕の顔を見た。そうか、誤解させたままではマズイか。


「門番さん、彼女の言う通りです。ご親切にありがとうございます。だけど、自力で探します」


「へぇ、そうかい。まぁ、次の魔道具を期待しているよ」


 僕は、再び会釈すると、イアンさんが歩いている通りへと向かった。



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