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68、すぐに泣くダンジョンコア

「あーちゃん、ダンジョンコアが出歩くわけないだろ。迷宮にいるエネルギー体だぞ?」


 王都で騎士をしているムロさんは、ケモ耳の女の子の知り合いのようだ。普通の人族に見えるけど。


「ムロちゃんは忘れたの? ノワール洞窟で、ダンジョンコアの分身に追いかけられたでしょ」


「いつの話だよ?」


「ん? ムロちゃんが、あたしくらいの背の頃かな」


 幼馴染なのか。


「そんな、4〜5歳の頃のことなんて、覚えてないよ。俺は、もう17歳になったんだからな」


 あっ、僕と同い年だ。僕も、もうすぐ17歳になる。彼は鎧を身につけているためか、随分と大人に見えるな。



「あの、我々にも理解できないのだが」


 他の騎士達は、まだ剣を抜いたまま、警戒している。


「剣は、ダメっ! あたしも抑えられないよ。敵意を向けると、街の人もみんな死んじゃうよ」


 ケモ耳の女の子にそう言われても、騎士達は剣を収められないみたいだ。ただの魔物だと思っているからだよな。



「皆さん、剣を収めてください。今、僕が持つ壺の中で、眠っているようです。非常に強大なエネルギーを感じます。信じられないなら、誰か壺に触れてみますか?」


 僕がそう言うと、すぐにムロさんが手を出した。壺の底に触れた彼は、バーンと弾き飛ばされた。鎧を身につけてなかったら、大怪我をしそうなほどの勢いだ。


 だが、壺の中にいる幼児は眠っている。悪意を感じると、無意識で吹き飛ばすのか。



「クッ、なぜ、エドさんは平気なのですか」


「僕のスキルです。王都では壺無双と呼ばれるそうです。まだスキルレベルは低いですが、壺の中に入ってくれている間は、制御できます。中身は、ソアラ高原に新たに出現した迷宮のダンジョンコアです。正確に言えば、ダンジョンコアの分身かもしれません」


「ダンジョンコアの分身? ダンジョンコアが迷宮から出ることは、ありえません。それにエネルギー体のはずでは……」


「初めて見たときは、皆は光に見えたそうです。だけど壺に入っていたから、僕の目には、丸いサボテンに見えていました。そして今は誰の目にも、人族の幼児に見えるようです」


 僕の説明で、騎士達は剣を収めた。何が彼らを信用させたのかはわからないけど。あっ! 騎士団長が来たからか。




「エシャナちゃんだっ!」


「アスカさん、久しぶりだな。私の部下が騒がせて申し訳ない。だが私自身も、誕生したばかりの迷宮のダンジョンコアが、迷宮から出歩くとは、にわかには信じがたい」


「エシャナさんも、壺に触れてみますか。今は眠っているみたいですよ」


 僕がそう提案すると、彼女は静かに首を横に振った。


「いや、その必要はない。私は、アスカさんやエドさんを信用している。それに、ソアラ高原の迷宮で、ダンジョンコアが捕らえた人族を沼地に埋めていたという報告書も、読んでいる。ダンジョンコアが自由に動き回るために、壺を利用していることもな。極秘扱いだったため、部下はそのことを知らない」


 エシャナさんがそこまで話すと、騎士達は驚いた顔をして固まっている。



「エシャナちゃん、この子は壺が割れたから、エドちゃんに直して欲しくて、ここまで来たみたいだよっ。ダンジョンコアは、二人いるよ。沼地に人族を埋めたのは、この子じゃなくて、もう一人の方だよ」


「壺の修理か?」


「先程、修理しました。ダンジョンコアは、夜行性らしく、今は泣き疲れて眠っています」


「は? 泣き疲れて?」


「はい、ギャン泣きでした。壺が直ったことで安心して、眠くなったようです。中を覗いてみますか?」


「いや、ダンジョンコアを覗くなど、そんな愚かなことはできない。下手をすると街ごと吹き飛ばされるではないか。人族がダンジョンコアにかなうわけがない」


 僕には、ダンジョンコアがどれくらいの脅威なのか、イマイチわからなかったけど、今のエシャナさんの説明を聞いて、冷や汗が出てきた。



「エシャナちゃんっ、護衛のお仕事は終わったの?」


「いや、今は食事に出てきただけだ。別の部隊が要人の護衛をしている」


 ケモ耳の女の子は、シュンとしている。エシャナさんと、もっと話したかったのかな。




「ふぇっ、ふぇ〜っ」


 あっ、起きた。僕は、壺に緩やかに魔力を流した。壺の中に穏やかな魔力の流れが起こっているはずだ。


 周りは、シーンと静まり返っている。ケモ耳の女の子も、少し警戒してるからか。



 ダンジョンコアは、壺からピョコっと小さな頭を出した。そして、キョロキョロしている。


「エド、さっきとちがう〜」


「ここは宿屋だからね。たくさんの人が出入りするんだよ」


「ふぅん。ぼく、かえる〜。あっ、エドもくるー?」


 これは、どっちだ? 断ると泣くか。


「転がっていくと危ないから、迷宮まで送って行こうか?」


「ん? あぶなくないよー」


 いや、人族が危ないんだよ。


「どこかにぶつかって、また壺が割れると困るでしょ? 街の中には、堅い金属があるからね」


「あぶないねー! あぶないよー! どーしよ。うっ、うっく、ふぇっ、ぶぇっ」


「僕が持っているから大丈夫だよ」


「ほんと?」


「うん、もし何かがぶつかっても、僕ならすぐに直せるから、安心していいよ」


「エド、すごぉ」


 目を丸くして驚いてくれてるけど、さっきも直したのを忘れてるのか?




「モモさん、ちょっと外出します。料理長に伝言をお願いできますか」


「わかりました。でもソアラ高原の迷宮は、まだ立ち入り禁止ですよ。危険です」


「モモちゃん、あたしも行くから、大丈夫だよっ。あっ、ムロちゃんも行く?」


 ケモ耳の女の子が来てくれるのは嬉しいけど、王都の騎士を誘うのは、まずくないか? たぶん、ムロさんが信じてないから、見せたいのかもしれないけど。


「いや、俺は仕事があるから」


「うむ、そうだな。アスカさんと知り合いなら、キミ達も同行してもらおうか。我々としても、各地の観察ができる好機だ。私はさすがに離れるわけにはいかないがな」


 エシャナさんは、騎士団長だもんな。



「騎士団長、それでは、俺一人だけ抜けさせてもらいます。迷宮内に立ち入りは出来ないでしょうが、サーチ能力もありますので」


「あぁ、わかった。エドさん、彼を連れて行ってくれ。まだ若いが、優秀な騎士だ」


「わかりました。ではこのまま、ソアラ高原へ行きますね」


「そんな服装で行くのか? あっ、手が離せないか」


「装備はアイテムボックスに入れてあるので、大丈夫です。あっ、今、食べ放題の時間なので、良かったら奥の食堂へどうぞ」



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