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67、予期せぬ訪問者

 それから、しばらくの時が流れた。


 僕は、ほぼ料理人のような毎日を過ごしていた。スキルレベルが上がって、魔ポーションを作れるようになったはずだから、試したい気持ちが日に日に強くなっている。


 だが、必要な素材がわからない。ケモ耳の女の子は、ビーウルフ族の魔ポーションだから、ノワール洞窟の10階層にある集落に行けばいいと言うけど、今の僕では、たどり着ける気がしない。


 ソアラ高原の迷宮の成長は、発見されてから20日以上経った今も、まだ続いているようだ。あの迷宮に素材があるかもしれないと、僕は微かに期待している。



「エド、ごはんを頼む」


「はい、了解です」



 混ぜ飯のスピードが上がったから、食堂の手伝いは、時間に余裕ができるようになった。


 そのため、お子様用の食べ放題のテーブルに群がる大人を排除することが、僕の新たな仕事になっている。ケモ耳の女の子に話しかける大人が多くて、子供達が料理を取る妨げになることが多いんだ。


 ケモ耳の女の子は、お子様用の食べ放題テーブルのお手伝いを続けている。冒険者に囲まれると震えていた彼女も、だいぶ慣れてきたようだ。




「エドさん! ちょっと来てください!」


 フロントから、モモさんの大きな声が聞こえた。非常事態なのか。そういえば、さっきから騒がしい。


 僕は慌てて、厨房から飛び出した。



 宿屋のロビーに行くと、何人かが倒れている姿が、目に飛び込んできた。驚いてモモさんの姿を捜すと、彼女はカウンター内にいた。よかった。


 僕の後ろから、ケモ耳の女の子も駆けつけた。彼女がいてくれると心強い。


「一体、どうしたんですか」


「エドさん、あれが……」


 モモさんが指差した先には、大きな壺があった。正確には、大きなひびの入った壺だな。これは、まさか……。



 壺の中から、小さな人の頭が出てきた。ケモ耳の女の子よりもさらに幼い子供だ。ほぼ赤ん坊だな。壺にハマったのだろうか? いや、だが、この壺は……。


「エドっ! ふぇぇんっ!」


 僕の顔を見た幼児が、泣いてる!? しかも、ちゃんと発声できている。


「どうしたの? 倒れている人達は……えーっと、どういう状況ですか」


「その壺を静止しようとした人が、弾き飛ばされたんです。外にも倒れている人がいるようです。なぜか私の顔を見て、動きが止まったんですが……」


「えぇぇん、びぇえっ、うぐっ、ふぇぇえ」


 泣き止む気配がない。


「モモさんの顔を覚えていたんですね」


「えっ? 私は、こんな赤ん坊は知らないですよ。あっ! エドさん、近寄ると危険です!」


 慌てるモモさんに笑顔を向け、ケモ耳の女の子の方を確認してみると、うんうんと頷いている。やっぱりそうだよな。



 僕は、幼児が入った壺に触れた。


「壺が割れちゃったんだね」


「うぇっ、ふぇっ、わ、われぢゃっだぁ〜」


「そかそか。新しいのを作ろうか? それとも修理する方がいい?」


「なおしてほしいぃ〜、ふぇっふぇっ」


「わかった。持ち上げるよ?」


 僕は、ひび割れた壺に魔力を纏わせて、持ち上げる。やはり軽いな。この子が軽くしているようだ。僕の魔力がひび割れに入り込むと、壺は元に戻る。簡単な修復だ。さらに強化のために魔力を流した。



「直ったよ。もう大丈夫だ。ずっとこの壺を使ってくれてたんだね」


 僕は、壺を両手で抱えたまま、話しかけた。壺の中には、とてつもなく強大な魔力を感じる。以前の状態とは比べ物にならない。


 もしものことがあるといけないから、僕は手を離せないな。壺の中に入ってくれている間は、なんとか暴走させずに、抑えることができる。


「うぐっ、うん、あっ! なおってる。エド、すごぉっ」


「僕が作った壺だから、修理もできるよ。人族の街に入るために、人族の姿になったの?」


「ぼくは、すこしまえから、こんなすがただよ。もうひとりは、おんなのこだよ。おんなのこのほうが、えらいんだよ。ぼくは、いつもおこられるんだ」


 二人もいるのか? あっ、そうか。壺をもう一つ作らされたときに、分けたとか言ってたっけ。


「そっか。女の子は、お留守番してるのかな?」


「うん。ぼくは、ツボがわれたから、あまりうごけなくなって、エドにたすけてって、いいにきたよ」


「僕の居場所が、よくわかったね」


「においがあるから、わかったよ。でも、ツボがわれてるからコロコロできなくて、ふわふわしてたら、おいかけられたよー」


 転がれないから、浮遊してきたのか。


「門番さんがよく街に入れてくれたね」


「ん? ふっとばしたよ。じゃまされたら、エドをさがせないから」


「吹っ飛ばした?」




 宿屋フローラルの前にいた人だかりが、道を開けるように動くのが見えた。カチャカチャと音を立てて、鎧を身につけた人達が、警戒しながら宿屋に入ってくる。


「強力な魔物が入り込んで……ん? この宿屋ではないのか?」


「あっ! ムロちゃんだっ。エドちゃん、あの子は、王都で騎士をしてるんだよ。どうして、この街にいるの?」


 ケモ耳の女の子の知り合いか。


「あーちゃんか? キミこそ、こんな人族の街で何をしてるんだよ」


「あたしは、Dランク冒険者だよっ。どうして宿屋に来たのに、後ろの人は剣を抜いてるの?」


「冒険者? それならわかるだろ。ソアラ高原から来た魔物が、門をぶち破って街に入り込んだらしい。街の中でも、何人もの冒険者が負傷させられた。小さな魔物らしいが、この宿屋ではなさそうだな。俺達は、要人の護衛で来ていたんだよ。しかし……」


 ありゃ……。ケモ耳の女の子の知り合いは、微妙な空気感を察したようだ。隠さない方がいいな。



「ムロさん、初めまして。僕はエドといいます。目撃のあった魔物らしきものは、魔物ではありません。僕の所に、修理を依頼しに来ただけのようです」


「エドさん? 支援局員のエドさんですか」


「はい、追放ざまぁ支援局員をしています。冒険者としては、Cランクですが」


「おぉ! 錬金協会の金の卵ですね。噂は聞いています。えーっと、今のお話は……」


 金の卵?


 彼は、僕が両手で持っている壺に視線を移した。幼児はすっぽり壺の中に入っている。あっ、寝てる。夜行性だっけ?



「ムロちゃん! ソアラ高原から来た子を討伐しようと思ってるの?」


「もちろんだ。街に入り込む魔物は、見過ごせないからな」


「ダメだよ! 敵意を向けるのもダメ! そんなことしたら、この街が一瞬で消し飛ぶよ!」


「あーちゃんは、何を言ってるんだ?」


「エドちゃんを訪ねてきたのは、ソアラ高原の迷宮のダンジョンコアだよ。魔物じゃないよ!」



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