65、冒険者ギルドの会議室へ
その日の夕方、僕達は冒険者ギルドにミッションの終了報告に行った。
今、少し待つようにと言われて、1階のカウンター横で待っている。この時間は終了報告に来る人が多い。幼馴染と会うんじゃないかと思うと、落ち着かない。
明け方からずっと起きている僕は、終了報告を早く済ませたかった。でも、ジョーモさんに皆で行く方がいいと言われて、モモさんの仕事が終わるのを待っていた形だ。
あっ、もちろん、モモさんにはそんな説明はしていないと思う。ジョーモさんは、モモさんには僕の食堂の仕事が終わってからと伝えた、と言っていた。
料理長は、僕に大量の混ぜ飯を作らせた。昨日、混ぜ飯を目当てに来たお客さんからのクレームがあったからだと言っていたっけ。
僕は、料理人じゃないんだけどな。
スキルレベルが上がった効果は、凄かった。今までなら、大きな鍋で混ぜ飯を作ると、少し腕がだるくなるほど混ぜ混ぜをしたが、今は、量による時間差はほとんどなくなっている。
それを知った料理長が調子に乗って、どんどん素材を出してきたから、普通の料理のための材料が足りなくなったらしい。今日は、夕食時間のメニューも、僕の混ぜ飯がメインになりそうだ。
ジョーモさんは料理長に、僕を使い過ぎだと文句を言ってくれたけど、僕としては、たいした負担にはなっていない。ビーウルフ族の魔ポーションを飲んだことで、魔力量が減らないからかな。
「あぁ、待たせたな。奥へ入ってくれ」
えっ? まさかのギルド長?
僕達がカウンター内に入ると、錬金協会の制服を着た人達が、地下への階段のある会議室からゾロゾロと出てきた。一瞬、身構えたけど、ただの偶然だったみたいだ。
「エドさん、お疲れ様ですね。その後は、新たな対象者は見つかりませんか?」
アロンさんもいたのか。ギルドの会議室へ入ろうとしたところを、後ろから声をかけられた。
「アロンさん、お疲れ様です。なかなか反応はないですね」
「そうですか。次のガチャ壺からの排出品は、剣だと嬉しいのですが……」
「錬金協会は、そういう誘導をするんすか? もうエドさんの貢献は、充分じゃないんすか? 支援局員の何人分の儲けを出したんすかね?」
ジョーモさんが、すぐに反論してくれた。彼は、アロンさんのことを、あまり良く思ってないもんな。
「そうですねぇ。エドさんの貢献は、一昨日までのデータですが、平均的な支援局員の1800倍ほどの利益を稼いでもらってますね。今日あたりには、2000倍を超えるでしょう」
「は? 2000人分ってことっすか? 支援局員は、そんなにも居ないっすよね」
「私が担当したのですから、当然、断トツの1位であり続けていただきたいのです」
「何すか! その強欲さは!」
「もちろん、エドさんにも、売上金の一部をお支払いしておりますよ。次は、是非とも剣でお願いしたいです」
アロンさんは、軽く頭を下げ、カウンターの外へと出て行った。
ジョーモさんは睨んでいたけど、僕は、アロンさんが強欲だとは思ってない。それにアロンさんは、冒険者がいる前では、わざと悪役ぶっている気がする。
追放ざまぁ支援ガチャが、錬金協会の慈善事業だと言われていたのは、全く利益が出ていなかったからだろう。王都から来たアロンさんには、黒字化する義務があるんじゃないかな。
「どうして剣がいいのでしょうか」
僕は、ジョーモさんに尋ねたつもりだったけど、ギルド長が口を開く。
「剣が一番儲かるからだ。ちょっと最近、おかしなことが続いているからな。そのことも含めて話す。適当に座ってくれ」
会議室の中には、プラストさんもいた。テーブルには、冷めたティーポットがある。食器を片付けた跡も残っていた。ギルド長と長い時間、話していたのかな。
「おお、キミ達が来るのを、朝からずっと待っていたよ。エドさんには、治療代を払わないとな」
朝から待ってた?
どこに座るべきかわからない僕に、モモさんがそっと教えてくれた。こういう所は、お姉さんだよね。
「いろいろと調べた結果、エドさんには金貨10枚を支払うのが妥当だろうという結論になった。俺の足を治療してくれてありがとう。少ない気もするが、もらってくれるかな」
ひぇっ、金貨だ! 見た目よりもズシリと重い。
「は、はい。でも、こんな大金、どうしよう……」
「ギルドで入金もできるよ。だがエドさんは、それを使って、防具を整えるべきだと思うぞ。Cランク冒険者なんだからな」
「は、はい」
た、確かに……。だが、金貨を握る手に、変な汗が出てくる。こんな大金を手にする日が来るなんて。僕が生まれた村なら、金貨10枚もあれば、小さな中古の家が買える。
「金貨10枚くらいで、何を緊張した顔をしてるんだ? 錬金協会から、その何倍も入金があるんじゃないのか」
ギルド長にそう言われ、報酬口座の残高を全く確認してないことに気づいた。宿代も無料にしてもらってるから、お金を使うことがないもんな。
僕は、自分で残高確認をしたことがあったっけ? 左手の腕輪に触れながらそう考えているとと、報酬口座の残高が出てきた。
「うわぁ! あ、すみません」
今、僕の報酬口座には、680,753,400という数字と、金貨680枚、銀貨75枚、銅貨34枚と表示されている。
「エドさん、残高確認をしたんすか?」
「はい、僕は、盗賊に怯えなければいけないほど、お金持ちになってます」
「まぁ、当然っすよ。エドさんは命を救ってるんすからね。俺も、まだ少しかかりそうっすけど、エドさんのおかげで、だいぶ生き方が変わったっすから」
「僕は、そんな、何も……」
「エドちゃんは、あたしにも優しいよっ。臭くても気にしないで、あたしを助けてくれたもん。今も、怖くなったら助けてくれるもんっ」
ジョーモさんとあーちゃんにそう言ってもらえると、僕は泣きそうになってしまう。僕は、ちゃんと、支援局員の仕事ができてるんだな。
あれ? なぜか、モモさんは暗い顔をして、うつむいている。何か嫌なことを言ってしまったのだろうか。あっ、金持ちになったと言ったから、嫌味な奴だと思われたのかもしれない。
「ん? モモちゃんが暗い顔をしてるよ? どうしたの?」
「えっ? あ、いえ……。エドさんがウチの宿屋から出て行ってしまうなぁと思って」
「僕は、出て行きませんよ? 宿屋フローラルは、僕の居場所なんです!」
僕が即座にそう返すと、モモさんはホッとしたような笑顔を見せてくれた。




