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60、だぁれ?

「こ、これは……」


 プラストさんの右足の付け根から、白く曲がりくねった木のような鳥の脚を押し出すように、うにゅ〜っと白っぽいものが生えてきた。


 やはり原状回復って、こういうことだったんだな。右足を失う前の原状に戻すポーションだ。原状回復というより、ツルンツルンな感じだけど。


 プラストさんは、何も話さない。まだ痛みがあるのだろうか。



「原状回復ポーションです。この階層の土が、プラストさんの魔力を含んでいたので、使わせてもらいました」


「原状回復? 元に戻すってことか? いや、だがこれは……」


「女性の足みたいに、白くてツヤツヤですね。肌の感じは、赤ん坊のようです」


 モモさんはそう言うと、プラストさんの足に触ろうとして、ハッと手を引っ込めた。女性を惹きつけるほど、ツルツルでツヤツヤなのかな。



「プラストさん、右足の感覚はありますか? 上手くできたか不安です」


「感覚は普通にあるぞ! しかし、足の裏に鳥の脚が生えてるな。これは切り落とすか」


「いえ、しばらくすると、自然に落ちるはずです。今はまだ必要だから、くっついてるんですよ」


「へぇ。しかし、すごいポーションだな。弱毒が沁みて痛かったのは、神経を作っていたからか。右足全体が、まだジンジンしてるけどな」


 プラストさんは、右足にソッと触れて、感触を確認しているようだ。まだ動かせないのか、右足は動かない。



「プラストさんって、こんなモチ肌なんすか?」


「んなわけねぇだろ。毛も生えてないし、モモさんが言うように、赤ん坊の肌みたいだな。おっ! 一気に血が流れていくぞ」


 プラストさんがそう言った直後、足の裏に生えていた白い鳥の脚が、地面に落ちた。足の色が少し変わってきたな。さっきまでの異常な白さはない。


「動かせますか?」


「あぁ、動くぞ。嘘みたいだな。ツルンツルンだけどよ」


 プラストさんは、義足から靴を外して右足に履くと、立ち上がった。左右を確認するかのように、その場で足踏みをしている。



「不具合はないですか? 状態を教えてもらえたら、もう一度作ります」


「俺の感覚が慣れないというか、驚いて舞い上がっているが、ツルンツルン以外の不具合はなさそうだ。エドさん、本当にありがとう。帰ったら、ちゃんと適正な料金を払うからな」


「えっ? あ、はい」


 僕は、試作品だと断ろうかとも思ったけど、それは逆に失礼だと感じた。



「王都の治癒魔導士の3倍は、払ってもらえばいいっすよ。それだけの価値があるっす」


「ええっ!? それはさすがに……」


 あれ? ジョーモさんは、ふざけて言っているわけじゃなさそうだ。


「そうだな。相手が冒険者なら、もっと高く設定してもいい。じゃないと、王都の治癒魔導士が、エドさんを敵視して厄介なことになる」


 プラストさんにそう言われて、僕は背筋が冷たくなった。そんな可能性は、全く考えもしなかったけど、治癒魔法で生計を立てている魔導士から見れば、僕のスキルは、敵視されてもおかしくないか。



 周りで見ていた人達は、少しザワザワしていた。いいものを見たと喜んでいる人もいる。だが、ずっと顔をこわばらせている人の方が多い。


 プラストさんの右足は回復したけど、2階層への階段は、崩れたままだ。それに、壁に喰われた人達のことを忘れてはいけない。


 今、僕達がいる3階層は、地上への道が閉ざされた状態なんだ。あっ、もしかして、これも報復か? 罠だらけの6階層への階段を、プラストさんとジョーモさんが塞いだからな。




「次は、怪我人の手当かな。ポーションがなくて回復できない人は、言ってください」


 僕がそう言うと、怪我をした人達は、それぞれポーションを飲み始めた。もしかすると、自分の怪我に気づいてない人もいたのかもしれない。


「さっきの売れ残りが、まだあるっすよ。必要な人には、上級ポーションを銀貨1枚で販売するっす」


 ジョーモさんとモモさんが、ポーションを欲しい人に、売って回ってくれている。




 僕をツンツンする小さな手。手を繋ぎたいのかな。


「あーちゃん、大丈夫? 眠くなった?」


「エドちゃん、あっちに何か変なのがいるよ。あれって、エドちゃんの壺だよね?」


 ん? 僕の壺? プラストさんに、原状回復ポーションを作ったときの壺はここにある。


 だが、確かに、コロコロと転がってくる丸い物が見えてきた。僕の手元にある壺よりも、かなり大きめだ。あっ、さっき、4階層で弱毒を撒いたときの壺に似ている?




「何だ? この威圧感は……」


 威圧感?


 冒険者の数人が、何かを察知したようだ。義足を片付けていたプラストさんも、急に警戒したように、あちこちの壁に視線を走らせている。



 あっ! 壺が止まった。転がる体勢から、ぴょんと跳ねて、起き上がったようだ。壺に何かが入っているのは確実だな。


 ケモ耳の女の子は、モモさんをかばうように移動した。僕じゃなくて、モモさんを守るのか。



 その壺は、ツツツと地面を滑るように、僕の方に寄ってくる。ぴょんと跳躍したから、つい、キャッチしてしまった。


 サボテン?


 壺の中には、緑色でトゲトゲな丸い植物が入っている。壺から丸い植物が生えるようにスーッと伸びてきた。まるで、植木鉢に植えたサボテンのようだ。


『だぁれ?』


 この植物が喋っているのか?


「今の声は、君の声? この壺って、僕が4階層に置いてきた壺に似てるんだけど?」


『だぁれ?』


 まぁ、植物に言葉は通じないか。


「僕は、エドだよ。キミは誰? 砂漠に花を咲かせる植物に見えるね」


『はなは、さかないの。うむむむむ』



「エドさん、その壺の中身と話しているのか?」


「たぶん、そうみたいです。あっ、念話だから聞こえないですよね。だぁれ? と聞かれました。花は咲かないそうです。あっ!」


 僕の手の中から、ぴょんと跳ねると、またコロコロと転がっていく。そして、壁にぶつかると消えてしまった。壁の中を移動できるのか。



「エドさん、今の壺は、壁に消えたな。中には、何が入っていたんだ?」


「サボテンみたいな植物でしたよ。4階層に置いてきた壺みたいです。弱毒が消えた後に、種子が落ちたのかな」


 僕がそう答えると、なんだか皆の表情がおかしい。間違ったことを言ったかな。


「エドさん、俺には光しか見えなかったっす」


「ん? 丸い緑色のトゲトゲな植物でしたよ?」


 僕がそう返すと、ジョーモさんは、ケモ耳の女の子に視線を向けた。


「エドちゃんの名前を聞いたのは、赤ん坊だよ。壺に入ったら、自由に移動できて、楽しいみたいだね」



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