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59、原状回復ポーション

「エドちゃん、何を作ってるの? ご飯の匂いもポーションの匂いもしないよ?」


 僕は土魔法で作った壺に、この階層の砂を集め、さらに腕輪のアイテムボックスから、薬草にも使われる野菜を取り出して、壺に放り込んだ。


 この階層の砂は、プラストさんが使い続けていたサーチ魔法を吸収していて、迷宮自体が持つ魔力も結合した粒子状の魔石が混ざっている。


 僕は、新たに作れるようになった不思議なポーションを試そうと考え、混ぜ混ぜを始めた。



「今は、弱毒を作ってるよ。だから壺を覗かないでね」


 壺に顔を近づけていたケモ耳の女の子に、そう注意すると、彼女はパッと離れた。でも、匂いを嗅いでいるみたいだから、弱毒を吸ってるよな。


 冒険者達は、僕から大きく距離を取った。すると、ケモ耳の女の子の震えが止まったみたいだ。彼女のトラウマは、簡単には消えないだろうけど、この距離があれば大丈夫なのか。



「エドさん、また弱毒を撒くんすか? でも3階層は、ただの砂漠になったみたいっすよ?」


「もしかして、枯れた草に薬を撒くのかしら?」


 ジョーモさんとモモさんは、僕が何をしているのかに興味を持つことで、気持ちを切り替えようとしているみたいだ。


 だが、プラストさんはダメだな。元ナープラストのメンバーの何人もが迷宮の壁に喰われたことで、ここまでギリギリ頑張ってきた体力や右足の状態も、限界を越えたのだろう。


 しかも彼は、強く自分を責めている。


 おそらく、彼が右足を失った後の判断を後悔しているのだと思う。後任選びを失敗したと、前にも言ってたもんな。


 でもそんなのは彼の責任じゃない。多くの人が同じ言葉をかけてきただろう。だけど、ナープラストの現役団長だった頃は彼に従っていた高位の冒険者が、プラストさんの忠告を無視して、迷宮の壁に喰われた。


 プラストさんは、自分の衰えを痛感したのかもしれない。影響力だけでなく、身体的にも。



「僕が作っているのは、プラストさん専用のポーションです。プラストさん、右足の状態はもう限界ですよね?」


 僕はそう問いかけたが、プラストさんには声が届いてないようだ。


「えっ? あ、悪い。エドさん、何が言ったか?」


 良かった。彼の目はまだ死んでない。足を投げ出して座った状態から、顔だけがこちらを向いた。

「今、プラストさん専用のポーションを作っています」


「俺の? いや、それより怪我をした人達を優先してやってくれ。あー、砂漠化した階層では、数が作れないか」


 プラストさんは周りを見回し、苦しそうな表情を浮かべた。壁を見ると、さっきの光景が目に浮かぶのかもしれない。


「彼らは、ポーションを持っているはずです」


「ん? 俺も自分の分はあるぞ」


「全回復ポーションで、右足の状態が治りますか? 太もものところに、血がにじんでいますよ」


「あぁ、これは仕方ないんだ。右足を再生してもらおうとして、失敗して切り落としたからな。疲れが出ると、鳥の足が再生しようと暴れるから、義足に挟まって出血するだけだ」


 聞いているだけでも痛そうだな。こんな状態で、新たに誕生した迷宮に救出に来てくれたんだ。きっと徹夜してることも、大きな負担になっていると思う。



 あっ! 出来た。


 弱毒から作るプラストさん専用の原状回復ポーション。時間が掛かったのは、使う対象者と僕との力の差がありすぎるからか。瓶容器には入っていない。このまま飲んでもらおうか。


 その前に部位の確認だな。




「出来ました。プラストさん、ちょっとズボンを切りますよ。失礼しますね」


「右足を見るのか?」


 僕は、ジョーモさんが出してくれた短剣を使って、プラストさんの右足の血がにじんでいる付近をスーッと切った。


 うわぁ……。


 思わず目を逸らしたくなるほどの傷だ。義足は、銀色の金属製か。右足は、付け根近くで切断されているが、そこから伸びた白く細い木のようなものが、義足に絡まっている状態だ。この木のようなものが、鳥の脚か。肉塊も、金属の義足の中に不自然に形成されている。


「あはは、なかなか酷いな。義足に巻きついたか」


「こんな状態で、魔法も連発してたんですか。生傷に金属を刺したまま歩いていた状態ですよ」


 僕の表現が悪かったのか、チラッと見たモモさんが失神しそうになっていた。ケモ耳の女の子が支えなかったら、倒れていただろう。


「まぁ、仕方ないぜ。エドさんには申し訳ないが、これはポーションでは治せないんだ。怪我ではなく成長だからな。伸びた鳥の脚を切って、義足を外すしかないが、それをすると、しばらく歩けなくなる。少し休めば、血は止まるから、気にしないでくれ」



 僕がポーションの入った壺を持つと、何かのイメージが伝わってきた。あっ、これは、飲み薬じゃなくて、塗り薬か。ポーションって、飲むものだと思い込んでいた。


「これは、僕のスキルが上がったことで、新たに作れるようになったポーションです。これで正しいかはわかりませんが、試させてもらってもいいですか?」


「プラストさんで実験するんすね? いいと思うっすよ。プラストさんなら、失敗した薬を飲んでも死なないっす」


「おい、ジョーモ! 俺はゾンビか?」


 ジョーモさんのおかげで、プラストさんの表情が少し柔らかくなった気がする。


「プラストさん、どんな風に効くかわかりませんが……弱毒をベースにしてるから、先に毒の効果が現れるかもしれませんけど、塗り薬です」


「塗り薬のポーション?」


「はい、違ったら、また作り直します。とりあえず、内臓へのダメージは無いはずです」


 話を聞いていた人達は、ちょっとザワザワし始めた。失敗すると、袋叩きにされそうな気配も感じる。ちょっと怖いな。



「あぁ、わかった。この状態なら平地しか歩けない。エドさん、やってくれ」


「わかりました。では、塗っていきますね」


 僕は壺を傾け、プラストさんの右足の付け根近くに垂らした。手で広げるにも、どこを触ればいいかわからないほどの傷だから、垂らすしかできない。



「うぐぐぐっ……なかなか……しみる……」


 プラストさんは、必死に痛みに耐えているようだ。僕は、空っぽになった壺を抱えて、見守るしかない。


 カタッ


 小さな音がした。義足が外れたようだ。



「おっ! 楽になったぜ。何も切り落とさなくても義足が外れた。エドさん、ありがとうな。これで……ええっ!?」


 プラストさんが義足を右足から完全に外すと、右足の付け根から、白い木を押し出すように、何かが、うにゅ〜っと伸びてきた。



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