57、エド、新たな能力を試す
僕達は、4階層へ上がった。蒸し暑いな。この階層は亜熱帯なのか。大きな木はないが、生えている植物の背が高いせいか、天井が低く見えた。しかも、外のように明るく、上からも下からもジットリとした熱を感じる。
プラストさんは、誰も置き去りになってないかを、注意深く確認しながら、一番後ろを歩いている。さすが、ナープラストの団長だ。
そういえば、その後はどうなったんだろう? ナープラストのメンバーは、プラストさんが全員追放した。だけど、ナープラストというAランクパーティは、まだ存続している。
プラストさんが抜けた後を受け継いだ団長さんと副団長さんは、ランクダウンした冒険者カードを受け取りに現れなかったと聞いた。そのため、冒険者登録は抹消されたらしい。
彼らの噂は、いろいろ聞いた。裏ギルドで暗殺者をしているとか、迷宮で死んだとか、ハコロンダという街で商人をしてるとか……。
でも、ナープラストの団長や副団長だった人達が、裏ギルドに行くなんて考えられないと、食堂に来るお客さんは言っていた。また、用心深い人達らしく、死ぬような迷宮に行くこともあり得ないと聞いた。
そのため、Aランク以上の冒険者が集まるハコロンダの街に隠れている可能性が高い、という噂が有力らしい。その近くの荒くれ者が多い宿場町にいるという噂もあったっけ。ハコロンダから、魔物馬車で3日ほど行くと、危険ダンジョンが密集している。一般の人は近寄らないから、隠れやすいよな。
「プラストさん、4階層の制圧を完了しました」
5階層からの階段が見えなくなった頃、立派な装備を身につけた冒険者が数人、プラストさんに声をかけた。
ケモ耳の女の子が、僕の後ろに隠れた。ジョーモさんの表情から笑みが消えている。彼らは、ナープラストのメンバーだった人達か。
「制圧完了という言葉は、誰が教えた? ここは誕生したばかりのダンジョンだぞ?」
「す、すみません! えーっと、4階層の目立つ魔物の討伐が終わりました」
「まだ終わっていない! 躍動が起こったんだぞ?」
「でも、もう朝日が昇っていますし……」
僕には、何の言い合いなのかわからない。だけど、プラストさんが警戒を解いていないことはわかる。
「おまえなー、Cランクからやり直すか? 迷宮のダンジョンコアは、夜しか、大きな活動はしない。だから階層の入れ替えは、日が昇ると起こらない。だが、誕生したばかりのダンジョンは、常にエネルギーを欲している。何が起こる?」
プラストさんに叱られた人は、額に冷や汗を浮かべている。正しい答えを言おうとするプレッシャーからか、何も言えなくなってる。
「それでBランクっすか? ナープラストへの再加入は、難しそうっすね。階層の入れ替え以外の現象は、すべて起こるんすよ! 今は、ダンジョンコアに遭遇するリスクが低いというだけっす。ゼロじゃないっすよ? ここのダンジョンコアは、赤ん坊っすからね。寝ぼけて他の階層の壁から出てくることもあるっすよ」
何? その寝相の悪いダンジョンコア……。
チラッと、ケモ耳の女の子の方を見てしまった。この子も寝相が悪いんだよな。僕の視線に気づくと、キョトンとして首を傾げてるけど。
「あーあ、ジョーモが怒鳴るから、また湧いてきたぜ。しかし4階層は、魔物が多いな」
プラストさんはそう言うと、ニヤッと笑った。ジョーモさんは、聞こえないフリをしているみたいだけど。
新たに出てきた魔物は、すごいスピードで討伐されていく。4階層には、ナープラストのメンバーだった人達が大勢来ているみたいだ。
幼馴染たちも、魔力量の少ないスージー以外は、まるでアピールするかのように、魔物を狩っている。だけど、何だか変だよな。倒れた魔物は、すぐに地面に吸い込まれるように消えていく。まだ死んでいない魔物もだ。
「エドさん、俺達は、新人冒険者を迷宮から出すことに集中するっすよ」
「わかりました。でも、ジョーモさん、ちょっと変じゃないですか? 討たれた魔物がすぐに地面に吸い込まれてません?」
「ダンジョンがエネルギーを求めてるんすよ。この階層では、人族も大怪我をすると、地面に吸収されるっすよ」
な、何だって? 新人冒険者は、この階層には20人以上は居るはずだ。
「じゃあ、ちょっと弱い毒を作ってみます」
「話が見えないっすよ? スキルレベルが上がって、毒薬を作れるようになったんすね。でも、それを使うと、人族までダメージを受けるんじゃないっすか?」
「怪我人を、迷宮が吸収したくないようにします」
僕は、土魔法で壺を作った。スキルレベルが上がったから、大きめの丈夫な壺ができた。近くに生えている背の高い植物を剣で切って、壺に放り込む。さらに、地面の泥も、少し掘って、放り込んだ。
そして壺に触れると、中身の状態がよくわかる。ここの泥は、毒薬作りに最適だな。迷宮が嫌がるものを探りながら、僕は、混ぜ混ぜを始めた。
「エドさんは、何を始めたんだ?」
「弱い毒を作って、人族を吸収したくないようにするって、言ってたっす。俺には、何のことかわからないっすよ」
「ピリピリにするんだよ、きっと!」
ケモ耳の女の子は、ジョーモさんには、ドヤ顔ができるようになったみたいだ。
「ピリピリっすか?」
「あっ、散布タイプの薬ですね。でも、毒なのでしょうか」
モモさんには、もろに掛かっている。ちょっと、目が潤んでいるみたいだ。
「辛みパウダーか? 人族からすれば、香辛料だな。湿気で服にも付着してるぞ。あぁ、そういうことか。あはは、確かに、赤ん坊は吸収したくないだろうな。ゲホゲホ」
プラストさんが笑うから、のどに入ったみたいだ。
僕が作る散布タイプの薬は、混ぜ混ぜを止めると、これまでなら効果が消えてしまった。だけど、毒はすぐには消えない。消えないから毒なんだ。
混ぜ混ぜをしていた手がフッと軽くなった。この階層に、撒き終えたということだな。
「おっ、倒れた魔物が消えなくなったっすね。プラストさん、新人冒険者が混乱して涙目っすよ」
いや、赤い香辛料の刺激で、涙目なんだよ。
『4階層にいる皆、あまり喋るなよ? 迷宮の吸収を止める弱毒が撒かれた。喋ると、俺みたいに喉が痛くなるぞ。3階層に上がるまでは、服についた粉は、払い落とすなよ。その粉が付いていれば、迷宮に吸収されない』
ジョーモさんに催促されて、プラストさんが念話で、皆に状況説明をしてくれた。




