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56、ビーウルフ族の魔ポーション

『みんな動けるか? そろそろ上がるぞ。4階層は、Eランクには無理な魔物だらけだ。戦おうとするなよ?』


 プラストさんは、5階層の全員に念話を飛ばしたようだ。食事をして少し元気になったみたいだけど、今の声を聞いて、引きつっている人も少なくない。


 あっ、ポーション切れだったよな。躍動が起こる前に、職員さんからポーションを作ってくれ、と言われていたことを思い出した。


 なかなか立とうとしない人もいる。弱い冒険者の一部は、職員さんがスキルを使って、1階層に移動させたから、新人冒険者でも残っている人は、それなりに戦い慣れているはずだ。



「プラストさん、ちょっと待ってください。ポーションを作ります。ほとんどの人が、命を繋ぐために使い果たしたみたいなので」


「あー、そうだったな。俺は、全回復ポーションしか持ち歩かないから、売ってやれないんだよ」


 全回復ポーション? そんなのがあるのか。僕は、ポーションと上級ポーションしか知らない。


 僕が変な顔をしていたのか、ジョーモさんが口を開く。



「エドさん、全回復ポーションは、ダンジョン産なんすよ。体力も魔力量も全回復するっす。俺は一度手に入れたことがあるけど、すぐに売ったっすよ。俺が使うには、もったいないっすからね」


「へぇ、魔力量まで回復するポーションもあるんですね」


「魔ポーションと呼ばれるポーションは、魔力量を回復するっす。高いっすけど、魔導士には必須っすね」



 ジョーモさんが魔導士と言ったから、僕は反射的に、スージーの方に視線を向けていた。彼女は、もう出血は止まったはずなのに、足の治療をしていない。スージーのスキルでも、簡単な回復魔法は使えるはずだが……。


「エドちゃん、スージーちゃんは、ほとんど魔力の匂いがしないよ。たぶん、魔力切れに近いかも」


 ケモ耳の女の子は、匂いで魔力残量がわかるのか。


「あーちゃんは、魔力を回復するポーションって持ってない?」


「スージーちゃんにあげるの? でも、魔力がすごく減ってる子は、たくさんいるよ」


「僕は飲んだことないから、飲んでみたいんだ。知らない物は作れないから。でも、高価だよね」


 ケモ耳の女の子は、リュックを下ろすと、ゴソゴソし始めた。そして、パァッと笑みがこぼれる。


「エドちゃん、あったよ! 飲んでみて」


 透明瓶のポーションとは違って、茶色の小瓶を受け取った。魔ポーションと書かれている。回復量は、50,000!?


「あーちゃん、こんなに回復量があると、僕にはもったいないよね。どうしようかな」


「ん? 普通の魔ポーションだよ? みんな、これを飲んでるもん。気にしなくていいよっ」


 セルス村の人は、そんなに魔力量が多いのか。いや、ビーウルフ族のことかもしれない。


「わかった。ありがとう。飲んでみるよ」


 僕は生まれて初めて、魔ポーションを飲んだ。身体を駆け巡る血が沸き立つような感覚に、少し恐怖を感じたが、次第に身体に沁みていくのがわかる。



 ステイタスを確認してみると、魔力量の表示がおかしなことになっていた。


【魔力量】 4600/4600 +45,780[優]


 さっきは、380残ってて、僕の上限は4600だから、50,000なんて回復できないわけで……回復できなかった分が、横にプラス表示されている?



「あーちゃん、もしかして、回復し切れなかった分がなくなるまで、魔力量は減らないのかな?」


「ん〜? わかんない」


 すると、プラストさんに空き瓶を取られた。



「ビーウルフ族の魔ポーションだな。これは、上限を越えた分が、数日間ストックされるんだよ。深いダンジョンに潜る時は、俺もこれを使ってる。なかなか売ってくれないんだけどな」


「プラストちゃんが、お金で買おうとするからだよ。水晶石やラム草を持って行けば、売ってくれるよっ」


「ラム草は入手が厳しいな。水晶石は何色でもいいのか?」


「魔ポーションを作っている人達は、珍しい色が好きだけど、何色でもいいと思うよ」


 水晶石もラム草もわからないけど、ノワール洞窟の10階層にあるビーウルフ族の集落に、右足が義足なのに、プラストさんがたどり着けることは理解した。



「魔力量が満タンになったから、とりあえずポーションを作りますね」


 僕は、5階層に生えている薬草や雑草を摘み、土魔法で作った容器に放り込んだ。そして容器に触れたとき、今までとの違いを感じた。


 僕が作ることのできる回復薬の種類が増えている。普通のポーションも作れるが、上級ポーションも作れるようになっている。さらに、これでは素材が足りないが、魔ポーションも作れそうだ。それと弱い毒薬各種と、その弱毒を利用した原状回復ポーション? ん? 何だ?


 とりあえず、上級ポーションを作ることにした。混ぜ混ぜのときに、容器がまるで自分の一部のような、不思議な感覚を感じた。僕に従うというより、まるで僕そのもののような、奇妙な感覚だ。



「ポーションができました。必要な人に配りますね」


「エドさん、俺が配るっすよ。銅貨10枚で……あれ? 上級ポーションっすか? じゃあ銀貨1枚っすね」


「実験というか試作品だから、無料で……というわけにもいかないんですよね」


「買ってる人がいるっすからね。普通なら高く売れるっすよ」


「ジョーモさんにお任せします。集めた売上金は食材代として、さっきの食事代と一緒に、料理長に渡したいので」


 ジョーモさんだけでなく、モモさんも、上級ポーションを冒険者に売りに行ってくれた。もう少し作っておこうか。



 僕が再び、薬草や雑草を摘み始めると、ケモ耳の女の子とスージーが手伝ってくれた。


「やっぱり、エドは、すごく皆の役に立つよね。ごめんね、こんなことになってしまって……」


 スージーは謝ってくれたけど、僕としては複雑だった。あまり何も気にしないタクトは良いとして、ニックとレイビンは、僕の混ぜ飯を食べなかった。僕が話せるようになったことが、余計に気に食わないんだろうと感じる。


「スージー、そんなことより上級ポーションを飲んでおけば? 魔力残量が少ないから、足の怪我を治さないんでしょ」


「あはは、エドにはお見通しだね。他の3人は気づいてくれないんだよ」


 できたばかりの上級ポーションを渡すと、スージーは少し寂しげな笑顔を作って、中身を飲み干した。僕は、どう言葉を返せばいいか、わからない。



 彼女の足の傷は、すぐに跡形もなく消えた。初めて作ったけど、ちゃんと出来ているようだ。



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