53、幼馴染たちとの再会
僕達は、5階層へ上がった。血の臭いが漂っている。さっきの1階層に似た草原が広がる明るい階層だ。
「スージー、無事だったか! あっ、エド……」
階段のすぐ近くには、幼馴染の3人がいた。彼らも無事で良かった。だけど僕は、どういう顔をすればいいかわからない。
「エドとモモさんが、逃げ道を切りひらいてくれたのよ。まさか、アナタ達、6階層に行こうとか考えてないわよね?」
「新迷宮だぜ? 最下層まで踏破するのが、冒険者だろ」
下へ潜ろうとしていた冒険者は、まさかの彼らだったのか。そのせいで、スージーは死にそうになったんだ。
「ダメですよ! 誕生したばかりの迷宮は、エネルギーを求めています。6階層は、ダンジョンコアの罠だらけです。7階層に移動したダンジョンコアは、6階層に入ってくる冒険者を狙っていますよ」
モモさんは、強い口調で注意してくれた。だけど彼らは、彼女に冷ややかな視線を向けている。
「宿屋のお姉さんに言われてもなぁ。俺達は、この街では歴代最速でCランクパーティに到達したんだよ?」
やっぱりレイビンは、プライドが高いな。スキル『影縫い』で、強い魔物の動きを封じることができる彼は、パーティに不可欠な存在だから、発言力も大きくなっている。
「宿屋の娘ですが、皆さんと同じCランク冒険者ですよ! ダンジョンコアは生き物です。近寄ってはいけません」
「モモさん、怖かった気持ちはわかりますよ。一緒に飛ばされたのが、小さな女の子や怪我をしたスージーだったからですよね。あっ、エドもいたか。だけど、俺達は違う。一緒にしないでください。モモさんと俺のスキルも、破壊力が違うようにね」
ニックは、クールな性格だから、基本的には多くのモノに無関心だ。だから、僕とも、ほとんど話してくれない。だけど、彼のスキル『狩人』に似たスキルには、対抗心をむき出しにするんだよな。
「一緒にって……そういう話じゃないですよ。どうしちゃったんですか? ニックさんはいつも冷静な人なのに」
確かに、ちょっと攻撃的すぎる。
「まぁまぁ、無事にスージーが見つかったんだし、ゴタゴタは無しだ。エド、俺達、腹が減ったんだけど」
「ちょっと、タクト! エドに何を言ってるの」
「合同ミッションで来てるんだろ? エドの混ぜ飯には飽きたと思ってたけど、非常食よりは助かるじゃないか」
タクトは、相変わらずだな。『剣士』のスキルがある人は、無口な人が多いらしいけど、タクトは、よく喋る。彼らの中では、一番僕に優しい。彼の言葉は、彼の考えがそのまま表れるわけじゃない。たぶん照れ隠しで、嫌なことを言うんだ。
「タクト、それより6階層に行こうぜ」
「飯を食う方が先だろ。俺は、腹が減った」
タクトは、モモさんが6階層に行くなと言ったから、ちゃんと聞き入れているんだと思う。それで、腹が減ったと言い出したんだ。
「じゃあ、俺とニックで行ってくる」
はぁ? レイビンは、やっぱり自信過剰になってるよな。
「ダメだよ。ダンジョンコアは7階層に行ったから、6階層は罠だよ。迷宮が7階層への階段を隠したから、6階層の壁はどこにでも、階段が現れるよ」
ケモ耳の女の子は、レイビンに注意してくれた。だけど、彼女がオドオドしているからか、レイビンはバカにしたような笑みを浮かべている。
「あんたは、セルス村の子だろ? そうか、モモさんが変な妄想を抱いているのは、お嬢ちゃんの影響かな」
「ちょっと、レイビン! 彼女に失礼だよ! 私達だって、盗賊セルス団には助けられたことがあるじゃない」
スージーが叱ると、レイビンの表情からは笑みが消えた。
「スージー、最近は、随分と臆病になったよな。リーダーの資質が足りないんじゃないか?」
「は? また、その話? いい加減にしなさいよ。だいたい、エドの追放だって私は納得してないし、新加入の二人の方が、全然役に立たないじゃない。あの二人はどこに行ったの?」
えっ? スージーも追放に同意してたじゃないか。僕に混ぜ飯の店をする方がいいとか言ってたし。
「あの二人は、躍動に怯えたみたいだからな。最深層に潜るのは遠慮しておくと言って、2階層に行ったぜ。俺達が飛ばされたのは、3階層だったけどな。しかし、なぜ、スージーだけ外れて6階層に落ちたんだ?」
「私が4階層を覗いたときに、ツタに捕まったからよ。エサの目印になっていたトゲは、全部彼女に抜いてもらったわ」
「また、そんな妄想をしてるのかよ。幼い子供の言うことだろ」
僕はいつも、幼馴染の話は聞くだけだった。でも、もう我慢の限界だ。
「レイビン、そんなに死にたいなら、6階層へ行けよ!」
僕の声は、僕の予想以上に大きかった。レイビンが驚いた顔をして固まってる。
「ちょっと、エド、何を言ってるの?」
「スージーは、彼らに甘すぎるんだよ! だから、レイビンがつけ上がっている。こんな冒険者は、すぐに死ぬよ。迷宮を舐めてる。ふざけんなよ!」
僕の口から出てきた言葉は、自分の言葉だとは思えなかった。たぶん、僕の中に押し込めていた感情なんだろう。
「エドが、めっちゃ喋ってる」
「魔道具を手に持ってないのに、喋ってるぞ」
タクトだけでなく、僕を無視していたニックまで、何か言ってる。僕は、頭に血がのぼっていた。だけど、小さな冷たい手が、僕の手をつかんだとき、ハッとした。怒っても伝わらない。落ち着かないとな。
「錬金協会の魔道具のおかげで、喋れるようになったけど、僕の本質は何も変わってない。ただ、いろいろな人から、多くのことを教わった。権力とかは嫌いだけど、それを示さないと、おまえらが理解できないなら言う。僕は、王都の騎士団長から多くのことを教えてもらった。ナープラストを設立した団長からも、迷宮の話を聞いた。フリージアは良いパーティだけど、中級者なんだ。身の程を知らないで良い気になっていると、すぐに死ぬよ」
「エド、ちょっと言い過ぎだぞ。有名人の知り合いを自慢したいのかもしれないけど、エドのような初級者にはわからないんだよ」
タクトが嫌なことを言う。でもタクトは、レイビンやニックの考えを、柔らかく代弁することが多いんだよな。
「僕は、Cランク冒険者だ。初級者じゃない!」
僕がそう返すと、幼馴染たちは全員、驚いた顔をしていた。僕はもう、引け目を感じる必要はない。彼らと同じCランクなんだからな。




