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48、ソアラ高原の異変

 僕達は、ソアラ高原へやってきた。


 もう真夜中だから、途中の果樹園の樹木の状態はわからない。果樹園の中にある食堂は、既に営業を終えていて、冒険者の姿はなかった。


「静かっすね。職員さん、高原ホッパーの巣穴の場所は、わかるっすか?」


 ジョーモさんに質問をされて、職員さんは慌ててファイルをめくっている。魔道具が使えない人だから、ファイルなんだな。年齢不詳だけど、魔道具が苦手なほど年配なわけでもない。スキル『古代魔術』って、どんな能力なんだろう? 


 ソアラ高原は、シーンと静まり返っている。夜に光る夜光草があちこちに生えているから、小さな魔物が僕達を警戒している様子も見える。特に何か異変があるようにも思えないけどな。



「エドちゃん、あっちに人がたくさん居るよ」


「あーちゃんには見えるの?」


「ん? ここからだと見えないけど、たくさんの人の匂いがするよ」


 すごい嗅覚だな。ふと、彼女が騙されて、魔物の血を被った日のことを思い出した。こんなに嗅覚が鋭いなら、あれは、本当に辛かっただろう。



「あーちゃんが指した方向は、ソアラ湖の方ですね。ここからでは高低差で見えないですけど」


「モモさんは、方向感覚が優れているのですね」


「ソアラ高原は、よく来てますからね。夜は、ソアラ湖の上に、光る羽虫が集まるんですけど、光は見えないですね。もうすぐ雨になるのかな」


 光る羽虫? ジョーモさんは、ケモ耳の女の子が指差した方向を見ている。


「夜なら、ソアラ高原のどこにいても、羽虫の光で、ソアラ湖の場所がわかるんすけどね。羽虫は、あっちの小川にしか居ないっすね」


 ジョーモさんが指差した方を見てみると、空に途切れ途切れの細い光が見えた。夜光草の光だと思ってたけど、風がなくても動くから、よく見ると夜光草ではないことがわかる。


 今、ソアラ高原に起こっている異変は、大発生した高原ネズミの姿がないこと、そして高原ホッパーも大発生しているらしいこと、それから、夜に光る羽虫がソアラ湖にはいないことか。



「お待たせしました。高原ホッパーの巣穴は、ソアラ湖の周りで複数発見されているようです。ソアラ湖に人が集まっているのは、そのためではないでしょうか」


 職員さんは、オドオドしながら、そう説明してくれた。


「じゃあ、とりあえず行ってみるしかないっすね」


「はい、ただ、足元には気をつけて行きましょう。魔物の霊が騒がしいです」


 魔物の霊? 幽霊? モモさんも表情を引きつらせている。僕が変に騒ぐと、余計に怖がらせてしまうよな。


 職員さんに先導され、僕達はソアラ湖へ向かって歩き始めた。




 ◇◇◇



「水の匂いはするけど、水がないね」


「あー、そういうことっすか」


 ケモ耳の女の子とジョーモさんは、互いに頷き合っている。だが、僕には何の話かわからない。


「この大きなくぼみは、ソアラ湖ですか? 夜光草が生えてないから、よく見えないけど」


「モモさん、そうみたいっすよ」


 今、僕達が立つ場所から見える景色は、夜光草が生えていないため、暗く大きな穴があるように見える。ソアラ湖は、れたのか? だから、果樹園が大変なことになっているのか。



「でも、人の姿は見えないですね。降りてみますか」


 僕がそう言うと、ケモ耳の女の子に腕を掴まれた。


「エドちゃん、ダメだよ。どこに口があるか、わかんないよ」


「えっ? あーちゃん、口って何のこと?」


「ん〜? どう説明すればいいか、わかんない。でも、ここから進むと、口に落ちちゃうよ。人の匂いがたくさん残ってる」


 口に落ちちゃう? 僕だけでなく、モモさんも首を傾げている。職員さんは、ファイルを必死にめくってるけど。



「エドさん、ソアラ湖の下に、新しい洞窟が生まれたんすよ。このタイプは、ダンジョンっすね。まだ、上部の岩盤がもろいから、足を踏み入れると、穴が開いて下に落ちるんすよ。水辺や沼地にできるダンジョンの特徴っす」


「ええっ? この下に洞窟ができてるんですか? 半年前に来たときは、そんな兆しはなかったと思いますけど」


「ただの洞窟なら、緩やかに空洞化が進むから、まずは洞穴ができるっす。でもダンジョンは、何かのキッカケで一気に育つんすよ。ソアラ高原の向こう側には、魔鉱石の鉱山があるっす」


「あっ、魔鉱石の運搬には、ソアラ高原を横切りますね。みんな、ソアラ湖で休憩するし」


「そういうことっすよ。ソアラ湖で身体を洗ったり、ゴミを捨てる冒険者も少なくないっす。だから、湖底に溜まった魔力を含むゴミが、何かをキッカケにダンジョンを生み出すことは、よくあることっす」


 湖には、分解能力がある小さな魔物が棲んでいるからだよな。畑の近くの小川で身体を洗うことは禁止されているから、みんな湖を使うんだ。



「あーちゃん、誕生したばかりのダンジョンの入り口を安定させる方法はあるっすか? 俺は、もろい部分を爆破するくらいしか、思いつかないっすけど」


「あたしも、吹き飛ばすのが一番早いと思うよ。口はいっぱいあるから、危ないもん」


「ちょっと待ってください。捜索に来た人達が、埋まってしまわないかな?」


 僕には解決方法のわからない話を、三人がしている。ジョーモさんは土魔法を使えるんだから、不安定な岩盤を固めればいいんじゃないかと思うけど。


「皆さん、穴が開きそうな場所に、土魔法で覆いを……」


「ダメだよ。口はプハッて息をするから、硬くしても穴が開くよ」


 職員さんは、僕と同じ発想だったんだ。ケモ耳の女の子の方が、洞窟に関する知識は深いみたいだな。



「あーちゃんは、穴に落ちた人にダメージがないように、吹き飛ばすことはできるっすか?」


「弱い人が多いよね。隙間にいる人が1階層に降りてくれたら、できるよ」


「穴から落ちた人に、下へ降りるように連絡してからっすね。きっと、上へ上がろうとしてるだろうけど、上がれないっすよ」


 すると、モジモジしながら、職員さんが口を開く。



「私が、その連絡をします。皆さんに怖がられるかもしれませんが、大丈夫でしょうか」


「あっ、『古代魔術』っすね! お願いするっす」


 職員さんは、コクリと頷くと、手から青白いヒトダマのようなものを大量に出した。その青白い光は、夜光草の生えてない広範囲に広がると、スーッと土の中へと消えていく。


『救出に来ました。ここは、新迷宮です。これから、不安定な上部を吹き飛ばします。全員、1階層へ降りてください』


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