47、幼馴染のこと
僕達が冒険者ギルドに到着したのは、終了報告の冒険者が減る、夜遅い時間だった。たぶんジョーモさんが、僕が幼馴染のパーティと会わないように、時間調整をしてくれたのだと思う。
「ギルド長、明日の合同ミッションの参加メンバーを連れて来たっすよ」
「ジョーモか、助かるぜ。なかなか良いメンバーだな」
「ほぼ指定したじゃないっすか。どういう状況っすか? 夕方からの捜索隊は、戻って来たんすよね」
ジョーモさんがそう言うと、冒険者ギルド長は、職員さんから渡された書類をめくりながら、頭をポリポリと掻いている。
「それが、まだ全く戻ってないんだよ。早い捜索隊は、日が暮れる前から行っているんだがな。まぁ、近くの果樹園に寄って飯を食っているのかもしれないけどな」
「真面目なパーティは、捜索に参加してないんすか?」
「いや、そういうわけでもない。まぁ、ソアラ高原だから、心配はしてないがな」
だよね。ソアラ高原に危険な場所など存在しない。
「果樹園の調査依頼も受けてるかもしれないっすね。小川の水か地下水脈に、何か問題があるみたいっすよ」
「そういえば、通常ミッションで、それも出てるな。報酬が安いから、受けてくれるパーティが見つからないと聞いているが」
「地下水脈の調査なんて、泥だらけになるっすからね。俺もやりたくないっす。下手に掘って調べたら、井戸が枯れることもあるっすよね」
ジョーモさんは、この街の生まれだから、あまり水脈に関する知識はないのだと思う。
僕は幼い頃から、村を流れる小川で遊んでいたし、生まれ育ったのは農村だったから、多少の知識はある。僕は、ほとんど喋れなかったけど、活発なスージーが質問するから、僕もいろいろな話を聞いたっけ。
村には、同じ年の子供は、僕を含めて5人しかいなかった。幼い頃は、スージーの後ろをついて歩いていたけど、学校に入ってからは、恥ずかしさもあり、僕は、一人で過ごす時間が増えた。
スージーは、同い年の男の子よりも背が高かったから、上の学年の子とよく遊んでいたっけ。同い年に女の子がいなかったからかもしれない。
僕以外の3人は、いつも一緒に遊んでいた。学校の休み時間には、僕は、彼らが遊んでいる様子を見ているだけだった。
村を出て、冒険者になっても、その関係はあまり変わらなかった。『剣士』のスキルを得たタクトは、彼らの中では一番、僕に優しく接してくれた。『狩人』のスキルを得たニックは、クールな性格で、学生の頃から、あまり僕とは話してくれない。『影縫い』のスキルを得たレイビンは、強い魔物に対しても動きを封じる魔法が使えるようになってからは、僕にキツく当たるようになった。
僕の追放は、レイビンが言い出したんじゃないかと思ってる。僕がスキルを使うときは、いつもレイビンが術を使って守ってくれていたから、嫌になったんじゃないかな。
スージーは頭が良くて、僕達のリーダー的な存在だ。彼女が立ち上げたパーティに僕達が加入したけど、スージーがリーダーだから、僕達は、短期間で成果を出すことができたのだと思う。彼女のスキルは『魔法全書』という多くの種類の魔法が使えるスキルだ。魔法発動のときには、魔力の本が空中に浮かぶから、カッコいいんだよな。
「エドちゃん! お話、聞いてる?」
ケモ耳の女の子に、腕をゆさゆさされて、僕はハッとした。幼馴染のことを思い出していて、聞いてなかった。
「すみません。ちょっと考え事をしていました」
僕が慌てると、モモさんが心配そうな顔で頷いた。
「エドさんは、気になってしまいますよね。スージーさん達でさえ、戻って来てないんですから」
やはり幼馴染のパーティは、捜索依頼を受けたか。
「モモさん、エドさんがいたパーティは、どれっすか?」
するとモモさんではなく、冒険者ギルド長が口を開く。
「スージーさんがリーダーのパーティは、フリージアだよ。メンバーは全員がCランクだ。エドさんが抜けた後に、回復系の魔導士と盾役が加入したから、6人だな。非常にバランスの良い、優秀なパーティだぜ」
えっ? 4人じゃないのか。
「フリージアなら、俺も名前は知ってるっすよ。リーダーの若い女の子は、スキル『魔法全書』っすよね? そうか、エドさんが抜けた穴を補うには、二人も必要だったんすね」
ジョーモさんは、良いように解釈しているけど、僕が役立たずだから、追放されたんだ。
「まだ、エドさんには話さない方がいいかもしれないですけど、エドさんがパーティから追放されたのは、彼らの意思ではないと思いますよ。錬金術師が接触していました。彼らは、冒険者じゃなくて錬金協会の仕事をする方が、エドさんのためになると言っていましたよ」
モモさんは、僕の気持ちが沈まないように、気を遣ってくれたんだな。やっぱり優しい。
「ふぅん、やはり錬金協会っすか。エドさんの担当者が、手を回したのかもしれないっすね」
ジョーモさんが吐き捨てるように、強い口調でそう言った。彼も優しいよな。
「エドちゃんは、天才だからだよっ。エドちゃんの混ぜ飯は、すっごく美味しいもん」
ケモ耳の女の子も、僕を励まそうとしてくれてる。ただ、その言葉は、スージーにも言われたことだ。僕は、料理人じゃない。冒険者として一人前になりたいんだけどな。
チラッと時計を見た冒険者ギルド長は、奥で事務作業をしていた職員さんを手招きで呼んでいる。だけど、彼は、見て見ぬふりをしているようだ。
「おーい、イアン! 無視すんなよ。ちょっと来い」
「な、なんでしょうか、ギルド長」
「捜索隊の調査ミッションだ。おまえが指揮をとれ。少人数だが、合同ミッションの形にするからな」
「ええっ……私は、魔道具操作ができませんので、下位冒険者の引率は無理かと」
「安心しろ。ほとんどが中級冒険者だから、経過報告は不要だ。ジョーモ、悪いが、今からソアラ高原へ行ってくれるか? この職員は魔道具操作はできないが、外では邪魔にはならない。合同ミッションは、ギルド職員の立ち合いが必要だからな」
「いいっすけど、イアンさんは、アレの人っすよね? 幽霊使い?」
ええっ? 幽霊使い? 死霊術師系なのか?
「幽霊じゃなくて怨霊だろ。彼のスキルは『古代魔術』だからな。痕跡を追う能力には長けているぞ」
オドオドしている職員さんは、とんでもないスキル持ちなんだ。『古代魔術』が何かは知らないけど。




