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46、ソアラ高原近くの果樹園が依頼主

 その日の夜、僕は冒険者用の軽装に着替えて、ジョーモさんとの待ち合わせ場所である食堂へ行った。


「エドさん、先に夕食を食べてるっすよ」


 ジョーモさんは、料理長と楽しそうに話していた。あっ、頭をゴリゴリされてる。


「僕は、まだお腹は減ってないけど、食べる方がいいのかな」


「夕食を食べながらの、待ち合わせっすよ」


 ん? 他にも誰か来るのか?


 ジョーモさんの向かいの席に座ると、ホール係の店員さんが、僕の分の夕食を運んできてくれた。小鉢は、僕が作った混ぜ飯だ。



「あーっ! あたし、遅くなっちゃった?」


 リュックを背負ったケモ耳の女の子が、僕の隣の席に座った。なるほど、彼女のリハビリが目的だったんだ。


「あーちゃんは、時間より早いくらいっすよ。夕食は、食べるっすか?」


「さっきまで昼の食べ放題を食べてたから、お腹いっぱいだよ。デザートなら食べられるよっ」


 夕食には、あまりデザートは付かない。だが、彼女の声が聞こえたのか、厨房から料理人がわざわざ何かを持ってきた。明日の食べ放題の分のチーズケーキだな。


 ケモ耳の女の子は、ありがとうと言ってペコリと頭を下げると、満面の笑みでフォークを持った。彼女は、チーズが好きだからな。料理人さんも嬉しそうだ。



「エド、ちょっと厨房に来てくれ」


 料理長が、厨房から顔を出した。


「アズさん、エドさんは食事中っすよ? それに、彼の仕事時間じゃないっすよね?」


「そういうことじゃねぇよ」


 料理長は、僕を手招きする。明日の分の混ぜ飯は、たくさん作ってあるんだけどな。




 厨房に入ると、大量の食材が積み上げられているのが見えた。夕食のためじゃないよな?


「エド、これを持っていけ」


「えっと、非常用の食材は、前に預かったものが、まだたくさんアイテムボックスに入っていますよ。錬金協会の魔道具だから、中の物は腐らないですし」


「念のためだ。昼過ぎに、合同ミッション失敗の知らせが、取り引きのある果樹園から入ったんだよ」


「ソアラ高原近くの果樹園ですか? あっ、その果樹園が、合同ミッションの依頼主なのかな」


「そういうことだ。数日前から、高原ネズミが大量発生しているらしいが、今日の合同ミッション組は、ほとんど発見できなかったらしい。高原ホッパーが大量発生しているという話は聞いたか?」


 ん? 高原ネズミと高原ホッパーの大量発生?


「はい、高原ホッパーの巣穴が見つかったとか。でも、高原ネズミは高原ホッパーを食うはずですよね? なぜ両方とも増えてるんだろう。何かが大発生すると、高原ホッパーは減りますよね」


「エドも気づいたか。何か、おかしいだろ。こういう現場には、食料をたくさん持っていくもんだ。特にジョーモは、まだ、腹が減ることへの強い恐怖心があるからな」


 料理長は、ジョーモさんのことを気遣ってるんだな。冒険者ギルドにミッションの受注に行くだけなのに、ジョーモさんは、夕食を食べている。場合によっては、捜索を頼まれる可能性もあるからか。


 ソアラ高原には、危険な場所など存在しない。夜は、たまに草ホッパーが出るけど、以前、街道で遭遇したような空を埋め尽くすほどの大群は、ソアラ高原には来ない。あれは、生息地特有の現象だ。ソアラ高原には草ホッパーの棲家はないと思う。


 ジョーモさんは、シノア洞窟に閉じ込められて餓死しそうになった時の恐怖心に、今も苦しめられているんだな。まぁ、当たり前か。僕なら一生のトラウマになりそうだ。



「わかりました。じゃあ、預かりますね」


「返さなくていいぞ。肉は安物しか渡してないからな」


「はい、了解です」


 僕は、アイテムボックスに食材を収納した。しかし、僕のアイテムボックスの中身は、ほとんどが食材だよな。肉はそれほど多くないけど、穀物や野菜は売るほどある。


「それと、可能ならでいいんだが、果樹園を見てきてくれないか? 道沿いの、地下に根を張る果樹の葉や若い実が、風もないのに落ちたと言っていた。果樹園は、高原からの小川の水も使っているが、地下水の汲み上げもしているんだ」


「わかりました。小川の水の汚れか、地下水脈の水量が減っているのかもしれませんね。そのあたりも確認してみますね」


「頼むぜ。あぁ、ジョーモには、食材を渡した話はしないでくれ。俺が気にしていると知られると、またうるさいからな」


 料理長は本当に、ジョーモさんの親代わりだな。僕は、軽く頷いておいた。




「遅かったっすね。料理長に何をさせられてたんすか」


 ジョーモさんは、料理長の方を睨んでいる。


「ソアラ高原に行くときに、近くの果樹園の様子を見て来てほしいと頼まれたんですよ。地下水脈か小川のどちらかに、ちょっと問題がありそうです」


「ふぅん、そういう繊細な調査は、俺には言わないんすよね。まぁ、俺は細かい作業は苦手っすけど」


 ジョーモさんが、少年のように拗ねている。今日の服装が若いから、そう見えるのかもしれないけど。



「ごめんなさい! 遅くなりました!」


 ええっ!? モモさん? ハーフパンツ姿のモモさんは、初めて見た。めちゃくちゃ可愛い! あっ、失礼か。


「モモさん、大丈夫っすよ。アズさんのせいで、エドさんの夕食が途中っす」


「よかったぁ〜、遅くなったかと思っちゃった。エドさん、ゆっくり食べてくださいね。私は、さっき食べてきたので」


 遅くなったかと思っちゃったのかぁ。あっ、また、ジョーモさんがニヤニヤしてる。僕が変な顔をしているのかもしれない。



「モモちゃんも、チーズケーキ食べる? 美味しいよ」


「チーズケーキ、いいわね。あーちゃん、おでこにクリームが付いてるよ」


 モモさんはタオルを取り出して、ケモ耳の女の子のおでこを拭いてあげている。優しいなぁ。しかし、なぜ、何でもおでこに付くんだろう? ごはん粒はまだわかるけど、クリームも飛ぶのかな?



「あーちゃん、フルーツタルトの味見をお願いできるかな? 明日のお子様用に、ちょっと改良してみたんだ」


 さっきとは別の料理人さんが、小さなケーキを持ってきた。フルーツが乗ったクッキーにも見える。


「うんっ、いいよ。あっ、モモちゃんもチーズケーキを食べたいみたいだよ」


「じゃあ、持ってくるね」


「わっ! 私まですみません」


 モモさんは宿屋の娘なのに、料理人さんにも丁寧に接するんだよな。モテるだろうな。かわいいし、優しいし。


 僕は、少しモヤモヤしながら、残りの夕食を食べた。



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