44、それからしばらくして
ナープラストの全員追放から、ひと月ほどの時が流れた。
壁沿いに立っていたナープラストから追放された冒険者達は、目の前で彼らが断罪される姿を見て、少しは気持ちが晴れたと言っていた。また、あの場で見たことを、しかも大袈裟に、他の冒険者達に広めたようだ。だから、僕の能力も少し有名になってしまった。
あの後、追放ざまぁ支援局員は、かなり忙しかったようだ。だけど僕のガチャ壺には、何の反応もなかった。あれ以降、まだ次の対象者は見つかっていない。
プラストさんが団長に復帰したのは、当初は、ナープラストを解散させるためだったらしい。だが話をしているうちに、全員の追放を決意したそうだ。
僕は、解散と追放の違いは、10日間の再加入禁止期間の有無だと思っていた。あの後、王都の騎士団長エシャナさんから教えてもらったが、解散と追放では大きな違いがあるという。
パーティが解散すると、すぐに新たな別のパーティへの加入が可能だ。追放されると再加入禁止期間がある。これは、すべての冒険者に共通することだ。
しかし、高位冒険者と呼ばれるAランク以上の冒険者には、遵守しなければならない倫理規定があるそうだ。下位冒険者へのサポート義務はもちろんだが、高位冒険者としての品格を保持する義務があるらしい。
プラストさんは、ナープラストが非道なパーティに堕ちたことを理由に、全員を追放すると宣言した。高位ランク冒険者の追放には、グランドマスターの許可が必要らしい。リーズ公爵が来ていたのは、そのためだそうだ。プラストさんの団長復帰や高位ランクの解散にも、リーズ公爵の宣言が必要だったみたいだけど。
高位ランク冒険者の倫理規定により、Aランク以上の冒険者は、パーティから追放されると罰を受ける。それが1ランクダウンだ。
僕の感覚だと、1ランクダウンは重い罰ではない。それは、僕がやっとCランクに上がったばかりだからだ。
ランクアップのためには経験値が必要だ。一つ上がるためには、それまでの必要獲得経験値の2倍加算という計算式になっているらしい。つまり、僕の場合は、Dランクになるまでに必要だった経験値の2倍の経験値を、Dランクの間に新たに獲得したことで、Cランクへの試験を受けることができた。
だから上位になるほど、1ランクダウンの罰は大きい。きっと、SランクからAランクに落とされた団長や副団長は、年齢的にも体力的にも、もうSランクに戻ることはできないだろう。
エシャナさんは、周りからの評判の方が大きなダメージになると言っていた。Sランク冒険者は少ないから、高い報酬を出す依頼主は、誰がSランクかを知っているらしい。ランクダウンでAランクに落ちると、その冒険者への信頼は、地に落ちるそうだ。
しかも今回の件は、各地に広まった。セルス村をおとしめようとしたことに、盗賊セルス団に救われた経験のある人達は、大激怒しているという。あのとき喜んでいたのは、盗賊だけのようだ。そのため、今回の件に関わった人達が盗賊と繋がりがあると、噂されるようになったらしい。
実際のところは、わからない。ただ、Aランクに落とされた団長と副団長は、3日以内に手続きをせず、行方をくらませたため、冒険者登録を抹消されたそうだ。
◇◇◇
「あーちゃん、今日もかわいいね」
「あっ! いらっしゃいませなの。大人のお料理は、あっちのテーブルだよ」
ケモ耳の女の子は、以前に宿泊していた宿屋から、荷物の回収ができたようだ。冒険者カードも復活し、モンツク狩りの適正な報酬も入手できたらしい。だけど、セルス村には帰らず、宿屋フローラルに宿泊している。
彼女は、ナープラストの全員追放の翌日から、毎日、昼の食べ放題時間になると、食堂に現れるようになった。そのため、僕も、食堂を手伝う時間を昼に変更している。
新たなパーティへの再加入禁止期間が過ぎても、彼女は、冒険者ギルドへ行こうとはしない。やはり、あの件が、大きな心の傷になっているようだ。でも、セルス村に戻らないから、冒険者としてノワール洞窟の護衛をしたい気持ちに変わりはないみたいだ。
10日ほど前にモモさんが、ケモ耳の女の子のために、かわいいエプロンを買ってきていた。彼女が食べ放題で、よく服を汚していたからだと思う。
そのエプロンが気に入ったのか、彼女は、昼の食べ放題時間にはエプロンをつけて、お子様用の食べ放題のテーブルのお世話係を始めた。
料理長は、彼女の自発的なお手伝いを、大歓迎しているらしい。僕のように宿泊料を無料にしてやれと、宿屋のご主人に言っているようだ。
でも、ケモ耳の女の子は、お金には困ってないらしいから、僕としては、彼女のやりたいようにさせてあげるのが良いと思ってる。
「エドちゃん! お子様用のデザートが足りないよっ」
「あーちゃん、ありがとう。すぐに作るね」
「味見係は必要?」
「うん、いてくれると助かるかな」
「わかったっ。お邪魔しますっ」
ケモ耳の女の子が、ぺこりとおじぎをしてから厨房内に入ってくる様子がかわいくて、料理人さん達の手が止まる。
「おまえら、手が止まってるぞ」
料理長が注意するまで、料理人さん達の視線は、ケモ耳の女の子に釘付けだ。
僕は、フルーツをたくさん使った混ぜ飯を作る。食べやすいように、細かくカットしたフルーツをゼリーで固めた混ぜ飯が完成した。
「あーちゃん、味見をお願いします」
「うんっ、わかったっ」
いつからか厨房内には、彼女のための椅子まで用意されている。その椅子を出してきて、ちょこんと座ると、いただきますと言ってから、デザートを食べ始める。
彼女が食べ始めると、また料理人さん達の手が止まる。彼らは呆けているけど、呆けているだけではない。
「エドちゃん、美味しかったよっ。この前に食べたクレープっていうのがあると、これを挟んで食べると楽しいかも」
「クレープ? あー、甘い玉子焼き?」
僕が問い返すと、料理人さんが口を開く。
「エドさん、クレープはデザートです。玉子焼きとは別物ですよ。あーちゃん、クレープを焼くね」
「うんっ! 冷たいクリームもあると、楽しいかも」
「じゃあ、俺がクリームを作ります!」
「うんっ! よろしくねっ」
コクコクと頷いたケモ耳の女の子は、またホールへと戻っていく。彼女が厨房からいなくなると、料理人さん達は、料理に取り掛かった。
彼女がリクエストした料理は、いつも、子供達に大人気になるようだ。




