42、真偽の壺の下での事情聴取
「エドさん、アスカさんを連れて、こちらに来てくれないか? 不安ならジョーモも来てくれていい」
ナープラストの団長に復帰したプラストさんは、僕達に真ん中のお立ち台に来いと言っている。ナープラストのメンバーが集まる前に行くなんて、無理すぎる。
僕は、目立つことは嫌いだ。魔道具のおかげで話せるようになったけど、僕の本質は変わってない。
「エドさん、俺も行くっすよ」
「えっ? 僕は……」
「あーちゃんの汚名をそそぐことができるのは、エドさんだけっすよ?」
ジョーモさんに指摘されて、僕はハッとした。僕の背に隠れてジッとしている彼女の名誉を回復しないといけない。
「わかりました。あーちゃん、行くよ」
僕が手を差し出すと、彼女は、黒くて丸い嘘発見器を右手で抱えて、左手で僕の手をぎゅっと握った。彼女の手が冷たい。緊張……いや、怖いのかもしれない。
中央の壇上にはジョーモさんが先に上がり、僕達も続いた。ケモ耳の女の子に気づいたナープラストのメンバー達からは、嫌な言葉が聞こえてくる。
「おまえら、黙れ! エドさん、昨夜の話を頼めるか?」
ナープラストの団長に復帰したプラストさんは、僕に、拡声器を渡した。今までの僕なら、大勢の人前に立つだけでも失神していた。だけど、僕の手を握る小さな冷たい手が勇気をくれる。
僕は、前を向いた。恐怖で意識が飛びそうになるのを、必死にこらえる。
「皆さん、僕は、追放ざまぁ支援局員のエドです。昨夜、アスカさんに対応しました。彼女の主張と皆さんの話が、違うようでした」
僕は心底怯えているのに、魔道具の腕輪は、僕を普通の声で喋らせている。
「支援局員? アナタが騙されているのよ。その子は、セルス村の子よ。子供のフリをしているけど、子供じゃないわ。冒険者カードには46歳って書いてあったもの。オバサン、いえ、お婆さんじゃない。何もかも騙しているのよ!」
ケモ耳の女の子は震えている。これでは、せっかく持ってきた嘘発見器を使うこともできないか。
「あーちゃん、その黒い壺の魔道具を、僕に貸してくれるかな?」
そう尋ねると、彼女はコクリと頷いて、僕と握っていた手を離した。
あれ? そういえば、僕は、この魔道具に直接触れたことがなかったか。黒くて丸い嘘発見器は、彼女の魔力を帯びているが、僕に従ってくれそうだ。
僕は、それを高く掲げて、口を開く。
「これは昨夜、アスカさんが引き当てた魔道具です。僕のガチャ壺の特徴を受け継いだ嘘発見器になっています。アスカさんが使っても効果範囲は狭いので、僕が借りて使います」
僕は、魔道具の上をポンと押す。するとスイッチが入り、黒い壺は、白く変わった。僕は、魔力を流して効果範囲を拡張しようと意識する。
突然、左手の腕輪から強い光が放たれた。闘技試験場内に広がると、空中に無数の白い壺が現れた。まるで分身のようだ。
「何なんだよ! 変な物を浮かべやがって!」
「これは、僕のスキルです。僕が持つ魔道具の分身ですね。嘘をつくと色が赤く変わります。では、昨日の話に戻します」
少しザワザワしたが、口を閉じた人も多い。彼らの頭上に浮かぶ不気味な白い壺が、サーチも弾くためだろう。
「昨日の朝、アスカさんは、Dランクの筆記試験の前に、副団長さんから髪飾りをもらったそうです。チカラを発揮できる髪飾りだから試験に合格できるようにと、髪に付けてくれたと言っていました」
「私は、貸してあげると言ったのよ!」
彼女が叫ぶと、彼女の頭上の壺が赤色に変わった。
「副団長さんは、自分には可愛すぎる子供っぽい髪飾りだからアスカさんにあげる、と言ったそうですね」
彼女は、返事をしない。
「筆記試験の会場には髪飾りをつけて行く方がいいと、副団長さんに言われたそうですが、仕事で来ていた大人っぽい女性に、試験会場に魔道具を持ち込むのは禁止だと注意されたそうです。その女性は試験が終わるまで、髪飾りを預かってくれたようですよ」
彼女は、何かの魔法の詠唱を始めたようだ。
「僕は、合格直後のアスカさんに会っています。その後、女性が彼女に髪飾りを返すところも見ました。だから、アスカさんは、試験の不正はしていません」
僕は、プラストさんの方に視線を移した。うわっ! その直後、空中に浮かぶ壺が、炎に包まれた。
「くだらないわね! 何が嘘発見器よ! 追放ざまぁ支援ガチャでしょ? ガラクタしか出てこないわ。そもそも、支援局員をしているアナタは、まともな冒険者じゃないわよね? 私達に偉そうなことを言える立場かしら?」
こ、怖っ……。だが、怯んではいけない。
「アスカさんが引いた魔道具は、スーパーレアでした。ガラクタではありません。なぜ彼女を、こんな酷いやり方で騙して、追放したのですか?」
「私は、本当のことを言っただけよ! セルス村は盗賊の村よ? 見た目を偽って子供のフリをした盗賊を、パーティから追い出すことの何がいけないというの? 頭の悪い獣人が筆記試験に合格できるわけないじゃない。注意したという女性が実在するかも怪しいものだわ」
これが彼女の本心か。一瞬、赤くなった壺は、白に戻った。浮んでいる壺は、彼女の炎魔法では燃えない。
「ほう? 実在するかも怪しい女か」
えっ!? この声は……。驚いて振り返ると、王都の騎士団を率いるエシャナさんが、僕のすぐ後ろに立っていた。全く気づかなかった。いや、突然、現れたのか?
ザワザワと騒がしくなった。王都の第二騎士団長じゃないかという声が聞こえてくる。王都の騎士団は、いくつかあるのか。
「アスカさんに、魔道具の持ち込みを禁じたのは、私だ。試験の間、私が預かっていた。無知な副団長か、もしくは嫌がらせかと思っていたら、まさか、彼女を追放するための罠だったとはな!」
「違います! 私は、アスカさんに髪飾りを盗まれたのです!」
副団長さんが大きな声でそう返事をしたから、その付近に浮かぶ壺が、一気に赤く染まった。
「ほう? これが、エドさんのスキルか。錬金協会が浮かれていたのは、この能力だな。キミのガチャ壺には、嘘を見抜く能力があると聞いている。『混ぜ壺』というスキルは珍しいが、王都にもいたぞ。壺無双と呼ばれるスキルらしいな」
「えっ? 王都に、僕と同じスキルの人が……」
「あぁ、もう隠居している爺さんだが、錬金協会に協力し、ガチャ壺を創った人だ」
そうなんだ! 同じスキルの人が作ったガチャ壺だから、僕にも馴染むのかな。




