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37、アスカが冒険者になろうと思った理由

「信じられる仲間なら、もう見つかってるよっ」


 小さな手が、僕の腕を掴んだ。ケモ耳の女の子は、僕を信頼できると思ってくれてるんだ。嬉しい!


「あーちゃん、ありがとう。でも、もっとたくさんの信じられる仲間がいたら、楽しいと思うよ。冒険者ギルドに登録したのは、友達を作りに来たんでしょ?」


 僕が冒険者ギルドの話をすると、彼女の表情から笑みが消えた。冒険者カードを取られたって言ってたよな。


「あたしが冒険者になろうと思ったのは、ノワール洞窟の錬金協会の護衛をしたいと思ったからだよ。錬金協会は、いつも盗賊に狙われるのに、セルス団には依頼できないって、弟が教えてくれたの。冒険者にしか頼めないんだって。あたしはセルス団には入ってないから、冒険者になれば護衛をしてあげられるって思ったの」


 もうガチャ壺は消えているが、彼女が引き当てた簡易タイプの嘘発見器は、今の言葉が真実だと告げている。



「キミは、この街の錬金協会のために、そんなことを考えてくれてたんだな。それなのに、ナープラストがキミを傷つけた。すまない」


 右足が義足のプラストさんは、立ち上がって、彼女に深々と頭を下げた。


「えっ? どうしてお兄さんが謝るの?」


「俺がナープラストを立ち上げ、Aランクパーティにまで育て上げたのだ。だが、右足を失ったから、1年ちょっと前にナープラストから抜けたんだよ」


「右足を失ったの? あたし、治療できる魔導士を知ってるよ?」


「キミは、優しい子だな。俺の場合は、治療できなかったんだよ。俺の死んだ婆ちゃんがハーフだったんだ。王都の治癒魔導士に欠損部位の修復をしてもらったら、長い鳥の脚が生えたんだよ」


「ええ? 鳥の脚? 人化されてない鳥の脚?」


「あぁ、俺は人族だからな。人化の能力がない。見た目が鳥の脚というだけならいいんだが、長さが違いすぎるから歩けなかった。それで、切り落とすことになったんだ」


「欠損修復は、強い方が優勢になるよ。その鳥は、人族より強い種族なんだね。治せないのかなぁ」


 ケモ耳の女の子は、一生懸命に考えているようだけど、頭を抱えてしまった。治す方法がわからないのだろう。



「もう夜も遅い。キミは、休む方がいいね」


 プラストさんは、なぜか僕の顔を見ている。


「えっと、じゃあ、空き状況を聞いてきま……」


「いや、エドさんの部屋に泊めてあげる方がいいな。こんなことがあった少女を一人にするのか?」


「えっ、あ、そう、ですね……」


 でも彼女の情報では、46歳って書いてあったよな。見た目は、4〜5歳に見えるけど、大人かもしれない。



「あぁ、この子の荷物や受け取るべき報酬は、きちんと渡せるようにする。冒険者の地位を剥奪されたのなら、俺が責任を持って復活させる。ナープラストにも、しかるべき罰を考えるつもりだ。明日の夕方まで、時間をくれないか?」


「わかりました。僕には、どうすることもできないから、プラストさんにお任せします」


「任せてくれ。それから、ここで話を聞いていた冒険者には、噂の打ち消しを頼む。セルス団に知られて怒りを買えば、ナープラストなんて簡単に潰されるぜ」


 プラストさんは、具体的な指示はしないんだな。その方が、冒険者達は動いてくれるのか。


 ケモ耳の女の子の口から、何が起こったのかを聞いたから、きっと、皆は、彼女に同情しているだろう。プラストさんは、彼女が可哀想だとは言わなかった。盗賊セルス団を怒らせたら、という話に意図的にすり替えたと感じた。


 酒場時間はまだ続くのに、プラストさんに軽く挨拶をして帰っていく冒険者が増えてきた。噂を打ち消すために、飲む店を変えるのかな。



「エドさん、俺はもう少し飲むから、先に寝てくださいっす」


 ジョーモさんは、プラストさんと話をするつもりなのだろう。ケモ耳の女の子には聞かせたくないんだな。


「わかりました。あーちゃん、僕の部屋でもいい?」


「うんっ! エドちゃんが一緒にいてくれると嬉しい」


「じゃあ、フロントで鍵をもらって、部屋に行くよ」



 僕は、フロントの店員さんに簡単に事情を話した。すると、寝袋を貸してくれた。助かる!


 ケモ耳の女の子を連れて、僕の部屋へと、階段をのぼって行った。




 ◇◇◇



「あーちゃん、お風呂は部屋にはないんだ。魔法でスッキリしたけど、お風呂に入りたいなら着替えを持って、一緒に……あっ、あーちゃんはベッドで寝てよ?」


 ケモ耳の女の子は、僕の部屋に入ると、真偽の壺セットをテーブルに置き、僕が床に放り投げた寝袋に入ってしまった。すぐに、スースーと寝息が聞こえてくる。


 寝袋を取られてしまったな。僕が使おうと思っていたのに。あっ、僕のニオイがついたベッドが嫌なのか。


 僕は、寝袋をそっと抱きかかえて、ソファに移動させた。彼女は身体が小さいから、一人用のソファでもベッド代わりになりそうだ。


 僕も、寝るか。


 パジャマ代わりに使っている長袖シャツと長ズボンに着替え、僕は、ベッドに入った。彼女のスースーと眠る呼吸音に誘われるように、すぐに眠りに落ちていった。




 ◇◆◇◆◇




「痛っ!」


 まだ外は暗い時間に、お腹に何かが当たって目が覚めた。上体を起こそうとしても、右肩が重くて動けない。


 寝ぼけた頭で理由を考えていると、僕の胸あたりに、小さな足の裏が見えた。その直後、右肩が軽くなり……お腹にドーンと何かが乗った。


「あーちゃん?」


 スースースー、ズズッ


 まるで返事をするかのように、鼻をすする音が響く。


 上体を起こしてみると、ケモ耳だけが、僕のお腹に乗っていた。枕にされていたのか。ついさっきは、胸の辺りに、足の裏が見えていたよな。


 おっ! また動いた。布団をめくっているから寒いのか、モゾモゾと動いている。布団をかけると、モゾモゾは止まる。


 めちゃくちゃ寝相が悪いな。でも、寂しくなって、僕のベッドに潜り込んできたようだ。そうか、布団じゃなくて、僕のニオイを探していたのか。


 人の姿になれる種族は、特に獣系の種族は不安になると親のニオイを求めると聞いたことがある。人と同じ姿ができても、人族とは違う。彼女は、僕よりも長く生きているけど、たぶん、僕が親なんだろうな。


 プラストさんが、僕の部屋に泊めろと言った理由がわかった気がした。きっと、安心できるニオイがないと、彼女は眠れなかったのだろう。


 起きるには早いから、もうひと眠りしようかな。


 僕が寝転ぶと、今度は左肩が重くなった。ふふっ、ったく、どんな寝相だよ。


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