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114、山の迷宮のダンジョンコア

 突然現れた男性の姿は、スウセイさんも道具屋の店主にも見えているようだ。僕も驚いたけど、店主は腰を抜かしたのか、その場に座り込んでいた。


 僕と同じくらいの背丈の、緑色の髪に緑色の目をした褐色の肌の男性は、僕が持つ丸い鉢に手を伸ばした。彼の手から緑色の光が放たれると、丸い鉢は、スーッとしぼむように小さくなっていく。


 ダンジョンコアの分身だと言っていたよな? 彼は、植物系か。小さくなった丸い鉢は、彼の腰にアクセサリーのようにぶら下がった。彼は、この鉢に根を張っているか繋がっているようだ。



「エドさん、これは一体? ダンジョンコア?」


 スウセイさんは、目を輝かせている。


「はい、ダンジョンコアの分身のようです。本体は、ゴーレムに喰われたと話していました。彼の声は、聞こえなかったですか?」


「エドさんの声しか聞こえなかったよ。やはり、エドさんは、ダンジョンコアに好かれるね。珍しい魔物かと思ったら、まさかの人化するエネルギー体だとはね」


 緑色の髪の男性は、今の身体に慣れるためか、身体を動かしている。発声はできるのだろうか。ソアラ迷宮のダンジョンコアは、上半身しか人化できないけど、分身でも発声はできたよな。



『私には、発声は難しいみたいだよ。ソアラ迷宮って何かな? 最近のことは、わからないの』


 発声はできないのに、頭の中を覗けるのか? それに、見た目は30歳前後に見える男性だけど、話し方は女性だな。


「ソアラ迷宮は、最近できたんですよ。アナタは男性に見えるけど、女性っぽい話し方なのは、本体の感覚なのかな?」


『あはっ、バレてる。分身は人化すると男の子になるけど、ダンジョンコアが喰われたときに、本体の意識が合流したの』


「じゃあ、本体と分身の二人が共存しているのかな?」


『まぁ、そうだね。キミは、変わった人族だねー。私をダンジョンコアだと見抜く人族がいるなんて、驚きだよ。ソアラ迷宮のダンジョンコアを知っているからかな』


「ソアラ迷宮のダンジョンコアは、上半身しか人化できないけどね。それに、見た目は幼児だし」


『ふぅん、そっかぁ。じゃあ私は、山に帰ろうかな? キミから魔力をもらったから、私の迷宮を取り返すことにするよ』


「えっ? 山に帰る? ちょっと待って」


 僕は、スウセイさんの方に視線を移した。めちゃくちゃ楽しそうな顔をしてる。



 道具屋の店主が、やっと立ち上がった。


「あの、お客さん、この褐色の肌の男性が、魔道具に入っていたのですか」


「そのようですね。魚を獲っていたとのことでしたが、もう彼は自由にしてあげても大丈夫ですよね?」


 一応、この店の商品だもんな。


「人身売買は、店舗ではできませんからね。いや、人ではなく、ダンジョンコアの分身でしたか。私には、彼の声は聞こえないのですが」


「ええ、ダンジョンコアの分身だそうですよ。ただ、僕が知るダンジョンコアに比べると、かなりエネルギーが足りないようです」


 解放しても大丈夫みたいだな。まぁ店主は、手放したがっていたもんな。



『ふぅん、私が知っている状況とは違うのね。私がチカラを失っていた間に、山の神の屋敷が荒らされたのかな?』


「えっ? 僕の頭の中を覗いた?」


『そっちの血の臭いがする年寄りは、思念もダダ漏れだからね。キミの友達には、ガードされるけど』


 店主の頭の中を覗いたなんて、口に出せないな。



「お客さん、ダンジョンコアは、何と?」


「あぁ、山の神の屋敷のことを話していました。彼がチカラを失っていた間に、かなり状況が変わったことに気づいたようです」


「そうですな。山の神が暴れているという噂もあります。冒険者には、どこが山の神の屋敷かわからないでしょうから、ダンジョン攻略のつもりで、いろいろと持ち出したようですね」


 店主は、僕を毒使いだと信じているからか、友好的だ。闇市から品物が流れてくるなら、裏ギルドとの繋がりもあるだろう。



『うーむ、私は、まだ10%だよねー』


「ん? 10パーセント?」


 ダンジョンコアが何を言い出したのか、僕にはわからない。すると、スウセイさんが、何かひらめいたのか、ポンと手を叩いた。


「エドさん、このエネルギー体が、まだ10%までしか回復してないんだね。大気中からマナを取り込んでいるようだけど」


「あっ、まだ全然回復できてないのですね」


「それに、山の神に関しても、何も知らなかったのなら、魔物化したダンジョン群のことも、わからないんじゃないかな。チカラも知識も万全じゃない状態で、元の迷宮に帰っても、他の迷宮のエサになるだけだよ」


 確かに、スウセイさんの指摘は正しい。だけど、僕達か、干渉すべきことじゃないよな。



『ふぅん、そっか。じゃあ私は、キミ達と一緒に行こうかな。私のダンジョンは、山の神の屋敷のある迷宮の近くにあるから、キミ達の目的地だよね?』


「僕達と一緒に行くの? まぁ、目的地は同じだけど、すぐには出発できないよ」


『ん? あぁ、何かよくわからないことになってるんだね。私には、理解不能なんだけど』


 作戦のことか。確かに、頭の中を覗いていても、わからないよな。



「一緒に旅をしている仲間が、さっき食堂で、髪飾りを失くしたからね。それを見つけてからかな」


 ダンジョンコアは、腕を組み、首を傾げている。


「あぁ、お客さん、それで、変なのを引き連れてきたのですな。髪飾りが売りに出ていたら買うつもりで、お金を下ろしましたか?」


 どう答えるべきか、一瞬、言葉に詰まった。


「彼は、たいした金額は下ろしてなかったけど、つけられてたね。俺は、ワクワクしてたんだけどさ」


 スウセイさんが、目を輝かせている。


「盗賊達には、相手の力量がわからない者もいますからね。高位ランク冒険者は顔バレしていますが、裏の人は、隠されると、気づかないですからな」


「俺としては、襲いかかって来たら、喜んで迎撃するんだけどね」


 店主は、苦笑いだ。スウセイさんが本気なのは、わかっているみたいだな。



「お客さん、盗品でしたら、いったんウチに来ますよ。闇市の乱立を防ぐために、この町にも、ハコロンダのような取りまとめの組織があります」


「へぇ、宿場町なのに?」


 スウセイさんは、上手く知らんぷりをしている。もしかして、ここがその組織だと予想していたのかな。


「はい、お二人のような人が探すということは、貴重な品物でしょうか?」


「たいした物じゃないよ。ただ、失くした子が、落ち込んでるからね。また、明日にでも寄らせてもらおうかな」



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