113、売れない魔道具は
スウセイさんが扉を開けると。カランコロンと扉のベルが鳴った。低くて良い響きだな。
店内は、道具屋にしては、かなり広いと感じた。トランクの街なら、道具屋には、魔道具を扱う店とポーションなどの消耗品を扱う店があるけど、この店には両方あるようだ。
僕達以外には、お客さんはいない。変わった道具屋だと言っていたから、客を選ぶのだろうか。
「へぇ、いい品揃えだな」
スウセイさんは、魔道具の方へと歩いていく。僕は、別の物が気になったが、彼から離れるのは怖い。
「いらっしゃい。ごゆっくりどうぞ」
店主らしき年配の男性は、太っているためか、穏やかそうな人に見えた。愛想のない宿屋の人達とは大違いだ。
「何か、買うんですか?」
「ん? そうだね。掘り出し物を見つけたら買うかな。エドさんは、欲しいものはないの?」
スウセイさんにそう尋ねられ、僕は、気になっていた方に視線を向けた。あれが何かはわからない。でも、僕は強く惹かれる。
「お客さん、それは、魚を捕らえるための魔道具なんですよ。ただ、扱いが難しくて、ずっと前から売れなくてね」
「捕獲器なんですか?」
僕は、つい、尋ねてしまった。
「はい、そう聞いています。見た目に反して重いので、投げられないですね。花瓶としてなら使えそうですけどね」
店主は、その魔道具を売りたいのだと感じた。投げて使う魔道具が重すぎるなら、確かに使えないよな。
スウセイさんは、興味を持ったのか、その魔道具に近づいていく。
「触ってみても大丈夫ですかー? かなりホコリだらけだな」
スウセイさんがそう言うと、店主は、モップを手にして、その魔道具へ近寄っていく。
「周りは触っても大丈夫ですが、中に手を入れないでくださいね。たぶん、何かが棲んでいると思います」
何かが棲んでいる? 店主は、モップでホコリを払った。すると、カタッと音がした。魔道具が勝手に動いたのか?
「エドさんが、触ってみてよ。俺には反応しない。店主、この魔道具には、スイッチはないみたいだね」
「魔力を流せば、スイッチが入りますよ。ただ、ここではやめてくださいね。以前、お客さんが魔力を流して、事故が起こりましてね」
事故?
「ふぅん、そういうことか。これは、闇市から流れてきたんじゃないかな? 魔道具ではなく、魔物でしょ。事故というのは、コイツに喰われたのかな?」
魔物? 喰われた?
「あはは、参りましたな。お客さんのおっしゃる通り、魚を捕らえる魔物ですね。ウチを気に入ったらしくて、捨てても戻ってくるのですよ」
魔物を道具屋に置いているのか?
「エドさん、早く触ってみてよ。俺は、これがどんな魔物なのか、興味がある」
「いや、僕は……」
「毒使いが、負けることはないよ」
えっ? ちょ、スウセイさんは、何も知らないフリをするんじゃなかったのか? 僕がただの料理人という設定では?
僕は、思いっきり顔に出たのだと思う。スウセイさんは、ニヤニヤしてるけど。
「僕は、料理人で……」
「あぁ、そういうことにしてるんだよな。だけど、俺にはわかるんだよ。まぁ、目的は聞かないけどね」
あれ? 何か、芝居が始まってる? 僕は、どうすれば良いか、わからない。
すると、店主の目つきが変わった。優しいお爺さんの雰囲気が消えている。マズくないか?
「お客さんは、裏の人か。あぁ、私は秘密は守るから、安心してください。素性を隠しても、彼のような高位の魔導士には、バレるものですよ」
「えっ? あ、いや……」
ダメだ。僕は、どう話せばいいかわからない。
「お客さん、触ってみてくれて構いませんよ。私も、その魔物は手放したい。ウチの店に、もう何年も棲みついているんでね。そいつが、お客さんを認めるなら、無料で構わない」
そう言われて値札を見た。金貨3枚になっている。めちゃくちゃ、高っ!
「金貨3枚の魔物、いえ、魔道具ですか」
「何年も前に、闇市から流れてきたときの値段を付けていますが、もうそれ以上の働きをしてくれたと思います。以前は、持てる重さだったから、これを使って魚を獲っていました。だが今は、それも出来なくなった。ちょっと、手に負えない」
まるで焼き物のような魔物か。うん、店に入ったときから、ずっと気になっていた。僕を呼ぶような鳴き声らしき音が、ずっと聞こえているからかな。
僕は、その魔物に触れてみた。ひんやりしていて、表面は少しザラザラしている。
『キュイッ』
鳴き声が、ハッキリと聞こえた。だけど、スウセイさんには聞こえてないのか?
「持ってみてもいいですか?」
「お客さん、持てないですよ。浮遊魔法は弾かれるし」
いや、持てそうな気がする。スウセイさんの方を見ると、ワクワクした顔で、頷いている。
僕は両手で、その魔物を持ってみた。花瓶というより、丸い植木鉢のようだと感じた。両手じゃないと持てない大きさだが、全く重さを感じない。
「へ? すごい力ですね。これを台車に移すには、以前でも数人がかりでしたよ」
「この魔物の声は、聞こえませんか? 僕には意味がわからないのですが」
ずっと、キュイッ、キュイッと歌うように喋っているようだ。魔力を流すとわかりそうだけど、襲いかかってきても困るよな。
「エドさん、声が聞こえるの? 俺には何も聞こえない。魔力を流してみてよ。何か起こったら、俺が防ぐからさ」
スウセイさんは、目を輝かせていた。店主は、目をパチクリさせている。
そうだな。中身を知りたい。僕は、ゆっくりと魔力を流してみた。壺の中に緩やかな流れを作ると……。
『キミは、不思議な人族だね。私のことがわかってる?』
「えっ? わかってないよ」
『この鉢は、私の迷宮にあったの。ずっと昔の植木鉢みたい。私の迷宮は、ゴーレムに乗っ取られたから、もうないんだけどね』
「ええっ? もしかして、ダンジョンコアなの?」
僕が思わず叫ぶと、壺から、細い葉をつけた何かが出てきた。
『ダンジョンコアは、ゴーレムに喰われたの。私は、逃げ出した分身だよ。でも、朽ちてしまって動けなかった。キミのおかげで、復活できたよ』
細い茎がスルスルと伸び、深緑色の光に包まれていく。ガツンと魔力を持っていかれたけど、すごい勢いで魔力が回復している。このダンジョンコアが、僕を回復しながら、魔力を吸っているのか。
その光が弾け飛ぶと、目の前には、僕と同じくらいの背丈の、緑色の髪に緑色の目をした褐色の肌の男性が立っていた。




