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113/118

113、売れない魔道具は

 スウセイさんが扉を開けると。カランコロンと扉のベルが鳴った。低くて良い響きだな。


 店内は、道具屋にしては、かなり広いと感じた。トランクの街なら、道具屋には、魔道具を扱う店とポーションなどの消耗品を扱う店があるけど、この店には両方あるようだ。


 僕達以外には、お客さんはいない。変わった道具屋だと言っていたから、客を選ぶのだろうか。



「へぇ、いい品揃えだな」


 スウセイさんは、魔道具の方へと歩いていく。僕は、別の物が気になったが、彼から離れるのは怖い。


「いらっしゃい。ごゆっくりどうぞ」


 店主らしき年配の男性は、太っているためか、穏やかそうな人に見えた。愛想のない宿屋の人達とは大違いだ。


「何か、買うんですか?」


「ん? そうだね。掘り出し物を見つけたら買うかな。エドさんは、欲しいものはないの?」


 スウセイさんにそう尋ねられ、僕は、気になっていた方に視線を向けた。あれが何かはわからない。でも、僕は強く惹かれる。



「お客さん、それは、魚を捕らえるための魔道具なんですよ。ただ、扱いが難しくて、ずっと前から売れなくてね」


「捕獲器なんですか?」


 僕は、つい、尋ねてしまった。


「はい、そう聞いています。見た目に反して重いので、投げられないですね。花瓶としてなら使えそうですけどね」


 店主は、その魔道具を売りたいのだと感じた。投げて使う魔道具が重すぎるなら、確かに使えないよな。



 スウセイさんは、興味を持ったのか、その魔道具に近づいていく。


「触ってみても大丈夫ですかー? かなりホコリだらけだな」


 スウセイさんがそう言うと、店主は、モップを手にして、その魔道具へ近寄っていく。


「周りは触っても大丈夫ですが、中に手を入れないでくださいね。たぶん、何かが棲んでいると思います」


 何かが棲んでいる? 店主は、モップでホコリを払った。すると、カタッと音がした。魔道具が勝手に動いたのか?



「エドさんが、触ってみてよ。俺には反応しない。店主、この魔道具には、スイッチはないみたいだね」


「魔力を流せば、スイッチが入りますよ。ただ、ここではやめてくださいね。以前、お客さんが魔力を流して、事故が起こりましてね」


 事故?


「ふぅん、そういうことか。これは、闇市から流れてきたんじゃないかな? 魔道具ではなく、魔物でしょ。事故というのは、コイツに喰われたのかな?」


 魔物? 喰われた?


「あはは、参りましたな。お客さんのおっしゃる通り、魚を捕らえる魔物ですね。ウチを気に入ったらしくて、捨てても戻ってくるのですよ」


 魔物を道具屋に置いているのか?



「エドさん、早く触ってみてよ。俺は、これがどんな魔物なのか、興味がある」


「いや、僕は……」


「毒使いが、負けることはないよ」


 えっ? ちょ、スウセイさんは、何も知らないフリをするんじゃなかったのか? 僕がただの料理人という設定では?


 僕は、思いっきり顔に出たのだと思う。スウセイさんは、ニヤニヤしてるけど。



「僕は、料理人で……」


「あぁ、そういうことにしてるんだよな。だけど、俺にはわかるんだよ。まぁ、目的は聞かないけどね」


 あれ? 何か、芝居が始まってる? 僕は、どうすれば良いか、わからない。


 すると、店主の目つきが変わった。優しいお爺さんの雰囲気が消えている。マズくないか?



「お客さんは、裏の人か。あぁ、私は秘密は守るから、安心してください。素性を隠しても、彼のような高位の魔導士には、バレるものですよ」


「えっ? あ、いや……」


 ダメだ。僕は、どう話せばいいかわからない。



「お客さん、触ってみてくれて構いませんよ。私も、その魔物は手放したい。ウチの店に、もう何年も棲みついているんでね。そいつが、お客さんを認めるなら、無料で構わない」


 そう言われて値札を見た。金貨3枚になっている。めちゃくちゃ、高っ! 


「金貨3枚の魔物、いえ、魔道具ですか」


「何年も前に、闇市から流れてきたときの値段を付けていますが、もうそれ以上の働きをしてくれたと思います。以前は、持てる重さだったから、これを使って魚を獲っていました。だが今は、それも出来なくなった。ちょっと、手に負えない」


 まるで焼き物のような魔物か。うん、店に入ったときから、ずっと気になっていた。僕を呼ぶような鳴き声らしき音が、ずっと聞こえているからかな。



 僕は、その魔物に触れてみた。ひんやりしていて、表面は少しザラザラしている。


『キュイッ』


 鳴き声が、ハッキリと聞こえた。だけど、スウセイさんには聞こえてないのか?



「持ってみてもいいですか?」


「お客さん、持てないですよ。浮遊魔法は弾かれるし」


 いや、持てそうな気がする。スウセイさんの方を見ると、ワクワクした顔で、頷いている。



 僕は両手で、その魔物を持ってみた。花瓶というより、丸い植木鉢のようだと感じた。両手じゃないと持てない大きさだが、全く重さを感じない。


「へ? すごい力ですね。これを台車に移すには、以前でも数人がかりでしたよ」


「この魔物の声は、聞こえませんか? 僕には意味がわからないのですが」


 ずっと、キュイッ、キュイッと歌うように喋っているようだ。魔力を流すとわかりそうだけど、襲いかかってきても困るよな。



「エドさん、声が聞こえるの? 俺には何も聞こえない。魔力を流してみてよ。何か起こったら、俺が防ぐからさ」


 スウセイさんは、目を輝かせていた。店主は、目をパチクリさせている。


 そうだな。中身を知りたい。僕は、ゆっくりと魔力を流してみた。壺の中に緩やかな流れを作ると……。




『キミは、不思議な人族だね。私のことがわかってる?』


「えっ? わかってないよ」


『この鉢は、私の迷宮にあったの。ずっと昔の植木鉢みたい。私の迷宮は、ゴーレムに乗っ取られたから、もうないんだけどね』


「ええっ? もしかして、ダンジョンコアなの?」


 僕が思わず叫ぶと、壺から、細い葉をつけた何かが出てきた。


『ダンジョンコアは、ゴーレムに喰われたの。私は、逃げ出した分身だよ。でも、朽ちてしまって動けなかった。キミのおかげで、復活できたよ』


 細い茎がスルスルと伸び、深緑色の光に包まれていく。ガツンと魔力を持っていかれたけど、すごい勢いで魔力が回復している。このダンジョンコアが、僕を回復しながら、魔力を吸っているのか。


 その光が弾け飛ぶと、目の前には、僕と同じくらいの背丈の、緑色の髪に緑色の目をした褐色の肌の男性が立っていた。



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