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――納戸の前

 現れたのは、積み上げられたいくつもの箱。それらのうちいくつかは、紐で厳重に縛られている。


「う……む。骨董品か? あるいは……って、ヲイ」

「おっ、お宝、おっ宝〜」


 早速美菜が一位番上にある箱を手にとった。

 そしてすぐに紐をほどきにかかる。


「あっ……ちょっt」

「よし、解けた。何が出るかな〜」


 無造作に蓋を開け……これまた無造作に中身を取り出す。


「ん〜? 何か古ぼけたお茶碗だね。捨てちゃっても良いかな?」

「あのな……」


 美菜の手中の“茶碗”を見、礼司は頭を抱えた。


「ちょっと待て。それ、多分茶器の類じゃないのか? ひっくり返してみろ」

「チャッキー……って何? 底に何かあるの? ……あっ、何かサインしてある。でも、読めないや。きっと有名人じゃないよね〜」

「……あーのーなァ〜。歴史の授業ちゃんと聞いてたか? それに俺も教えただろ? ちょっとそれを見せてみろ」


 礼司は茶器と箱書を見、そしてスマホで検索をかけた。

 その結果は……


「ヲイ。これ、天目茶碗だぞ。しかも、そこそこ有名な人が作ったヤツだ。本物なら、だがな」

「そーなの?」


 礼司は慌ててその茶碗をしまうと、再び厳重に梱包した。


「じゃあ、ナンタラ鑑定団とかに出したら高値がつくかな? もし売れたら二人で一緒にどっかへ旅行行こ? 温泉とか……値段によっては海外も良いかな?」

「いや待てや。会長の資産を勝手に売っぱらったりしたらマズいだろうが」

「あー、それもそっか。仕方ないね。……じゃあ、次!」

「お……おう。次は……これか」


 その下にあった木箱。各辺30cm強ほどの大きさだ。


「う……む。この大きさ。変な臭いはしないな。かなり軽いから……」

「開けるね〜」

「あっ、おい……」

「うひゃあっ!」


 木箱を開けるなり、美菜は素っ頓狂な声を上げた。

そして、そのまま蓋を手に持って、じっと見つめている。


「どうしたんだ?」


 礼司も気になって中を覗き込む。するとそこには……。


「これは……面か。能とかに使う般若の面」

「そっか〜。蓋開けたら顔があるからびっくりしちゃたよ。じゃあ、次!」

「おう……」


 そうして次々に箱が開けられていく。

 そして一番下にあった大きな木箱が引き出された。


「ン? 何だろ、この大きな箱。ものすごく厳重に縛ってあるね。何が入ってるのかな?」

「う……む。確かに。だが、これは嫌な予感がする」

「え〜〜? ビビってるんスかぁ? ちょっとばかし小さくないっスか〜」

「待てや。なぜ煽る……」

「はい! じゃあ、早速開けるね!」

「……頼むから大事に扱ってくれ」


 美菜がゆっくりと紐を解き、蓋を外す。と、


「えっ……?」

「コイツは……」


 おそらく全長は1mと半ばであろうか。布に包まれた“何か”が横たわっていた。

 その横幅は50〜60cmほど。上下に扁平な紡錘形……


「も……もしかして人間? ミイラ? え? あのっ、どーしよ?」


 パニックになる美菜。


「妙な臭いはしないが……ヤバいモノかもな」


「もしかして犯罪……? ご先祖様が悪いことをしていて……」

「いや、ちょっと待て。落ち着け。とりあえず……」


 礼司はそっと布の上から“それ”を触ってみる。

 まずは、中央側面。


「……! これは……」


 詰め物と思しき柔らかい塊。そして細長い棒状の……


「腕、か⁉︎」

「じゃ……じゃあ、死体?」

「いや待て、人形の可能性もあるんだが……」

「何やら騒がしいが……どうした?」


 と、そこにミヤビがやってくる。


「ああ、荷物を整理してたら“これ”が出てきたんだ」

「ふむ……」


 彼女は“それ”に手をかざす。


「妙な“気配”は感じぬな。いや……永羽に近い“気”はごく僅かにある。おそらくは人形の類だな」

「え? 永羽ちゃんみたいに動くの? これも?」


 ちょっと嫌そうな顔をする。


「いや……そこまでの“力”はないだろうな。精々、前の持ち主の“想い”が籠っているくらいだな」

「そっかー。じゃ、安心して開けられるね! 早速……」


 すぐさま美奈は布を剥がしにかかる。


「あっ……ちょっと待っ……」


「あっ、お人形! 綺麗だな〜〜」

「は?」

「見てよ〜。可愛いよー」

「ん?」


礼司は箱を覗き込んだ。

中に入っていたのは、精緻な衣装を纏った美しい少女人形。

見る者全てを魅了する、愛らしい微笑。まるで生きている様な生気に満ち溢れている。

それはまさに、極上の芸術品。それだけの力が、その人形にはあった。


「う……む」

(コレって……まさか西洋のビスクドールだっけか、の類か? それにしても凄い出来だ)


 などと、ひとしきり感心した。


「ところで、なんでこんなもんがここに……?」

「ねぇ、この子。もしかして今にも動きそう? まさか……また邪魔者が……⁉︎」


 何やら美奈がブツブツ言っている。


「とりあえず、一通り確認したし、元通りに梱包して元に戻そう」

「うん……」

「? どうした?」

「お宝がこんだけあるのにさー。このまま戻しちゃうのも惜しいかなって」

「そりゃそうだけどさー、俺たちのお宝じゃないしさ」

「それもそっかー」


 そしてビスクドールを梱包し直したのち、荷物を元に戻しそうと……


「……ん?」


 その時、微かな風を感じた。

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