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――しばしのち

「お昼ごはん、出来たわよ」


 物置となっている離れで荷物を整理していた礼司たちのところに永羽がやってくる。


「おおっ、待ってましたー」


 気色満面で美菜が振り返り……


「な゛っ……アンタなんて格好してるのさッ⁉︎」


 そして固まった。視線を追った礼司も同様だ。


「何って……エプロンじゃない? 料理するのだから必要でしょう?」

「お……おう」


 確かにその通りである。しかし、


「裸エプロンなんていくら何でも……」


 美菜は永羽を指差し……


「裸? 服はちゃんと着てるわよ?」


 当の彼女は踵を返して背中を見せる。


「あっ……」

「お……おう」


 タンクトップとミニスカートであった……。

 確かに彼女は服が嫌いではあったが、一応の常識はある様だ。



――座敷

「おおっ、ずいぶん豪華だな」


 卓上に並べられた料理の数々。礼司たちは目を見張った。

 これは、永羽の手によるものだ。当初は礼司が準備するつもりであったが、彼女が役目をかって出たのだ。

 当初は礼司も大丈夫なのかと心配したが、彼女は自信がある様だった。

 そして実際、その手際も良い。

 あっという間に何品もの料理が出来上がっていた。


「お疲れさん。昼だし、もっと軽めでも良かったんだけどさ」

「ふふっ、ごめんなさい。礼司さんの役に立てると思うと、張り切ってしまって」

「そっか。ありがとな」


 テーブル上には、幾品もの料理。

 なかなかに豪華である。


(とはいえこの量、冷蔵庫の中身はもう空っぽか……)


 後々のことを考えると、素直に喜べない礼司であった。悩みどころではある。


(今日から四人暮らしか……。少なくとも食費はその分かかるって訳だな。管理手当、美菜ちゃんの食費ぐらいはもらえると良いんだけどなー。やっぱし無理か? ……いや、今考えるのは止めとこう。せっかくの飯がマズくなる)


「じゃあ、いただきます」

「いただきます! 美味しそー」

「では、いただこうか」

「どうぞ、召し上がれ」


 そして、礼司は肉じゃがを一口。

 懐かしい味が口中に溢れる。


「……美味い! こ、これは……母さんの味⁉︎」

「ふふっ……当たり前でしょう? 私は貴方のお母様によって創られた。その“想い”は今も私の中にあるの」

「そ……そっか」

「何なら甘えても良いのよ?」

「……えっ?」


 彼女は腕を広げ……


「う……む。(い……いや、マズくね?)ソ、ソノヘンハマダダイジョウブデス」


 とりあえず、回避。

 しかし、


「礼司さんって……マザコン?」


 美菜の冷たい視線。


「いいいや違うって! そっ、そもそも母さんの味って、味覚のデフォだろ? 美菜ちゃんだってそうじゃない?」

「いやあの、ウチのお母さん、そもそもマトモな料理作らないからね?」

「えっ?」

「ん?」

「いやあの……そうなん?」

「だって元ヤンでしょ? ほぼお祖母ちゃんが作ってるし、作るとしても出来合いよ」

「お……おう」


 礼司は思わず視線を逸らした。

 乾輝一家は母方の祖父母の近くに住んでいるのだ。多忙な両親に代わって時々面倒を見てくれているのだろう。


「あのっ! 礼司さん⁉︎ あたしも料理作れないって訳じゃないからねッ! そのっ、お祖母ちゃんからちゃんと学んでいるから!」

「お……おう」

(何故そこまで必死に……)


 思い当たる節はないでもなかったが、それ以上考えないことにした。



――昼食後

「さーて、とっととコイツをブチ開けますか!」


 美菜はハンマーとバールの様な物を再び持ち出した。それらをブンブンと振り回す。


「あのな……扉は壊すなよ」

「え゛〜〜、ダメぇ?」

「駄目に決まってるだろが! いかにも高そうな造りだぞ、コレ。壊したら修理代がいくらかかるか分からんぜ?」

「へ? そうなの? う〜ん……どうしよう」


 美菜は頭を抱えた。


「う〜ん、役に立てると思ったんだけどな〜〜」

「まぁ、落ち着け。とりあえず、開かない原因を調べないとな」


 礼司は引き手部分を注視した。

 よく見ると、それは単なるくぼみではなく、独立したレバーを備えていた。どうやらそれが、扉の開き止めになる空鍵の解除レバーなのだろう。

 しかしレバーは、先刻同様に力を入れて引いても微動だにしなかった。

 手を離した礼司の指先。そこには、赤茶色の粉が付着している。


「やっぱり錆か。中の部品が完全に錆び付いて動かないんだろうな。……ちょっと待ってな。確か錆落としはまだ残ってたはず」


 礼司は再び離れへと向かった。そして、何本かスプレー缶を持って戻ってくる。

 彼はそのうちの一つを持ち、取手のレバー基部に吹き付ける。それは泡となってレバーを覆った。

 と、射出直後は白かった泡が即座に紫に変色する。それは、錆を中和した証。だが、その速さからして相当内部の錆びつきは酷いであろう。


「……おっしゃ。では、次だ」


 礼司はパーツクリーナーを吹き、出てきた紫色の泡を拭き取る。それを終えると、今度は潤滑油を吹きつけた。

 そして再びレバーに手をかかる。


「……う〜む? ちょっとは動くか? でも、まだダメだな」


 時折レバーを動かしてみたりしながら先刻の作業を繰り返すこと数度。

 やがてレバーが大きく動き、空鍵が解除される音が鳴った。


「おっ? ……よっしゃ。行けるか」


 扉は軋みを上げつつ開いた。

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