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Collapse --Replicated Errors--  作者: XICS
過ちを正せ
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80/82

首都突入

 カリムたちが傭兵に依頼を出したことは知る由もなく、リーゼと『貪食の黒狗』の面々は既に首都の関所までたどり着いていた。見張りを行っているはずの衛兵の姿はどこにもなく、不気味なほどに閑散としている。ヴェルデの言ったとおり首都が危機に陥っているのであれば、衛兵たちすらも防衛のために駆り出されているのだろうとリーゼは考えていた。

「誰もいないようだな。そのまま通らせてもらおう」

 ライトが周りを見渡しながらそう言うと、リーゼたちが無言で頷く。首都の中へ足を踏み入れようとした――その時だった。


 突如として、大地を揺らすような重低音が響き渡った。爆心地が近いためか、その轟音はリーゼたちの足を止めるほどの凄まじさだった。


 リーゼたちは思わず爆音がした方角を向くと、灰色の煙が太い柱となって空へ立ち上っていた。

「……特別刑務所があるところか?」

 ライトが独り言ちる一方で、ヴェルデ、ミアータ、ビストは戦慄していた――爆発した方角から、尋常ではない量のマイアが飛び交っているのを感じたのだ。

「兎に角、今は首都に向かうのが最優先だ。行くぞ」

 ライトの言葉で我に返った三人は頷き、彼に先導される形で首都へと足を踏み入れた。

 しかし、リーゼの視線だけは、爆発によって立ち上った煙に釘付けになっていた。心ここにあらずといった表情で、両手で首飾りを握りしめながら。立ち尽くしているリーゼに気付いた『貪食の黒狗』の面々が思わず立ち止まる。

「何してんの? 早く行くよ」

「……えっ? あぁ……ごめんなさい」

 ミアータの声で我に返ったリーゼが急いで走り寄る。


――……あそこにいるのって、まさか……

 すぐにでも爆発のあった場所へ向かいたい。そんな衝動に駆られながらも、リーゼはそれを押し殺し、『貪食の黒狗』の後を追った。



 灰色の煙が立ち上る、特別刑務所があった場所――建物は跡形もなく消え去り、煙の中から複数の人影が飛び出てきた。

 氷の鎧をまとったコウ――『コラプス』は、切迫した表情で荒い息を吐きながら、迫りくるブロウに視線を釘づけにしていた。ブロウの鎧が所々凍り付いているが、彼は意に介さずコウと相対する。ブロウの後ろから、各々の純粋装具を構えたミラとベラードが現れた。

 先ほどの轟音と衝撃は、コウが『コラプス』を発動させたことによる膨大な量のマイアの拡散によるものだった。ミラとベラードは凍らされないように耐えるだけで精一杯だったが、ブロウは間近でそのマイアを浴びたにもかかわらず、氷漬けになるどころか真正面からその力を受け止め、無傷のままコウを追っていた。

『クオーレ、『アンチ・パターン』が動き始めた。今度こそ始末しろ。モナと組んでも、お前の仲間を連れても構わない』

 ブロウの指令がミラの脳内に響くと、彼女は無言で頷いた。ミラは瞬間移動したかのようにその場から消えたが、コウはそれを目で追うことしかできなかった。

「……俺も行かせてもらうぞ、ブロウ」

『構わない。お前は中央政府の役人どもを皆殺しにしろ。もしモナとクオーレがしくじったら、その時はお前に行ってもらう』

 ベラードの脳内に響くブロウの血も涙もない指令。彼はそれに頷くほかなかった。コウを一瞥すると、ベラードもその場から一瞬にして姿を消した。

 二振りの剣を構えるブロウと、白い息を吐きながらブロードソードを構えるコウ――両者の間には、常人では近づくことすらかなわないほどの悍ましい量のマイアが滞留している。

『さっきので分かっただろう? お前に俺は殺せない』

 コウの脳内に、ブロウの声が重く響く。コウは右手に剣を構えたまま顔をしかめ、左手で頭を押さえた。

「……勝つ」

 それだけ告げると、コウはブロウとの間合いを瞬時に詰めて斬りかかった。



 首都に突入したリーゼたちは、中心部に向かって一目散に駆けていた。道中では国軍の兵士の遺体がそこかしこに放置されており、リーゼは思わず目を閉じたくなっていた。一方『貪食の黒狗』の面々はさほど動じておらず、ビストとミアータが酷い有様だと言わんばかりに顔をしかめるだけだった。

「……すぐ前に何かいるわね」

 ヴェルデの視線の先では、無数の土人形が練り歩いていた。これを見て『貪食の黒狗』たちは足を止めてすぐさま武器を構えたが、リーゼの手はファルシオンに伸びなかった。

 村を襲った奴らと同じだ――傭兵として戦いを重ねてきた今でも、あの日の光景はリーゼの中から消えていない。ファルシオンへ伸ばそうとした手が、微かに震えた。

 すると、土人形たちがリーゼたちに気付いたのか一斉にその方を向いた。リーゼはそれらと視線が合ったような感覚に陥り、ひゅっと息を吸い込む。

「リーゼ。武器を構えろ」

 ライトの声かけで、リーゼは我に返った。その直後、土人形の群れが彼女らに一斉に襲い掛かってきた。

 もう止まってはいられない。怖がってもいられない。リーゼは震える手で持ち手を掴み、ファルシオンを鞘から抜く。

「あの時は何もできなかった……けど!」

 ファルシオンの刀身がマイアで包まれ白く光る。


 その瞬間だった。

 リーゼが『貪食の黒狗』の眼前から消えたかと思うと、横一列に並んでいた土人形たちを一閃のもとに切り裂いていた。人形がただの土塊(つちくれ)になれ果てた光景を、ビストとミアータは呆気に取られて見つめるほかなかった。


「まだ人形どもはいる。俺たちも続くぞ」

 リーゼの後に続く形で、『貪食の黒狗』の面々も動き始める。リーゼたちは土人形の大群に囲まれていたが、それをものともせず装具を振るっていた。ライトの大剣は一撃で多数の土人形を砕き、ヴェルデの鉤爪は土人形を容易に引き裂く。ビストの大斧から巻き起こる突風は土人形をズタズタに裂いていた。ミアータの杖は土人形とは相性が悪かったのか、魔法陣を生成し攻撃をガードするなど単独で切り込むリーゼの補助に徹している。

 何十体と倒しても、土人形は湧いて出てくる。このまま足止めされては埒が明かないと踏んだライトは、土人形を突破しながら中央政府の方へ向かう策に出た。全員が従い、再び駆けだす。

 しかし、そこでリーゼは足を止めた。

「……誰かが、来る」

 リーゼの言葉に『貪食の黒狗』が注目していると、彼女の視線の先にある建物の屋根に、複数の人影が現れた。

「あいつらは……!」

 リーゼの声が震え、瞳に憎悪が宿る。

 『ソウル舞踏団』のトーリア、ミゼ、リオ、プティが、そこに立っていた。各々が装具を構えており、此方を殺す気でいるのは火を見るよりも明らかだった。

「知ってるの?」

「うん……。ネオン君を殺した奴の仲間……!」

 ミアータはリーゼにそれ以上は尋ねなかった。

「殺し屋、といったところか。リーゼ」

「……何?」

 ライトが『ソウル舞踏団』の面々から目を離さず、リーゼに呼びかける。

「お前はミアータと一緒に先に中央政府に行け。こいつらは俺とヴェルデとビストで仕留める」

「……私は、足手まとい?」

「そうじゃない。さっきの一閃を見て、お前をここに留めておくのは勿体ないと思ってな」

 リーゼは緊張感の無いポカンとした顔でライトを見つめる。

「こんな雑魚にぶつけるのは時間の無駄だ。ミアータは中央政府までこいつと一緒についていてくれ」

「分かった!」

 リーゼとミアータが走り出した途端、『ソウル舞踏団』の四人が屋根から飛び降りリーゼを急襲した。しかし、トーリアの大鎌の刃先がリーゼの首元に届く前に、ビストの大斧が彼女を弾き返した。ミゼはイヤリングを光らせ、マイアの刃を手刀から伸ばして応戦するが、ヴェルデの鉤爪とかち合い行く手を阻まれる。リオはクロスボウでマイアの粒子でできたボルトを多数射出するが、ライトのひと薙ぎですべてが霧散する。プティの髪飾りが光り、マイアでできた透明な壁をライトの方へと倒すが、彼はそれすらも感知し一太刀で押し返してしまった。

「団長! 副団長! ビスト! こんな奴らに負けないでね!」

 ミアータが振り返り、壁となった三人に声をかけ、リーゼとともに走り去った。



「そこをどいてほしいっスねぇ。こっちはあの首飾りの女に用があるんスよ」

 ビストと打ち合いをしているトーリアが苛立ちを露わにするが、当のビストは薄ら笑いを浮かべながら得物を振るうだけである。

「トーリア! こいつらがどかなかったら殺して通るまでですわ!」

「あらあら。威勢のいいこと言っちゃって」

 トーリアに発破をかけるミゼだが、彼女の大味な攻撃は全てヴェルデにいなされていた。

「このおっ!」

「ほらほら~、どかないと死んじゃうよ~」

 がむしゃらに攻撃を加えるリオとプティだったが、ライトにはまるで効いていない。

 攻撃が止まると、肩で息をしているのは『ソウル舞踏団』の方だった。彼女たちのドレスは乱れ、踊り子としての風情など欠片も残っていない。『貪食の黒狗』の三人は余裕綽々といった様子で武器を構え直した。

「久しぶりの戦いだ。俺たちを退屈させてくれるなよ」

 黒狗の首魁が、不敵に笑った。



 

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