サイドストーリー.2-2
今は廃墟と化した教会の屋根に座る一つ『影』。
実体を持たぬナイトメアは、降り出した雨も気にせずに灰色になり始めた雲を見つめていた。
同じ悪魔であるケルベロスが殺されたはずだが、ナイトメアにはこれといって気にする様子はない。そもそも表情すらないのだが。
無心で空を仰ぎ見る。
ケルベロスから、ある話を聞いた。
この世界には、黙示録を進行する上で厄介な存在が多いそうだ。
その厄介な存在が、今こちらに向かっている。
ここは平地。隠れる場所などないし、地下に水路や線路があるわけでもない。気付かれずに攻めるには難儀な立地だ。加えて、
「……」
ナイトメアは眼下に群がる人の波に視線を投げかけた。
こちらには、腐るほど多くの駒がある。まぁ、数を減らされれば困るので、あの三人が人を殺すほど残忍な人格でないことを祈るばかりだ。
雨が強くなってきた。風も荒れてくる。もう間も無く嵐がやってくる。
儀式を始めるには頃合いだろう。
「さあ。お前達の血を地面に流せ」
ナイトメアの声に、群衆が顔を上げる。
その中の一人が、手にしていた小ぶりのナイフで自身の腕を切る。傷口から溢れ出る血が地面に滴り落ちる。
土に染みる血。
地面が歓喜するように、激しく揺れる。
天災と地震。
次々と、他の者が最初に倣って自身の腕に刃を押し付ける。
あとは……………、
「殺し合え」
たった一言。それだけで、辺りは雷鳴と地響を掻き消すほどの阿鼻叫喚に包まれた。
相手を斬り裂く者。
相手に斬り裂かれた者。
喉を真っ赤な手で抑える者。
腹を抑える者。
泣き喚く声。
怒鳴り散らす声。
地獄でならまだしも、現実では中々お目にかかれないそれらを見聞し、ナイトメアは嗤う。愉快げに顔を歪ませる。
群衆がピタリと鳴き止むまでは。




