緑の章 第6章
叶達が取った行動は単純で効果的なものだった。
相手の死角、背後を取る。不意打ちするなら、誰もが真っ先に思いつくこと。
それに幻術を織り交ぜる。
ナイトメアの聴覚一点に幻術をかける。わざわざ単体という的に絞らず、感覚にのみ集中することで効果は上がる。
だが。
「酷い……」
咲が窓の外の光景を見て、そうこぼした。無理もない。幾つもの戦場を見てきた叶でさえ悲惨だと思った。
背後は取れたが、彼女達がついた頃には、もう群衆の半分は地面に横たわっていた。
叶は無言で意識をナイトメアから群衆に移し、広範囲に微弱な幻術を展開した。
幻術という微風が、群衆にかけらたナイトメアの幻術を吹き流していく。
次々と倒れる人々。恐らく中には、もう助からない者もいるかもしれない。
車を停め、三人は外へ出た。咲を除いた二人の表情は共通して、険しいものになっている。
咲はというと、ナイトメアなる影に哀れみの眼差しを向けていた。
「咲、治療を頼む。俺と叶でナイトメアを倒す」
「治療って……」
どうやってと聞き出そうとした叶を引っ張って、光助は駆け出して行った。
意識を失い、或いは死んでしまった者達を見る。身近にいた者に歩み寄ると、ピシャリと生暖かい液体を踏んだ。
「ッ」
恐怖が頭を支配する。動きまで制限される。
立ち尽くしているというのに、呼吸が荒くなる。心臓が今にも弾けそうなほど加速する。
人の死を見るのはこれが初めてではない。だからと言って慣れるはずもなかった。
昔から何よりも尊いと教えられていた命が消失する瞬間。
その命に、また新たな光を灯すために『私』はいる。
解らない。どうして大事なものを傷つけるの?
彼らが悪い事をしたの?
なんの罪もない人達に、どうしてこんな酷いことをさせるの?
いきすぎた平和主義思考。
争ってほしくないという願望。
それらの強い念いが、最悪の事態を齎す。
Freya。
女神の名が引き継がれる。
その名が、彼女を人間から格上の存在へと変貌させてしまった。




