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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
42/97

赤の章 第1節

 

 死の騎士ことシノに飛ばされた先は、光助が住処とする洋風の屋敷のリビングだった。

「黒希、大丈夫だろうな……」

 今すぐにでも戻りたいところだが、

「なぁ君」

 光助は、悪魔の魔の手から救い出した幽体の少女の前に屈み、声を掛けた。手は繋いだまま。光助が離さないのではなく、少女が離そうとしない。その手は、目に見えて分かるほど震えていた。

「名前は?」

 少女は俯いた状態で、

「……芽衣めい

 小さな声で答えてくれる。

「なぁメイ。両親は、生きてるのか?」

「……ううん」

「そうか……ここには両親と一緒に来たのか?」

「……分かんない」

 光助はどうするかを考え、思いついた。

「ここより良い所に連れてってやるよ。きっと、そこにお前の両親がいるはずだ」

 それに、芽衣は顔を上げた。

「本当?」

「死んだ後、ここにいないなら天界にいると思う。俺もついて行って一緒に探してやりたいんだけど、まだ、ここでやることがあるんだ」

 芽衣は首を傾げると、力一杯笑ってくれた。

「ありがとう、お兄ちゃん」

 光助は笑みで返し、

「おう任せろ!」

 パーカーの右の袖を、肘のところまで捲った。

 彼の肘の内側に、刃物で斬ったような古い傷があった。

「フレイヤさん、力を貸してくれ」

 と、呟く。

 その言葉に呼応するかのように、右手に白い光が宿る。

「両親と、また会えるといいな」

 そう言って、右手で芽衣の額に触れる。

 光が、芽衣に乗り移る。やがて、白い光は芽衣を包み、彼女の姿と共に消えた。

 天界へと飛ばされたのだ。

「……」

 光助はしばらくその場に屈んでいた。

 両親、か。

 ため息を吐き、リビングを出ると、玄関の両開きのドアが勢いよく開け放たれた。

 慌てた形相で駆け込んできた金髪の少女は、こちらを見るなり、

「ライバル。アンタの力を貸して」

「珍しいなぁ。涼風が俺と口を利くなんて」

 涼風。それが、金髪少女の名だ。相変わらず生地の薄いパーカーを着ているせいで、水色のブラジャーが透けて見えてしまっている。

 しかし、彼女が話しかけてくるとは珍しい。

 随分前から、どういうわけだか一言も口を利いてくれなかったのだが。

「そんなに慌ててどうしたんだ? ラノベの新刊が出たとかか?」

「違うよ! エミたんが魔王に誘拐されちゃったんだよ‼︎」

「エミたん? 誰だそれ」

 光助は訊くも、涼風は全く聞いていないようで床に膝をついた。

「このままじゃ……薄い本みたいにエミたんがあんな事やこんな事をされちゃうよ……」

 拳で床を殴る。

「それだけは絶ェェェッ対に許せないよ。エミたんに色々していいのはワタシだけなんだからッ‼︎‼︎」

 第三者から見れば狂っているよう見える。だが、光助は動じない。これが彼女の平常運転だとよく理解しているからだ。

「エミたん……か。まさかな」

 ふと、ある少女の姿が浮かんだが、すぐに消えていった。

 彼女のわけがない。アイツは、いつもオドオドしていて頼りない小動物みたいな奴だ。そんな奴が、こんな所に来るわけがない。

「魔王つったらルシファーだよな。アイツとは関わるなってシノからキツく言われてただろ」

「それでも行くの‼︎ アンタもパーティーメンバーに入ってるんだからね」

「分かった分かった。身内の頼みだし、断る気はねぇよ。そのエミたんって奴を助けに行こうぜ」

 光助は涼風に歩み寄り、手を差し出した。

 涼風はその手をじっと見つめ、取らずに自力で立ち上がった。

「転移するよ」

「おう」

 涼風の橙色の瞳の奥に、複数の記号が浮かび上がる。記号が弾ける。

 周囲の景色が一変する。

 屋敷のリビングから、石造りの薄暗い廊下に変わる。

 ルシファーの城の中だ。

「初めて来たけど、ここ結構寒いな」

 外に気温がないせいか、ここは特別寒く思えた。

「……ライバル」

 涼風が何かを感じ取った。

 壁に備え付けられていた蝋燭の火が揺れた。

 風はなかった。

「あらまぁ。誰が来たかと思えば……」

 女の声がした。

 柱の陰から、女が現れた。

 光助もよく知る悪魔、リリスだ。

「こんな所で迷子になったの?」

 小馬鹿にした調子で、リリスが言った。

 それに涼風が、

「エミたんを取り返しに来たんだよ!」

「それは聞きけない願いね。アレは女神の娘。そう簡単に手に入る物ではない。だから、返せないわ」

 リリスの言葉に、光助は硬直した。

 エミたん。女神の娘。

 その二つのワードが一つの線で結ばれる。

 _____________________咲?

 光助は駆け出していた。

 目の前に立ちはだかるリリスでさえ、今はどうでもよく思えた。

「え、ちょっとライバル⁉︎」

 涼風の制止など耳にも入らない。

 咲が魔王に捕らえられている。その不確かな情報だけで、彼は全力で走った。

「誰が行かせるとォッ‼︎⁉︎」

 リリスの頬に、光助の右拳が減り込む。

「邪魔、すんなぁああァァァァァッ‼︎‼︎‼︎」

 雄叫びを上げ、リリスを地面に叩きつけた。床が沈む。城全体だけでなく、空気までもが揺れる。

 光助の一撃には、それほどの威力があった。

 リリスを突破し、廊下を真っ直ぐ突っ走った先にあった扉を体当たりで開けた。

 そこは、広間だった。

 廊下同様、柱の蝋燭だけが光源なので薄暗い。

 辛うじて見えた広間の中心に、台座があった。

 その上に、真っ白な少女が寝かされていた。

「咲⁉︎」

 少女の名を叫び、駆け寄ろうとするが、突如として目の前に現れた白いスーツ姿の男によって阻まれた。

「飛んで火に入る何とやらとは、まさにこの事だ。一人捕まえただけで、二人も寄って来た。礼を言おう。手間が省けた」

 その男を睨み、光助は右拳をさらに強く握り締めて、

「ルシファー……テメェ、咲に何をした‼︎」

「眠らせているだけで、死んではいない。今はまだな」

「……咲をどうする気だ」

「私の力の糧となってもらう。お前と、あの魔術師の娘もな」

「そうかよ……」

 全身に力を入れる。

 目の前の敵に集中する。

「テメェの自分勝手な理由で家族を奪われてたまるかよ‼︎」

 魔王に、地獄を統べる王に、人間の少年は拳を武器に立ち向かった。















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