一三話 天才は奴隷の心を解放する 後編
異世界での金策を考える祐は、食事後獣人少女達を寝床に寝かせると王都に出て市場調査を開始する。
祐は市場を回る際に五歳児の姿では商人達に舐められそうだったので変化の術法により二十歳の姿に変化し出発する……なぜか術法を使用してもチビでデブという短所は変わらなかったが……
その後数時間におよぶ王都内の市場調査が進み一つ気がついたことがった。それは異世界といっても基本的な商売の流れは変わらないことだった……商品を生産、もしくは買付をし店先で販売し対価となる貨幣で支払いをする。商品の流通に関しては商業ギルドによって管理され、一部の店で不正に価格を吊り上げようと流通をコントロールしようとしても商業ギルドによって潰せるような監視体制がしっかりとあった。つまり小規模ではあるものの現代の小売業と大差ない合理的な作りをしていた。そうなると商売で大儲けする方法は、爆発的なヒット商品を開発し販売するなど限られた手法でしかありえないということになる。
……しかし商業ギルドに行き着くまでには祐は悪い笑みを浮かべながら金策のアイデアを思いついていた。
「なるほど……これなら儲けられそうだな……」
祐の呟きを聞いたモネには、祐が何かとびっきりのイタズラを考え付いたかのような不敵な笑みを浮かべていることに心配が膨らむのだが、今まで天才的な閃きで困難を乗り切った主人を信じ商業ギルドに付き添うのだった。
まず祐は金策のためにおこなったのは商業ギルドへの交渉だった。祐が目をつけたのは農作物の流通量だった……ここバラッド王国の特産は現代でいうところの小麦であり、ただ毎年決まった量の小麦が生産され王都に流通していた。
ここで祐は商業ギルドに対して話を持ちかける。現在の王都における小麦は需要に対して供給が大きく上回っており安価で小麦を購入することができる。当然農民も小麦の売れ残りを懸念して作付面積を減らしバランスを取ろうとしているようだが追いついていない状況がある……当然商業ギルドでもあまり売れない小麦を持て余し余剰在庫を抱えており今後も在庫が残ってしまうと懸念されていた。
そこで祐は商業ギルドを通じて、現在の小麦価格で数か月後シュバルツ家に無制限で小麦を買い取らせることができる権利を商人達に販売すると言い出したのだ。当然商業ギルドは困惑する、そんなことをしてどんなメリットがあるのかと……しかしここで在庫を捌いてしまえれば、ある程度の利益を確保することができる。ギルド所属の商人達は熟考するも結局はシュバルツ家の信用力と余剰在庫を資金化できる魅力に惹かれ手持ちの小麦を買い取ってもらえる権利を買うことにした。
その相場は小麦一トンで銀貨三枚ほどで販売された。小麦販売は一トンで得られる利益は銀貨十枚ほどなので在庫をかかえているよりは数倍マシと判断した商人達はこぞってシュバルツ家に小麦を買ってもらえる権利を買い求めた。その結果シュバルツ家に集まった資金は金貨十数枚にもなっていた。
一週間後、王都で異変が起きていた……市場から小麦が消えてしまったのだ。
街中では市民達が小麦を探し求め長い列ができる事態となっていた。なぜ小麦が消えたのか?それにはバラッド近隣国での事情があった。数日前に近隣国周辺で大規模な水害がおこり農産物に甚大な被害を与えていたのだ。これに困った近隣国は自国での小麦生産を諦め、緊急的にバラッド王国の小麦を買い付けていったのだ。これを聞いた商人達は焦る……せっかく多くの小麦在庫を持っているのに数か月後にシュバルツ家に販売しなければならないため、一切小麦を販売することができないのだ……しかも小麦価格は当時の数倍にまで跳ね上がっているにもかかわらず購入してしまった権利のおかげで当時の価格でしか小麦は買い取ってもらえないのだ。そこで商人達はシュバルツ家に泣きつく、どうか小麦を買い取る権利を我々に買い戻させてくれないかと……当然祐は悪い笑みを浮かべながら、いくらで買い取るのかと商人達に問う……すると複数の商人達が相場で買うと言い出すが……ある商人は考えた。ここで少しでも高く権利を買い取ってしまえば、シュバルツ家に集まった小麦で大富豪になれるのではないかと……当然商人達は似たようなことを皆考え我先にと小麦を購入する権利の買い取り価格を値上げをしてくる。そして以前販売した銀貨三枚の数十倍まで権利価格が跳ね上がった段階で祐は販売を決め、商業ギルドに仲介を求め金を受け取ることとなる。その額……白金貨十枚にもなっていた。
祐がおこなった手法は至極単純な市場の原理を使っただけであった……つまり安く買い、高く売っただけ……異世界において特別だったのは、情報の操作と先物相場という概念がなかったこと。祐がおこなった情報操作とは水害情報の遮断だった。本来近隣国の情報というのは国の管理の元、どこよりも早く商業ギルドに降りてくる情報であったが、国の中枢にいるシュバルツ家が近隣国の情報を操作することにより、ギルドへの情報を数日遮断されていたのだ。異世界において情報を操作する行為は一切されておらず、そんなことをする人間がいること自体想像もしていなかった。これにより需給バランスが一気に崩れ小麦の価格が大きく上昇した。それを見逃さず祐は小麦購入の権利を商人達に押し付け売り抜けたのだった。
これは現代でいうところの先物相場を原始的におこなう手法だったが異世界には、権利買いという概念がそもそも存在していなかったことが商人達の敗因だった。しかし商魂逞しい商人達は、この画期的な手法に飛びつき、商業ギルド管理の元で先物相場というものが異世界中でも発足することとなる。当然発案者である祐は先物相場の利権を取得し毎月相場の取引量に応じた手数料の内五パーセントを受け取ることとなる。その額金貨にして毎月数百枚……その後シュバルツ家の三男が考えた手法だったことが判明したため金豚相場と揶揄されることとなる。
この一連の出来事を後世の歴史家達からは異世界経済における大転換期であったと言われ「金豚革命」と命名されることとなるのだが……それは別のお話。
異世界経済での革命をおこし労せずして大金を手に入れた祐はさっそく解呪師を屋敷に招き獣人少女達の封印を解呪してもらうことにする。
屋敷のホールには、ティアを含めた十三人の少女達が並び茫然と解呪の瞬間を待っていた。
「これでようやく奴隷から解放されるね!」
祐の言葉にキツネ耳の少女が代表して口を開く……
「ユウグリッド様……私達はどうすれば貴方様に頂いた恩を返せるというのでしょう……ここまでしていただいて我々は獣人族の誇りに賭けて貴方様に報いていきたい……」
ただ奴隷として生活してきた彼女達の目にようやく生気が戻ってきているようだった。奴隷という苦しく辛い生活を数年間も強制させられていた身では、シュバルツ家で過ごした数日間は夢のような生活だったのだろう……そんな生活は長く続くはずもないという不安と常に戦ってきた獣人少女達は、その長い不安からも解放されようとしていた。
「ユウグリッド様……我々は貴方様に忠誠をお誓いいたします……今後何があろうとも我々は貴方の盾となり矛となりましょう……どうか御傍にお仕えさせて頂けませんか?」
少女達の目は、今まで失っていた人間としての尊厳に満ちており、恩人に報いたいとする気持ちが痛いほど伝わってきた……祐はそんな彼女らの決意を無下に断ることもできず少女達の願いを聞き入れることとなる。その中にはティアの姿もあった。
「ユウ……私もみんなと同じ気持ちだよ……ユウにお仕えして恩返ししてみせるから!」
祐は十数人の少女達から放たれる期待と尊敬の眼差しを一身に受け、少し気恥ずかしげに微笑みながらシュバルツ家の家族たちに告げる。
「ありがとう……これからはみんな僕の家族だよ……」
解呪の暖かな光がシュバルツ家のホールに満ちた時、祐には多くの家族が増えたのだった……
獣耳少女が大量に主人公の元に投入されました♡
さらに王女とモネさんも巻き込んで楽しい展開になりそうです(笑)




