一二話 天才は奴隷の心を解放する 前編
詰所での騒動から三時間後……ようやく祐はシュバルツ家の屋敷へ帰還を果たしていた。
すべてバルドフェルドの指示によりモネを中心とした屋敷内のメイド達が衰弱の激しい獣人達に神聖術法を受けさせある程度回復したものから食事を用意するなど忙しく動き回っていた。それを見ていた祐もようやく一段落とティアと共に休息を取っていた。
「なんとか全員無事に帰って来れたね……本当に一時はどうなることかと思ったけど父上が来てくれて助かった……」
「はい!ユウ……様のおかげで仲間も助けられました……」
「ん? ……ティアどうしたの? 急によそよそしくなったような……」
「えーと……御屋敷に来て思ったの……ユウ様は私なんかとは住む世界の違う人だから……言葉使いもちゃんとしないとって……」
「確かに貴族だけど……そんなに急に態度が変わっちゃうと寂しいな……」
「ち、違うの!本当はユウと仲良くしたいの! でもメイドさん達の目もあると思って……」
「ティア……気にしないでいいよ! もう僕たちは友達だろ?」
「と、友達……」
顔を赤く染め、照れ隠しなのか下を向きながらモジモジしている姿はなんとも可愛らしい、しかも本人は隠せているつもりなのだろうが頭の上のネコ耳は右に左に動き回っており、嬉しいという気持ちが全面に感じとれ祐もついつい笑顔になってしまう。
「今まで通りユウでいいよ! 誰も気にしないから」
「ありがとうユウ! 大好き!」
おそらくティアの好きはライクでありラブでないことは分かっているのだが……ストレートな愛情表現を向けてくるティアに対して、祐の方が赤面してしまう……見た目が五歳でも中身は一三歳であり年も近いティアを異性として意識をしてしまうのだった。
そんな甘酸っぱい桃色空間を出現させていると奥の食堂でメイドの悲鳴が上がる。
「や、やめてください! そんなことする必要ないんですよ?」
「いえ従者様……私のような奴隷にまで気を使いにならないでください……私は床に落ちたもので十分でございます……どうかお許しください……」
年の頃はティアよりも少し年上だろうか……15歳ほどの黒髪にキツネ耳をはやした少女は床に落ちたパンを手も使わずに咀嚼していた。それを見た他の獣人少女達も震えるように床に這いつくばり許しを乞うていた。
「ど、どうしたんだ……みんな何をしているんだ……?」
「ユウグリッド様……分かりません……わ、私が皆さんに配るパンを床に落としてしまって慌てて拾おうと思ったら彼女が床に這いつくばってパンを食べ始めたんです……どうしたら」
すでに泣きそうになっているメイドをよそに獣人少女達は当たり前のように床のパンを食べている。十数人の女の子が床でパンを食べる姿は異様な光景だった。
その光景にティアが悲しそうに呟く……
「ユウ……たぶんみんな奴隷で貴族に飼われていた時、今みたいな嫌がらせをされてたんだよ……私も奴隷だったから分かる……目の前で豪華な食事を出されて貴族の人が床に捨てるの……それを私達は手を使わずに食べなくてはならない……そういう遊びだったのかもしれないけど……私達は全員同じ経験をしてきたから……」
下を向き説明するティアに祐は絶句する。こんな畜生にも劣る所業を異世界の貴族は平然とやっているという……現代ではありえない破綻した価値観に怒りを覚えていた。そして少女達に語りかける。
「みんな食べるのを止めて、椅子に座って食事していいんだよ……」
「も、申し訳ございません……何か粗相がありましたでしょうか、申し訳ありません……申し訳ありません……申し訳ありません」
必死に謝る少女達に祐は床に膝をつき一人一人の目を見ながら優しく立つ手助けをする。そして全員を椅子に座らせると自らも椅子に座り食事を始める。
「みんな僕も一緒に食べるから、テーブルの上で食事をしよう! 大丈夫! ここには君たちをいじめる人間はいない! ここにいるティアと同じように普通に生きていいんだよ!」
「で、でも私達は奴隷です……この奴隷の封印がある限り自由な生活などできるはずもありません……私達は……所詮奴隷なんです……」
喋るうちに涙を流すキツネ耳の少女にティアは自分の肩にもある奴隷の封印を手で隠す。
封印の法術――世界で最も残酷な術法と言われる術式で、この術式を体の一部に埋め込まれると埋め込んだ相手の奴隷となる。万が一奴隷となったものが主人に逆らえば封印が解放され奴隷の心臓に術法が発動……死に至らしめる効力を持つ。解除方法は埋め込んだ相手が解呪するか、解呪師に高額な報酬を払い解呪するしか方法がない。解呪報酬は金貨十枚程度と言われている。
この異世界の貨幣制度は単純である。もっとも高額な貨幣は白金貨と呼ばれ一枚で金貨百枚に相当する。この白金貨は一枚で屋敷を購入できるほどの価値があり日本円に換算すると一億程度の価値がある。
次いで金貨一枚は日本円で百万円程度の価値があり銀貨百枚に相当する。銀貨一枚は日本円で一万円程度の価値があり銅貨百枚に相当する。銅貨一枚の価値は日本円にして百円程度の価値だという。これ以下の貨幣は存在せず市民のほとんどは銀貨までの貨幣を使用して生活を送っている。
つまり解呪したければ日本円で一千万円もの大金を奴隷は払わなければならない……普通に考えれば貨幣を稼ぐ手段の無い奴隷には解呪など不可能といえる。それ以外は主人の気まぐれか死ぬときに奴隷から解放されることとなる。一度奴隷となったものが二度と普通の生活ができない……これは異世界の常識だった。
「簡単な話お金があれば、みんな解放されるって訳か……」
祐の呟きを聞いていたモネが焦り釘をさすように耳打ちする。
「ユウグリッド様、我がシュバルツ家は侯爵家として相応しい財力が不足しております……残念ながら十数人の奴隷を解呪するだけの財力はシュバルツ家にはございません……」
「モネさんそうなの?」
「はい……旦那様は国の英雄でありますので十分な給金は国から支給されているのですが……過去シュバルツ家の当主達が作った借金が多く残っておりまして財政は大変厳しいのです……」
「ウチって貧乏だったんだね……」
「身のふたもない言い方をすれば……そうですね……」
「お金か……」
現代で金銭的に困ったことがない祐はお金に対して執着が薄い……しかし今回お金によって救われる人達がいることで本気で金策を考える事となる。
この後祐が考えつく金策方法は異世界の商業に革命をもたらしこう呼ばれる――金豚革命と……
ハーレムまでの布石話になります。
今回は前後編で完結させます!




