閑話 現代の変態は執念で異世界に手かける
百年に一人の変態は笑っていた! 研究を始めて一か月……長く苦しい時間が報われついに異世界への扉に手をかけようとしていた。
「転送できる! ……祐くん♡ もうすぐ会いにいけるよ……♡」
日番谷ここねは、寝ることを忘れ食事も最小限のカロリー摂取に留めすべてを捨て研究に没頭してきた。そしてついに異世界転送を条件付きであるものの可能にした転送機を完成させていた。
「でも異世界に器がないと精神体の転送が困難なのよね……どうしたら精神体のみで異世界に行けるのかしら……さすがは百年に一人の天才というところね」
うっとりと呟くここねだったが……祐ですら異世界転送に一か月以上も準備をし入念なシュミレーションと重力場にアンテナ機を設置するなど条件を揃えた上で成功させた偉業をここねは事前準備無しに不完全ながら成功させていた。
百年に一人と言わないまでも、ここねも現代の天才の一人であることに間違いなかった……
「異世界に転送されちゃえばどうにかなるでしょ♡ 祐くん待っててね♡」
研究の過程で重度の睡眠不足と恋愛(変態)モード全開のここねは安易な考えで異世界転送の準備をする。それは普段であれば気がつくであろう重大な欠陥を秘めた行いだったが恋は盲目状態の彼女は気づかない――転送装置が三十分しかエネルギーを維持できないということを……
そして研究所に膨大な光が溢れだし日番谷ここねの体は力なくうなだれていくのだった。
――異世界――
モネ・ブレゲウィチは憂いを秘めた表情で主人であるユウグリッド・シュバルツの顔を眺めていた。彼女は日に日に成長し凛々しく育つ主人を誇りに思うと同時に姉が弟の成長を喜ぶような何とも言いようがない感情に満足していた。それは良い……しかし彼女の表情の原因はもっと別な理由があったのだ。
「ユウグリッド様のお腹が五ミリほど痩せている……私が栄養補給を管理していながらなんたる不覚……これではレイン様にも顔向けできません…」
どこまでいってもブレないメイド長は先日の同士との邂逅を思い出し……ため息をつく。あれだけふくよかで丸みを帯びた完璧なフォルムを愛でることが彼女にとってどれほどの喜びだったのか……失ってみて初めて分かってしまった……
「本日からユウグリッド様の食事を二倍……いえ三倍にまで増やして対応しなくては……」
祐がこの事実に気づいていれば泣きながら土下座してでも止めたであろう献立を頭の中で考えモネは未来の祐の姿に笑顔を隠しきれない様子だった。
そんな時モネの頭に声が響きわたる。
「祐くん……祐くん……聞こえる? 現代の恋人ここねちゃんですよ~♡」
瞬間モネは背中に悪寒が走り、辺りを見回す……が誰の姿も見えない……彼女とて火と水を極めし者と言われる歴戦の戦士である。多少のことでは動揺などするはずもないのだが……声の邪悪さと変態性を感じとり最上級の警戒態勢で敵の気配を探っていく。
「ここねですよ~いないんですか~♡ 見つからないから探しに行っちゃいますよ~♡」
声が聞こえるたびに気配を探るも何も見つけられずモネはただ声の主に対して警戒することしかできない。
「このままじゃ探しにくいから体借りますね? 美人さん……」
モネは頭に響く言葉を最後に意識を失う……現代の変態がついに異世界にまで脅威を拡大した瞬間だった。そして完全にモネの体を掌握したここねは急ぎ祐の元へ走るのだった。
「き、今日も差し入れ多くないかなレインさん……」
「何言ってるのユウくん! 最近痩せてきてるでしょ? 知ってるんだからね!」
「えーと……確かに最近身長も伸びてきたから多少痩せたけど……体重は落ちてないんだけど……」
「腹回りの直径が五ミリほど減ってるわ……私の目を誤魔化せると思ってるの?」
「……そんな殺気だって言われることかな? い、痛い! 口を押さえつけて無理やり肉を入れないで!」
祐とレインは今日も平和なシュバルツ家の日常を過ごしていたのだが、迫りくる魔の手に気が付いていなかった……モネの姿をしたここねは祐をロックオンするとルパ〇ダイブを仕掛ける……
「祐くん見っけ♡」
現代のだ~れだのように後ろから抱きしめるように祐を持ち上げるモネがそこにはいた。
「モ、モネさん?急にどうしたんですか……祐くん?ってモネさんらしくないような……」
「さすがね!モネさんユウくんに肉を食べさせるの手伝ってくれるのね♡」
レインは完全に勘違いしているようだが祐はモネへの違和感に強い危機感を抱く……過去何度も味わった核爆発にも似たこの焦燥感は祐の体を動かしていた。
戦術系術法「スピットステップ」――自らの動きを数倍に加速させることが可能な戦術術法を発動させモネから数メートルの距離をとる。
「コラッ!! ユウくんいきなり術法を使うとは卑怯だぞ! 大人しく肉を食べなさい!」
相変わらず的外れな怒りを露わにしているレインは置いといて……モネの体は祐の動きをみると薄く笑いながら臨戦態勢をとっていた。
「祐くん……また私から逃げようとしましたね……ふふ……ふふふふふ♡ 逃がしませんよ?」
「やっぱりモネさんじゃないな? お前は何者だ!」
「祐くん……まだ私の愛が届いてないんですね? では一つ愛の秘儀をお見せしましょう♡」
そういうとモネの体は祐が使用した「スピットステップ」に倍するスピードで祐に迫り唇を奪おうと顔面から突っ込んでくる。まさか顔面から突っ込んでくると思ってなかった祐は不意を突かれスピードが鈍ると右手をつかまれ近くの壁まで追い詰められる。現代で言う壁ドン状態にされながら祐は焦る。完全に人類のスピードを超えている……「これが噂に聞く魔族の類だろうか……」と祐は命を危険を感じながら次の一手をモネの体に叩き込む!
戦術系術法「シャドウプレス」――一時的に相手の影を縛り動けなくする術法を祐は行使する。いくら中身が魔族といえど大切な家族であるモネを傷つける訳にはいかず動きを止める術式に限定し戦術を組むがモネの体は怯むどころか嬉々として呪縛に引っかかる。
「甘い! 祐くん♡こんな荒々しく縛ってくるなんて私感じちゃいます♡ でもまだ足りません♡」
……完全に変態の本領発揮中のここね発言に祐は悪寒を走られながら最近習得した神聖法術にスイッチする。相手が魔族であるならば神聖術式の方が効果が高いはず……これならモネを傷つけずに救うこともできるはずと強力な神聖法術を編む。
上位神聖術法「カンナギ」――神聖法術の中でも得に悪魔払いに効果のある術式で実体ではなく精神への攻撃に特化した高位の神官が使用する術法をモネの体に向かって放つ……すると肉体へのダメージを快楽に変えていたモネの体は苦しみ始める……
「な、何この神聖な力は……体の自由が効かない…これでは何のために異世界にきたのか……」
神聖な力により、モネの体を苦しみ始め祐へと最後の力を振り絞り手を伸ばすも届かず力尽きようとしていた――実際は現代の転送装置のエネルギーが尽きかけていただけなのだが……
「終わったのか……?」
祐の呟きにモネの体はピクリとも動かなくなる……しかしここねの精神体は最後の力を振り絞り手に力を込めると親指を跳ね上げる……
「これで終わったと思わないことね……私は帰ってくる……愛るび~ばっく♡」
モネの体は絶叫すると糸が切れた人形のように崩れ落ちる。地獄の悪魔ような叫びに祐は体を震わせるが、自らが倒した悪魔に畏怖の念を禁じえなかった。
突然現れた人類の敵を前に新たな戦いが始まる予感と貞操の危機に祐は更なる強敵に向けた修行を心に誓うのだった……
神聖術法がここねに効いた!? と思いました(笑)
ある意味最強キャラになっていきそうなここね……




