十話 天才は異世界の闇を見る 後編
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祐の力強い返事にティアは嬉しさのあまり泣き崩れ蹲って泣いてしまった。その後しばらくティアは泣いていたが仲間のことを想い立ち上がる。
「ユウ……私がんばる……みんなが笑って故郷に帰れるようにがんばるから……協力してください!」
「もちろん! まずはティアの仲間が捕まってる場所まで案内してもらえるかな?」
「捕まってるのはスラム側の奥にある港なの……みんな違う国に売られることになってて……」
「港か……急ごう!」
祐はティアを伴い港へ向かって走り出す。港までの距離は、わずかですぐに潮の香りが辺りを包んでいった。港に着くと、先ほどまで揉めていたチンピラA達が船の回りに集結しこちらを睨んでいた。
「旦那の言った通り奴ら来ましたぜ! あいつらが獣人の仲間を助けようとしてるって情報はホントだったんすね!」
「こちらの情報に間違いはない……獣人の女の方は命があればどうでも良い……好きにした後でこちらに引き渡せ……腕の一本二本なくても構わんがね」
無表情な男はチンピラ達に指示を出し終わると船の近くに戻っていく……しかし一見するとどこにでもいるような男の姿に祐は悪寒が走っていた。祐の直感があの男は危険だと告げていた。――ふと何かに気づいたチンピラの一人がティアに近ずき大声で叫ぶ。
「うん? どこかで見たことあると思えばてめぇティアじゃねえか!!!」
前に出た男を見たティアは言葉を失い後ろに下がる。
「おいおい今度は、そんな豚みたいなガキに可愛がってもらってるのか? そんなガキじゃモノたりねぇだろ~また俺が毎晩可愛がってやるからこっちこいよ!! 今度は俺だけじゃなく全員相手してもらうけどな!! ぎゃははっははははは」
つられてチンピラA達も下品な笑い声を上げながら盛り上がる。そんなチンピラA達の反応にティアは自分の体を抱き締め震えていた。それに興奮したのかチンピラ達がさらに盛り上がろうとすると……
「少し黙ってろ!!!!!! チンピラ!!!!!!!!!」
世界が震えるような大声が響き渡る……祐が完全にキレていた。
祐は普段とても穏やかな性格をしている。人に対して怒りという感情を向けることは、ほとんどない。しかし一つだけ触れてはいけない逆鱗が存在する。その逆鱗とは祐の過去に起因する。
当時現代では従来エネルギーだった化石燃料が底をつき、衰退の一途をたどっていた。そんな中で祐が発表したのが次世代エネルギーと言われるバイオ技術だった。その技術は世界に革新をもたらし、衰退していた現代世界を蘇えらせた。しかし技術というのは光が大きければ、比例して大きな闇を生み落とす……
当時画期的なバイオ技術はエネルギーの分野を飛び超え兵器へと転用が始まったのだ。もちろん祐は止めた……しかし一度動き出してしまった歯車を止めることができなかった。その兵器は世界の想像を大きく超える災厄となった。
その後G兵器と呼ばれた殺戮の権化は死者数が十億人に達したとき、ようやく使用を禁止する平和条約が採決された。しかし失った十億人は帰ってくるはずもない。当時開発者であった祐は、全世界で誹謗中傷の的となった……それは当たり所を見つけられない人々が、祐一人に責任を押し付けようとしていたのかもしれない。過去何度も世界に革新をもたらした祐は何度もバッシングを浴びることはあった。しかし今回の結果はあまりに悲惨で祐の心にも大きな影を残すこととなる。祐は、その後どれほど人に罵声を浴びようとも、石や卵を投げられ、ツバを吐きかけられても受け入れた。それら一つ一つが十億人に対する謝罪であるかのようだった。
ある日いつものように祐の前に殺意に満ちた一人の女性が現れる。彼女は何かを胸に抱き涙を流しながら訴えた「私の娘は、お前が作った兵器でこうなったのよ! お前を殺したところで娘は元に戻らない……娘は死ぬ自由さえ奪われ生かされてる! これが生きていると言えるの!」叫んだ女性は、その場で自殺した。後でわかったことだが女性が抱いていたのは幼い娘だった……女性の娘はG兵器の後遺症で細胞が変異し化け物の姿へと変貌した。それは現代のあらゆる毒、兵器を使用しても死ぬ事すらできない何かへと変わっていた。女性はそんな娘を見てどう思ったのだろう……生きながらにして死んでいる状態、人間の尊厳を踏みにじる行為を祐の技術は、おこしてしまったのだ……それに気づいた祐は自らの研究に絶望し世界を拒絶した。その後兵器開発にかかわった研究機関はすべて謎の爆発により消滅する。関わった人間達も不遇の死を遂げるが事件なのか事故なのか謎は解明されず迷宮入りすることとなった。
祐は過去のことを思い出していた。人の尊厳が踏みにじられたと感じた時、祐の頭は真っ白になりただ純粋な怒りだけが心を満たしていく。
無表情となった祐の手のひらには莫大な光が収束していた。光はチンピラ達に照準を合わせるように明滅すると……光の殺意が一斉に襲い掛かる。
光系最上級術法「ライトニングノヴァ」
光の術法の中であまりの殺傷能力から禁術指定された術法である。現代のレールガンににも似た光の奔流は人間など塵芥のように消し去っていく……光の直撃を受けたチンピラ達は影も残さず蒸発する。その場にはただ一人を除き微かな焼ける匂いと悲鳴の残響だけが残っていた。
「これはこれは……とんでもない逸材が眠っていたものですね……」
先ほどのライトニングノヴァは男の体を貫通していた。しかし男は何事もなかったように口を開いていた。
「チンピラを使って、あの娘を回収しようと思ってましたが……とんでもない相手を味方に引き入れたようですねティア……まぁいいでしょう……しばらくは時間がある今は残り少ない時間を楽しむと良い……ふふふ……ふふふふふふ」
そう言い残すと男の体は存在が希薄になり、そして消滅した。男が立っていた場所には気味の悪い笑い声だけが響きわたっていた。
すべてが終わった後、祐もようやく正気に戻っていた。そしていまだに震える体を抱いたティアの頭を優しくなでる。
「ティア終わったよ……これでみんなで帰れるよ……ティア?」
「ユウ……さっきの男が言ってた話……本当なの私はあの男に毎晩……」
苦しそうに語ろうとするティアに祐は唇に指を当てて首を振る。
「ティア……人には言いたくない過去の一つや二つあるものだよ? 僕だって色々あったからさ……ティアは十分苦しんだよ……もう苦しまなくていいんだよ?」
その言葉の裏には自分の技術で殺してしまった10億の人間に対する後悔があった。こんな大量殺戮者の自分ですら未だに生きていられるのだティアが苦しむ理由などないはずだった。
「ユウ……ありがとう……本当にありがとう…………」
今のティアには、すべてを許す存在が必要だったのだろう。祐はティアの過去もすべて受け入れそして笑った。
仲間の命運を握ってしまった一人の少女の背負っていた重荷が、ようやくゆっくりとおろされていった。祐は笑顔でティアを見ながらこれからの未来の話を少女と考えるのだった。
読んでいただきありがとうございます! シリアス色強めにしてみて福島はドキドキです。何か感想などあればご連絡お待ちしております!!




