九話 天才は異世界の闇を見る 中編
「ここまでくれば大丈夫……だと思う……」
息も絶え絶えとなり、安全地帯まで運んでくれた少女を祐はマジマジと観察する。年はおそらく十四、五歳程度……身なりは貧しく頭には汚れた頭巾を被っており靴も履いていなかった……おそらく栄養が足りていないであろう体は痩せ細り、幾分年老いて見えた。ただ大きな目だけが印象に残る……そんな少女だった。
「えーと……ありがとう! 改めて自己紹介しますね? 僕はユウグリッド――親しい人はみんなユウと呼ばれてます。君の名前を教えてもらってもいいかな?」
「私はティア……スラム街で暮らしてるの……」
「そっか……ティアさんはどうして僕を助けてくれたの? 会うのは初めてだよね?」
「そう初めて……あなたにお願いがあったの!」
思いつめたような顔のティアは目を大きく開け何かを言い澱むように下を向く。
「ど、どうしたの? ティアさん……何かツライことでもあるんですか?」
「ティアでいい……私があなたを助けたのは、みんなを助けて欲しかったからなの……」
「みんな? どういうことです?」
「私が何に見えるユウ……」
「ティアが何に見えるかってこと? 人間の女の子にしか見えないけど……」
「そう……これでも?」
ティアは頭に乗せていた粗末な頭巾を外すと大きなネコ耳が姿を現した。ネコ耳は生きているかのようにピクピクと左右に揺れる。祐は思わずネコ耳に目が釘づけとなり、我知らずネコ耳に手を伸ばしていた。
「気持ち悪いでしょ? この世界の人間は私たち獣人を奴隷として大森林から誘拐してくるの……そして過酷な労働や愛玩用として貴族や大商人達に買われて奴隷として一生を過ごすの……でも私達は使い捨ての玩具と同じ、年老いて力が出なくなったものや性的魅力を感じなくなった獣人は生ごみのように捨てられる。その後は娼館で死ぬまで働くかスラム街で体を売って細々生活するしかない……生まれ故郷の大森林に帰れるものは一人もいないの……」
「そんなことが……モフモフモフ」
「あのさっきから私の耳を触ってるけど気持ち悪くないの? 人間は、こういう耳とか気味悪がるって長老が言ってたから隠してきたんだけど……」
「モフモフモフ……気持ち悪い? モフモフ……そんなバカな!? 異世界は、ネコ耳の価値も理解できんとは……モフモフモフ」
ティアは下を向き唇を噛みながら必死に仲間の現状を訴えていたが、祐の行動がすべてをぶち壊していた。
「あの……そろそろ離してもらえるかな?」
恥ずかしさからか顔を赤らめたティアは祐の束縛から逃れ一歩後ろに下がる。名残惜しそうに手をモニモニさせていた祐は真剣な表情に戻りティアに質問する。
「助けるって……なんで僕なの? こんな弱そうでチビで太った貴族の子供じゃあ何の役にも立たないと思うけど?」
「さっきあなたは術法を使おうとしてた……それも信じられないぐらい強力な術式だった……」
「僕の術式が見えたの? そんなこと普通できないんだけど……それとも獣人はみんな見えるのかな?」
「違う……私だけが生まれた時から術式を理解してた……この力は特別なものだと長老もいってた。」
「なるほど……それで僕を使って仲間を逃がそうとしたんだ……」
「ごめんなさい! 初めからあなたを利用しようと思ってた……でも私には何もない、あなたに渡せる報酬も用意できない……だから恩を売って力を貸してもらおうと思ってた……でももういい……ユウは変な奴だけど私の耳を見ても気持ち悪がらなかった! 獣人だと分かっても普通に接してくれた! とても嬉しかった! だから巻き込みたくない……本当にごめんなさい!」
祐は必死に謝るティアの姿に一瞬現代で死んでしまった家族を思い出す……天才であったがため何も考えず世の中のためになると盲信し新たな技術を世界に発表していた時、思わぬ形で技術が転用され多くの死者を出し世界中が祐をバッシングしたことがあった。世界が敵に回り誰もが自分の悪口を言っている時でも優しく聡明な母と無骨で力自慢の父が励まし守ってくれたことを思い出していた。
あの時は天才である自分がなぜ批判されているのか分からず憤慨し、守ってくれた家族にも八つ当たりしてしまった。異世界に来て一か月前に大きな挫折を味わった祐には、そんな過去の自分を殴りたい気持ちになる。家族のため……仲間のために自らの危険をかえりみず祐を助けてくれたティアの姿は今はもう謝ることもできない両親の姿に重なって見えた。
涙をためながら謝るティアに祐は優しく頭に手を置くと静かに語りだす。
「ティア……僕はそんな大した奴じゃないんだ……ちょっと前まで法術も使えない落ちこぼれでさ……できる妹に嫉妬して……教えてくれた兄を疑って……心配してくれたた家令にまで見放されたって誤解して引きこもってたんだ……ようやく立ち直って外に出たとき回りのみんなが助けてくれて……僕を救ってくれたからここにいれるんだ。だからさ僕の法術は、僕を助けてくれた人達みたいに誰かのために使いたいんだ。」
涙がとめどなく流れるティアは、大きな目を見開き祐の顔を覗き込む。
「ティアもう一度言ってくれ! 僕にどうして欲しい?」
「……………………たすけ……て……ください……助けてください……助けてください!!!」
小さく弱弱しい言葉から力強い少女の叫びに変わった時、祐は決断する。
「僕に任せろ!!!!!!!!!」
祐は世界が一瞬静寂に包まれたような力強い言葉で返事をする。異世界での初めての戦闘が始まろうとしていた。
ネコ耳少女万歳!! 次回は明日の夜に投稿します!




