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神回避

 

 

 

 

 

 あぁ、今日からこそこそといじめられる日々かぁ…。

 凪先輩のファンに目を付けられた翌朝、あくびよりも先に溜め息が出た。

 しかしいじめって何されるんだろう?上履き隠されるとか?机に落書きされるとか?その辺の描写はゲーム内に出てこなかったから解らない。

 みっちゃんにそれとなく相談してみようか、なんて思っていると、玄関の方から「行ってきます」という声がした。

 そっか、みっちゃんは朝練か。いってらっしゃいみっちゃん…

 とにかく私も準備して学校へ行こう。私にはなずなが居るんだもん。頑張れるよ。


「おはよう、お父さんお母さん。そしていただきます。」


 リビングに行くとみっちゃんのお父さんが新聞を読んでいる。

 母の方は私の朝食を準備してくれていた。

 ちなみに今日の朝食はアボカドをぐっちゃぐちゃにしたものを炊きたてご飯に乗せてわさび醤油をかけただけのもの。

 不本意とはいえ乙女ゲームのヒロインなのだから美容にも気を付けようと思ってアボカドを買ってきたのだ。

 しかし悲しいかな、元の世界での私は大して美容のことなんか考えていなかったので知識が乏しい。

 美容に良いらしいってなんかどっかで聞いたな、という軽いノリでアボカドに手を出したわけだ。調理方法なんて調べずに。

 最初に買ってきた時はなんちゃってお洒落感を醸し出すサラダにしてみたのだが、これが全っっ然足りなくて昼前からお腹の虫が大騒ぎし始めた。

 周囲にはバレていなかったようだが、美容に気を付けたつもりが大恥を晒すなんてことになりかねなかったので、私はすぐにお洒落感を捨てた。

 腹にたまるものといえばあつあつの白いご飯!とりあえずご飯食っとけば間違いねぇ!


「あかり、それ美味しいの?」


「うん、ネギトロ丼とかなんかそんな感じっぽくて結構美味しい。」


 正直ヒロインとしてどうなのかとは思うが、干物女なんてこんなもんなんだよ。美味しければ何でも良いの。一応美容にも良いって話なんだから良いの。

 女子力?何それ美味しいの?白いご飯のほうが美味しいでしょ?


 …はぁ、そんなくだらないこと考えてないで学校行かなきゃ。行きたくないけど。

 盛大な溜め息を零したいところだったが、目の前にいる両親――まぁ実質両親ではないけど――に心配をかけるわけにはいかないので我慢して。


「行ってきまーす。」


 いざ、出陣。


 あまりの行きたくなさにノロノロと校門前を歩いていると、ぽん、と肩を叩かれた。

 まさかもう凪先輩ファンに見付かったのか!と思って思いっきり肩を震わせる私に対して、おずおずと声をかけてきたのはなずなだった。


「おはよう、あかりちゃん…あの、驚かせちゃった?」


「おはよーう!うん、ビックリはしたけど大丈夫!むしろ安心した!」


 なずなが隣に居てくれれば何も怖くない。たとえこの後自分の上履きが無くなっていようとも。

 万が一の時の事を考えてスリッパも用意してきたもんね。

 机に落書きされてたとしてもそれを隠せそうな大判のストール持ってきたもんね。


 と、準備万端だったのだが、上履きはきちんと私の靴箱に鎮座していたし机だって綺麗なものだった。

 他にも色々と見てみたが、特に何かされた様子は見受けられない。

 あの凪先輩のファンの人、私という存在には気付いたが私が誰なのかまではまだ掴めていないということだろうか?

 まぁよくよく考えてみれば一日や二日でこんな地味な、あ、いや一応ヒロインなんだけど、今のところ地味で目立たない私の個人情報を調べられるわけないよね。

 なんだ、案外平和に過ごせそうだな。なんてほっと胸を撫で下ろした時、近くに居た女子生徒がとんでもない話題を持ってきた。


「ねぇねぇ、何か三年生がこのクラスの可愛い子探してるらしいよ。」


「なにそれー?」


 そんな話題だ。

 それを聞いた私となずなはお互い顔を見合わせる。二人とも見事に引き攣った表情をしていた。

 おそらく三年生ってのは凪先輩ファンの人だろう。しかし女子達はその三年生が何者なのかまではわかっていないらしい。


「可愛い子と言えば…やっぱ白河さんかな?」


 一人の女子がぽつりと呟いた。白河さんって誰だ?


「あぁ、白河えりか…。」


 えりか…えりかと言えば…あ、みっちゃんがイレギュラーのことそう呼んでた気がする。

 …さすがだなイレギュラー、人には知られていないけど一応ヒロインの座に居る私よりも先に名が挙がるとは…ちょっとつらい。ヒロインってなんだっけ。


 お昼休みになると、さっきとんでもない話題を持って来ていた女子がイレギュラーに声をかけていた。


「白河さんのこと探してる三年生が居たよ。」


 と。何のことだろう?とでも言いたげに首を傾げたイレギュラーだったが、探されているのなら、と席を立ってどこかへ行った。

 偶然なのか何なのか、確か今日あたり瀧野流佳とのイベントが発生する予定だったはずだし、きっとイレギュラーはそれだと思ったのだろう。

 どうしたものかと思っていた時、イレギュラーとすれ違うように、担任がやってきた。


「希崎、望月、ちょっと良いか?」


 担任である黒谷先生は、攻略対象キャラクターだけあってとても良い声でなずなと私を呼ぶ。

 担任に呼び出されるようなことがあっただろうか?と思ってなずなを見ると、彼女は私の腕を掴んで立ち上がった。


「ちょっと書類整理を手伝って欲しいんだが、良いか?」


 柔らかなトーンで声を掛けてくれる黒谷先生は、私がゲーム内で二番目に好きだったキャラクターである。

 そんな先生に頼まれたら嫌とは言えない。そもそも攻略対象キャラクターなんだから断るなんてしないほうが良いんだろう。たとえ攻略する気がなくとも、だ。

 しかし何故私たちに頼むのか、そう思っていると、なずなが私に耳打ちをする。


「先生と一緒に居れば安心かなと思って、私が先生に相談しておいたの。」


 とのこと。

 可愛い上に気が利くとか、嫁に来てくんないかなぁ!


「ありがとうね、なずな。」


 先生に連れてこられたのは地理準備室と呼ばれる部屋だった。

 そういや先生って地理の先生だったっけ。

 大小様々な地図や、地球儀が置いてあるその部屋は先生の個人スペースになっていて、普段生徒が入ることはなかなか無い。

 書類整理を手伝って欲しいと言われたのでどこかに書類があるのだろうと思っていたのだが、どう見ても書類なんて無い。

 あるのはさっき見た地図や地球儀の他に、先生の飲みかけと思われるココアと、食べかけと思われる板チョコがあるだけだ。

 ココアとチョコを同時に摂取するってどうなんだ先生よ。


「その辺に座って良いぞ。まぁパイプ椅子しか無いがな。」


 ふわりと微笑んだ黒谷先生は、自分の椅子にどかりと座る。

 ん?先生今何って言った?座って良い?


「あの、書類は?」


 書類整理手伝ってって言われたよね?と首を傾げると、先生が口を開く。


「なず…希崎が「望月がいじめられるかもしれないから匿ってください」って言うから連れてきただけであって整理する書類なんかないぞ。」


「…あ、あぁ、そうなの?」


 なずなの方を向いてもう一度首を傾げれば、なずなはうんうんと元気良く頷いた後で先生に向けて深く頭を下げた。


「先生、ありがとうございます!」


 そう言って。

 …ふむ。

 私はいくつか思う事があったのだが、とりあえず座って良いと言われたパイプ椅子に腰を下ろした。


「希崎は望月しか友達が居ないと言うし、万が一望月がいじめられて不登校にでもなったら…」


 と、黒谷先生は心配そうに言う。


「…まぁ学校には来ますけどね。」


 何故ならいじめられイベントはそう長続きするもんでもなかったからだ。

 描写は無いものの暫くこまごましたいじめを受けて、数週間後何らかの形で凪先輩にいじめの情報が漏れて…何らかの形で解決するはずだから。

 何らかの形という曖昧な感じなのはヒロインが決める選択肢によってちょこちょこ内容がかわるからなんだけども。


「…えーと、望月。誰からいじめられそうなのかは、聞いても良いのか?」


 …そっか、みっちゃんに相談しようと思ってたけど、今先生に言っておけば良いのか。

 先生に言い付ける、というと聞こえが悪い気がするので相談するだけだ。そう、相談。


「男子バレー部の主将さんと仲良くしてたとこがバレー部ファンに見付かってしまいまして。」


 簡単に説明したつもりなのだが、先生は首を傾げたまま固まってしまった。

 要するに女の嫉妬ですよ、と付け加えると先生も納得したように頷く。


「なるほど、望月は地味で目立ちはしないが、顔は可愛いからな。」


 地味で目立たないとかそういう事言わなくて良いです先生。一応傷付きます。


「あかりちゃんは優しくて可愛いんです!」


 突然なずなが力説を始めた。

 なずなが居てくれて本当に良かった。今先生によって付けられた傷が一瞬で癒えた。


「なずなだけよ、そう言ってくれるの。あとなずなのほうが可愛いわよ。」


 この時、私は気付いた。

 先生の私を見る時の目と、なずなを見る時の目がなんとなく違う事に。

 そしてさっきはスルーしたが、私は聞き逃さなかった。

 先生がなずなの事を名前で呼びかけて慌てて苗字に修正した事を。


 私、自分の恋愛沙汰より他人の恋愛沙汰の方が大好物なんでっ!!!





 

ただいまただいま!

ちょっとずつ短編と設定がズレ始めます。

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