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神回避2

 

 

 

 

 

「ところでお前達、昼飯持ってきたのか?」


 という黒谷先生の声で、私もなずなもぴくりと肩を揺らした。

 お弁当…教室に置いてきた…。


「そういえば、逃げる事しか考えて無くてお弁当まで頭が回らなかった…」


「私も…」


 お昼抜きでこの場に潜伏するか…見付かるの覚悟で一旦教室に戻るか…


「あ、じゃあ私が取ってくるっ!あかりちゃんが行くと危ないから!」


「えっ…」


 そんなパシりみたいな事しないよ!…と、言おうと思ったのだがちょっと待て。

ここでなずなに席を外してもらえば…


「行ってくるね!」


「あっ!」


 あの子ったら考え事をする暇を与えずに行ってしまった…!

 ガラガラと音を立てて閉まった扉を暫し見詰めて無言になるが、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 私は今のうちに先生に聞きたいことを聞いておくことにした。


「先生、なずなって可愛いですよね。」


 にっこりと、当たり障りの無い笑顔でそう尋ねる。


「は?あ、あぁ…そう、だな。」


「いつからですか?」


「…は!?」


「私の目も節穴なんかじゃないですからね!なんとなく解りますよぉ、先生っ!」


「ば、バカ、いつからってお前、別にまだ付き合ってはない、」


「おぉ!『まだ』付き合ってないってことは今後付き合う意志があるということですね!」


 とても単純な誘導尋問だったにもかかわらず、恐ろしいほど簡単に引っかかってしまった先生に多少の不安を覚えないでもないが、聞きたい事は聞けた気がする。


「望月、頼む…黙ってくれ…」


「黙りません。」


「いや、他の人には黙っててくれ…」


 この人相当テンパってんな。

 先生は完全に頭を抱えてしまっているが、もちろんこんな事人に喋ったりはしない。

 利用させてもらいたいとは思うが。


「もちろんです。むしろ応援しますよ、二人の事。」


「お…応援?」


 先生はふと頭を上げて、きょとんとした様子で私を見る。


「私ね、なずなの唯一の友人なんです。」


「あぁ、知ってる。」


 知ってんのかよ。


「だからね、なずなの事、色々知ってるんです。」


「…そうか。」


「知りたい事とか、あるでしょう?」


 にたりと笑うと、先生は顔を青褪めさせながら若干引いた。


「嫌な笑顔だな…なんだ、見返りが欲しいのか…金か…」


 お前私をどんだけ最低な奴だと思ってんだよ、これでも一応ヒロインなんだぞ…!

 先生の事はあのゲームの中で二番目に好きだと思ってたのに、若干好感度が下がった。


「そんなもの要求しませんよ。守ってくれれば良いんです。なずなを。」


「なずなを?」


 普通に名前呼び捨てたけど、開き直ったのかな?


「実は、私達とイレギュ…いや、白河えりかはあまり良い関係ではないんです。私はともかく、なずなには悪い影響しか齎さないというか…」


 先生は私のその言葉を聞くと、心当たりがあったのか、そういえば…、と呟く。


「確かに白河がお前等を睨み付けてるとこは何度か見たが…あれは主にお前を睨んでいた気がするんだがな。」


「まぁ、そうでしょうね。だけど、なずなは私の側にいるわけだから巻き込まれない保障はありません。私は別に我慢出来るから大丈夫だけど、なずなは…」


 っていうかむしろ直接文句言ってやりたいくらいだから、私は大丈夫なのだ。

 しかしなずなは、あの大人しくて可愛いなずなは、きっと怖がっているだろう。

 だから先生がなずなを好きだというのなら、守ってあげてほしい。


 そして先生の愛情度は全てなずなが持っていけば良い!!

 イレギュラーに持っていかれなければ、攻略対象キャラクター達が誰を好きでも良いでしょう!良いってことにしましょうよ!


「で?白河となずなを近付けないようにしたほうが良いってことは解ったが、それは今回のバレー部主将関連の話と何か繋がりがあるのか?」


 私が心の中でグッと拳を握り締めていると、先生がそう尋ねてきた。

 バレー部主将?


「バレー部…?あぁ!そうだ!私バレー部ファンの先輩から逃げてるんだった!」


 すっかり忘れていた!と言うと、先生は凄く冷ややかな目でこちらを見ながら、


「お前、頭大丈夫か?」


 と言っている。失礼極まりない。本っっ当に失礼極まりない。


「大丈夫です。問題ありません。その件とは…関係あるような無いような…」


 正直この件にイレギュラーがどの程度絡んでくるのかが解らないのでなんとも言えないが、完全に関係ないとは言い切れない気もする。

 そんな時、お弁当を取りに行ってくれていたなずなが帰って来た。


「ただいま、あかりちゃん!先生!」


「おかえりなずな。大丈夫だった?」


 はい、と渡されたお弁当を受け取りながら問いかけると、なずなはちょっぴり興奮気味に口を開く。


「うん、見付からなかった!だけど居たよ、バレー部ファンの先輩。イレ…白河さんと喋ってた。」


「うわぁ…やっぱクラス特定されてるんだぁ…」


 私はげんなりしながら呟く。

 どうやって調べるんだろう…地道な聞き込みとか?学年は学年カラー見れば一目瞭然だろうけど、さすがにクラスまでは一目見て解るなんてことは無いはずなのに。


「怖いな、女子。」


 ドン引きした様子の先生がそう零した。


「恐るべし、恋する乙女のポテンシャルってやつですかね。」


 という私の言葉に、先生はふと首を傾げる。


「しかしその女子は『ファン』だって言ってるんだろう?それって恋なのか?」


「うーん…まぁ恋は恋なんじゃないですか?凪先輩は人気者だし一人だけ出し抜くのも…みたいな気遣いがあったり…するのかなぁ。私には理解出来ない世界なんですけど。」


「で、望月は出し抜こうとしてるわけか。」


 先生の言葉を聞いて、私は暫し固まった。

 出し抜こうとしてる?私が?いやいやいや…

 いや…そうか、そういうことになるのか…

 完全に黙り込んでしまった私を見たなずなは、私の背中をぽんぽんと優しく叩く。


「あかりちゃんは悪いことなんてしていないんだからね。」


「そ、そうだぞ望月!恋愛なんて奪ってなんぼだろ!」


 自分の言葉で私が黙り込んだ事に対して何か思うことでもあったのか、先生は焦った様子でそう言った。

 だがしかし。


「先生…」


 私は先生となずなを交互に見る。

 へぇ、先生ってそんな風に考えてるんだぁと、言外に仄めかしながら。

 先生は何からなずなを奪うつもりなんだ。私か?私からか?よろしい、その戦い受けて立つ。


「あ、いや、全ての恋愛がそうだと言うつもりはないんだ。望月が気に病む事はないってことで、」


「先生の言いたい事はなんとなく解ったのでとりあえず落ち着いて黙ってください。」


 先生はがっくりと肩を落として口を閉じた。

 先生が次に口を開いたのは、私達がお弁当を食べ終えようとしていた時だった。


「なぁ、望月はこれからそのバレー部ファンから逃げ続けるつもりなのか?」


 なんと返事をするべきか考えながら先生の方へと視線を動かせば、とても真剣な瞳がこちらを見ていた。

 もちろん逃げ続けるつもりはない。時が来るまでは、出来れば逃げたいと思っているけれど。


「しばらくは…出来るだけ逃げたいと思ってます。」


「逆にいじめられて、その場を現行犯として…」


「いじめられろって、凄い発言ですよ先生…」


 いや、先生が考えている事も解るといえば解るのだが、なんというか…先生がそれ言う?っていうか。

 しかし大きなイベントが起こる前にあのファン達が大人しくなってしまうとそれはそれで困るのだ。私が。

 この後起こるはずの大きなイベントがきちんと起これば、凪先輩ルート確定のお知らせと言っても過言ではないから、それは出来るだけゲーム通りに起したい。

 重要なイベントの直前にゲームとは違う展開に見舞われようものなら、私はきっとパニックを起してしまうだろう。そうじゃなくても普段から半分パニック状態で過ごしているようなものなのに。


「いや、だが望月、」


「私は大丈夫です。だけど、万が一のことがあれば助けてください。」


 なずなのことを、と、小さな小さな声で先生にそう告げると、先生はしっかりと頷いてくれた。

 後は祈るだけだ。あのファン達が異常ないじめに手を染めないように。

 そこまで話したところで予鈴が鳴った。

 本鈴にギリギリ間に合うように教室へ戻れば、あのファン達に遭遇することもなかった。

 とりあえず今日のところは回避完了だ。

 まぁ、教室に入った瞬間、不敵な笑みを浮かべているイレギュラーと目が合ってしまったので嫌な予感はビシバシ感じるのだが。


 良いわよ、戦ってやるわよ!三十六計なんとやらって戦略でねっ!!!



 ちなみにその日の夜、なずなからメールが来た。


『あかりちゃん、先生と二人っきりになってたはずなのに愛情度がちょっと下がってるみたいだよ?大丈夫?』


 という内容の。

 私は特に焦る事なくなずなに返信した。


『大丈夫よ、全然問題ないから。』


 と。

 愛情度が下がった理由は他でもない、私の先生に対する好感度が下がったからだろう。

 それに、先生の視線は私でもイレギュラーでもなくなずなに向いているからね。

 イケメン教師と美少女女子高生巫女という美味しすぎる組み合わせ…うん、絶対に二人をくっ付けようと思う。

 なんて、私は内心ほくそ笑みながら眠りに就いたのだった。





 

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