↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/5

1話 賢者、魔王討伐へ行く

数日後。


 ケンは王宮の会議室に呼び出されていた。


 部屋には勇者カミト、僧侶エリア、戦士ドルゴの三人が集まっている。


 彼らは魔王討伐を成し遂げた英雄だったが、ケンにとっては気心の知れた仲間でもあった。


「ケン殿、また難しい顔をしているな」


 大柄な戦士ドルゴが笑った。


「当然じゃ。儂は今、研究という人生最大の喜びを奪われかけておる」


「大げさですね。陛下からの任務でしょう?」


 僧侶エリアが穏やかに言った。


「エリアよ。おぬしは一度、儂の仕事量を見てから物を言うがよい」


「それは……少し遠慮しておきます」


 カミトが苦笑した。


「それで、今回の任務って何なんだ?」


 ケンが答えるより先に、国王が会議室へ入ってきた。


「待たせたな。今回、お前たちに頼みたいのは、魔王軍の残党が潜伏しているという南東の砦の調査だ」


 会議室の空気が引き締まった。


 魔王が倒されたとはいえ、魔王軍のすべてが消えたわけではない。各地に散った残党が、再び人々を脅かす可能性があった。


「勇者カミトたちには、砦の制圧を頼みたい。そしてケンには、砦に残された魔法陣の調査をお願いしたい」


 ケンは静かに手を挙げた。


「陛下、魔法陣の調査だけであれば、研究所の者を派遣する方法もあるのではないでしょうか」


「調査隊はすでに派遣した。しかし、現地から届いた報告によると、結界の一部が暴走しているらしい。通常の魔法では解除できないそうだ」


「なるほど……」


 ケンは資料を受け取った。


 そこには、砦の地下に広がる巨大な魔法陣の図が描かれていた。


 一目見ただけで、通常の術式とは異なる構造だと分かる。


 複雑に絡み合う魔力の流れ。


 見覚えのない文字列。


 そして、魔法陣の中心に記された不自然な空白。


 ケンの目がわずかに細くなった。


「……これは、厄介じゃな」


「分かるのか?」


 カミトが身を乗り出した。


「まだ断言はできぬ。じゃが、放置すれば周囲に被害が出る可能性はある」


 ケンは資料を閉じた。


「しょうがないのう…。現地で調べてみるとしよう」


     *


 南東の砦は、山あいの谷に建てられていた。


 周囲には魔物の姿があり、砦の壁には黒ずんだ魔力の跡が残っている。


「本当にここに魔王軍の残党がいるのか?」


 カミトが剣の柄に手をかけた。


「気を抜くなよ。妙な気配がする」


 ドルゴが斧を構える。


 エリアは祈りを捧げ、仲間たちを守る結界を張った。


 そのとき、砦の奥から地鳴りのような音が響いた。


 地面に亀裂が走り、壁に刻まれた魔法陣が赤く光り始める。


「全員、下がるんじゃ!」


 ケンが叫んだ。


 次の瞬間、砦の地下から黒い光が噴き上がった。


 光は柱となって天井を貫き、周囲の魔力を次々と吸い込んでいく。


「な、何だこれは!」


「魔法陣が暴走しているんです!」


 エリアが叫ぶ。


 カミトが剣を構えた。


「ケン殿、止められるか!」


「黙って見ておれ!」


 ケンは杖を地面に突き立てた。


 足元に幾重もの魔法陣が広がる。


 その模様は、王国の魔法使いが使うものとはまるで違っていた。線は細く、文字は複雑で、魔力の流れは驚くほど滑らかだった。


 ケンは一瞬で魔法陣の構造を読み解いた。


「なるほど。魔力を吸い上げる仕組みそのものは単純じゃ。じゃが、制御部分が壊れておる」


 杖の先から青白い光が伸びる。


「ならば、流れを逆転させればよい」


 ケンが指を鳴らした。


 魔法陣の光が、ぴたりと止まった。


 暴走していた魔力が流れを変え、黒い柱が細くなっていく。


 しかし、最後の瞬間。


 魔法陣の中心から、巨大な魔物が姿を現した。


 岩のような皮膚。赤く光る目。全身から噴き出す黒い魔力。


「魔法陣が、魔物まで呼び出していたのか!」


 カミトが剣を抜いた。


「ケン殿、後ろへ!」


「必要ないわい」


 ケンは一歩前に出た。


「儂の研究を邪魔する者には、少々痛い目を見てもらうぞ」


 杖を軽く振る。


 空中に無数の光の槍が現れた。


「――貫け」


 次の瞬間、光の槍が一斉に飛び出した。


 魔物の巨体が光に包まれる。


 轟音とともに黒い魔力が弾け、魔物は地面に倒れ込んだ。


 砦を覆っていた不気味な光も、ゆっくりと消えていく。


 静寂が戻った。


「……今の魔法、何だ?」


 カミトが呆然とつぶやいた。


「ただの攻撃魔法じゃ。少し手を加えておるがの」


「少しって……」


 ドルゴが乾いた笑いを漏らした。


 エリアはケンの杖と、地面に残る魔法陣を交互に見つめていた。


「ケン殿の魔法は、私たちが使う魔法とはなんだか別物ですよね」


「そうかのう。儂にとっては、昔から使っておる術じゃが」


 ケンは何でもないことのように答え、魔法陣の調査を再開した。


 仲間たちは、もう驚くことすら忘れたように彼を見つめていた。


     *


 王都に戻ると、ケンは調査報告書を提出した。


 その日のうちに、国王から追加の任務が届いた。


 砦の修復計画。


 各地の魔法陣の点検。


 魔法道具の改良案。


 さらに、今回の戦闘を記録した報告書の作成まで含まれていた。


「……なぜじゃ」


 ケンは書類を握りしめた。


「なぜ、仕事が増えておるのじゃ!」


 研究室に、悲痛な叫びが響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。