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3日目 上環のお茶屋さん

 上環熱食中心のあるビルの1階に公衆トイレを発見したので入ってみた。瓶入りミルクティーを飲んだので、入らないわけにいかなかったのだ。

 ここの公衆トイレもそこまで汚れているということはなく、「いいじゃん」と思い便座に座った瞬間気が付いた。トイレットペーパーが切れている。どこかに予備があるのではと探してみるがどこにもない。「まあ、そういうこともね」と現実を受け入れてリュックから水に溶けるポケットティッシュを取り出した。


 次に使う人が絶望しないようにと思い、ポケットティッシュをわかりやすいところに置いてきたが、私が外に出てすぐに清掃員らしき人が中に入って行ったので、余計な親切だったかもしれない。


 すっきりしたところで気を取り直して、「福建茶行」というお茶屋さんへ向かうことにした。

 また地図も見ずに、とにかく東へ向かって歩けば辿り着くはずだと高を括って中環方面へ歩いた。想像以上に人が多い。大勢の外国人観光客に混じって、中環で働くエリートサラリーマンのようなピシッとした風貌の人もちらほらと見かけた。

 そんな街にもかかわらず、私はのびのびと歩いていた。海外マジックだろうか。東京ではこうはいかないのだ。東京を悪く言うつもりはないが、あの街は……場所にもよるが、それっぽい服装で常に気を張って、背筋を伸ばして歩かないと「田舎者が来た」と思われるのではないかと不安になる。まあ被害妄想だ。


 そんなことを考えつつ、激混みの両替店や茶餐廳2号冰室の前を通り過ぎ、大通りのトラムなども眺めつつ歩き続けていると、いつの間にか中環街市の目の前まで来ていた。福建茶行はとうに通り過ぎている。

 今度はちゃんとマップを見ながら引き返した。


 福建茶行は、上環の孖沙街という通りにある小さなお茶屋さんだ。店主は少しの日本語を話し、その息子さんは英語で接客してくれるという情報を得てここを選んだ。そして何より、ここの店には看板猫がいるらしい。


 店の前まで行くと、息子さんと思わしき人と目が合った。自分なりに元気に挨拶し、中へ入ると、あらかじめ翻訳アプリで用意していた広東語の文章を見せた。看板猫は生憎の不在だった。


『我想要普洱茶同鐵觀音各100克』


 普洱茶と鉄観音を100gずつ欲しいと伝えたかったのだが、この文章が正しいのかはよくわからない。とにかく店の人は理解してくれ、どんな普洱茶と鉄観音が良いか英語で聞いてくれた。必死にリスニングする。


 普洱茶は5年ものと10年ものの茶葉の香りを嗅がせてもらった。素人の私でもわかるほど、10年ものの方が香りが良い。熟成年数に比例して価格も上がるが、即決だった。


 普洱茶は生茶と熟茶の2種類があり、私が買ったのは熟茶(黒いお茶)である。晒青緑茶(天日干しした緑茶)に麹菌を加えて人工的に発酵させたもので、1970年代に誕生した比較的新しい製法のお茶である。少ない茶葉で10回ほど飲めるという。淹れる都度お湯は沸騰させると良いらしい。


 鉄観音の説明もしてくれたが、私が聴き取れたのは「Strong Taste」くらいのもので、まろやかなものよりは味が強い方が好みなのでそちらを選んだ。レトロで可愛い缶に入った物もあったが、かさばるので断念した。


 中国十大銘茶のひとつである鉄観音だが、そういえば飲んだことがない。その芳醇な香りは蘭の花に例えられるというが、これを書いている現在、まだ飲めていない。(家にお茶がありすぎる!)他の種類の烏龍茶とどう味が違うのだろう。

 6回ほど飲むことができ、便秘や冷え性の解消、美肌効果などが期待できるそうだ。


 この2つの茶葉を100gずつ袋に入れてもらい、現金で支払った。(オクトパスカードも使える)

 200HKDでお釣りが来た。今思えばもっとたくさん買うべきだったと後悔している。



 さて、上環に来て寺院に行ってお昼も食べてお茶も買って、やるべきことは殆どやってしまったなと思ったのだが、まだまだ日は高い。帰るのも勿体ないので、中環のヒルサイドエスカレーターと中環街市を覗いてみることにした。


 それにしても人が多い。大通りから外れた石畳の狭い路地ですら、たくさんの人々が行き交っている。常に色々なにおいや音がしていて、気を抜くと人にぶつかる。写真を撮る余裕もなく、少しだけ目を回しそうになった。


 中環街市の建物内にはフードコートやドリンクスタンド、雑貨店などが入っており、お土産探しにはもってこいだった。私は「香港淳記」という雑貨店を探していたのだが、どんなに建物内を探し回っても見つからず、結局何も買わずに出てしまった。気が付くと世界一長いエスカレーターの乗り場まで来ており、「これが『恋する惑星』で出てきたエスカレーターかぁ」と思いはしたが、ここもまた観光客でごった返しており、写真を1枚だけ撮るに留まった。


 朝早くから行動し、モンスターマンション、北角、上環と周り、純粋に疲れていた。私にもっと体力があれば、YouTubeでvlogを撮っている人のように中環を楽しみ尽くせただろうが、この時の私はもうヨレヨレになっていた。香港島なら銅鑼湾とか、九龍半島なら深水埗とか行ってみたかったものだ。


 ふらふらになりながらスターフェリーに乗船すると、佐敦のホテルに帰って少し横になった。



 

 

 

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