3日目 マカロニスープと日の出フェリー
香港旅行3日目の朝5時半。スパーン!と目が覚めた。自分がいつ眠ったのかもわからなかったし、昨日のような気持ち悪さもない。
よく眠れたことに安堵し、身支度を済ませるとすぐにホテルの部屋を出た。6時10分くらいだったと思う。日本の基準で考えれば早すぎるが、香港の茶餐廳は朝6時から開店しているところも珍しくない為、問題なかった。この日はスターフェリーに乗りながら日の出を見て、香港島を巡る予定だった。
6時17分。ホテルから徒歩数分の距離にある小さな茶餐廳「維多利茶餐庁」にやって来た。こんなに早い時間帯にもかかわらず、既に何人かお客さんがおり、朝食を食べていた。
中に入ると、ボックス席に通された。香港だというのに殆ど相席にならないのは果たして良いのか悪いのか。
メニュー表はGoogleマップに載っているものを見てきていたが、実際店内に置かれていたものはネットに載っているものと違った。最近一新されたのだと思う。ラミネートされたメニューが何枚かあり、どれを見たら良いのだろうともたもたしていると、店員の女性が2枚のメニュー表を取り出して英語で説明してくれた。
1枚目は確か、自分でトッピングを選んで注文する麺類だった。そして2枚目はお得なモーニングセット。「早餐」というらしい。
麺の方は頼み方が難しかったので、咄嗟にセットメニューを頼んでしまった。マカロニスープと目玉焼き、トーストのセットだ。飲み物はホットレモンティーを頼んだ。
すぐにお湯の入ったコップがテーブルに置かれる。「これ、飲むやつじゃないな」と確信していたが、念の為近くの席に座っていた男性の方を見る。男性のコップにはフォークがお湯に浸かっている。やっぱりカトラリーを洗うためのものかと納得した。
最初にトーストと目玉焼きが来て、その後すぐマカロニスープもテーブルに置かれた。そのあまりのボリュームに、私は硬直したが、すぐに自分に言い聞かせた。
――今日は気持ち悪さもないし、大丈夫だ。いける……!
まずは目玉焼きから食べようとフォークでつついてみる。トロトロの半熟であることに「へぇ」と思ったが、それ以上に驚いたのは、1つだと思っていた目玉焼きがもう1つ重なっていたことだった。黄身が2つあるということはおそらくそういうことではないか。どれだけボリューム満点なのか。これで40HKD(約800円)とは……
マカロニスープも思っていたより器の底が深く、大量のマカロニがみっしり盛られている。ホットレモンティーはレモンスライスが3枚も入っており、少々エグいがしっかりレモンの風味がある。
とりあえずトーストが硬くなる前に食べてしまおう。そして同時進行でマカロニスープも。ぐずぐずしているとマカロニが汁をどんどん吸って膨張するからである。
スープは薄味で、味付けは塩のみだったかもしれない。
香港に来て何度目かのフードファイトが始まった。しかし、やはりマカロニスープが手強い。食べれども食べれども減らないのだ。まるで器の底からマカロニが湧き出ているかのように。料金はそのままで、少なめに盛ってもらうにはどうしたら良いのだろう。氷少なめは「少冰」だそうだが、マカロニの場合は?「少飯」だろうか……?
結果、トーストと目玉焼きは完食し、マカロニスープには敗北した。この場を借りて謝罪したい。本当にごめんなさい。
佐敦から徒歩で尖沙咀のプロムナードまで行き、スターフェリー乗り場を目指す。スターフェリーは九龍半島と香港島を結ぶ小さなフェリーだ。MTRでも行くことができるが、景色も良いし5HKDほどで乗船できるので乗っておきたかった。紀行小説「深夜特急」では何度もこのスターフェリーが登場する。当時の料金は更に何セントだったか……
朝のビクトリアハーバーはやっぱり少し霞がかっているが、よく晴れて気持ちの良い朝だ。体操やランニングをしている人がちらほらといるだけで、私のような観光客は1人もいない。
東の空はオレンジ色に染まっており、もうすぐ朝日がビル群の頭の上から顔を出そうとしていた。
スターフェリー乗り場には湾仔行きと中環行きがあり、私が乗りたいのは中環に行くフェリーの下層だったので、一番奥の入口から乗り場に入った。オクトパスカードを改札にタッチして回転レバーを回すと、レバーが思いの外勢い良く回って尻を引っ叩かれた。「行ってこい!」と言われているようだった。
朝7時半のスターフェリーに乗る人は少ない。通勤に使う人もいるのではと思っていたが、あまりの乗客の少なさに少し驚いた。
フェリーはすぐにやって来た。1階席と2階席があるが、水面を近くで見たいがために1階を選んだ。
尖沙咀から中環まで、10分程度の船旅である。出港すると、すぐに朝日がビル間から顔を出した。
夜のビクトリアハーバーが美しいことは誰もが知っているが、早朝のビクトリアハーバーもなかなか良いなと思う。フェリーの上から日の出を見るという、旅行の直前に降って湧いた思い付きは見事実現した。
10分程度なので船酔いもしなかった。あっという間に中環ふ頭に到着し、そこから歩いて中環駅へと向かった。
中環駅から港島線の柴灣行きの電車に乗り、鰂魚涌という駅まで向かった。ここへ行く目的はもうおわかりだろう。「益昌大廈」にいくのだ。益昌大廈と言ってもピンと来ない人もいるかもしれない。ここは通称こう呼ばれている。
「モンスターマンション」と。




