異世界から来たガイア 69
第69章
ガイア
トランペットの音が、私の入場を告げる。
私は視線を落とすことなく、広間へ足を踏み入れる。
白がすべてを支配している。足元には磨き上げられた大理石、高い天井へと伸びる淡い色の柱、光を反射して目が眩むほどの薄色の垂れ幕。影を消し去り、逆らう者に居場所を与えないために作られた部屋だ。それでも私は進む。心臓は激しく打ち鳴らされているが、頭は高く掲げたままだ。囚人たちを募り、到着したマリクのために城門を開けようとしていることが発覚していないのを願うばかりだ。
大広間の奥、玉座にはヴェルティワザ王が鎮座している。その視線は、計算された緩やかな蔑みを込めて私の全身をなぞる。見せびらかすための戦利品のように私を観察しているのだ。私の一歩一歩が、自身の権力の証明だと分かっているのだ。
私はそのまままっすぐ進み、玉座へと続く階段の脇にたどり着く。
階段の裾には、微動だにせず立つタルクンの姿があった。白い広間の中で明るい色の鎧が際立ち、濃い茶色のマントが肩から重たげに垂れている。
なぜ彼がここに? 彼の視線と私の視線が交差するが、挨拶の素振りは見せない。あまりに危険すぎる。
ヴェルティワザ王が腕で私を指し示す。「ほら来たぞ、私のイシュダーだ」そしてタルクンを苛立たせるように笑みを浮かべた。
言い返したいのをこらえ、奥歯を噛みしめる。私は彼のものなどではないし、なるつもりもない。
王は私を玉座へ引き寄せようと手を差し出す。
私は気づかないふりをして、彫像のように佇むタルクンの方へ向き直る。挨拶を交わす勇気はないが、今起きたことだけで、彼には私と王との関係が十分察せられたはずだ。
「まったく、女というものは!」王が冗談めかして笑う。「予定を台無しにして呼び立てると、すぐにこれだ、へそを曲げる」
タルクンは頷き、笑みを浮かべる。「おっしゃる通りでございます、陛下」
「さて、そなたの要求通り『私の』側室も揃った。これでようやく本題に入れよう」
「そのために参りました」
タルクンは外交官ではなく軍人だ。この役目ならジル・バムの方がはるかに適任だったはずだ。それなのに彼を送り込んできたということは、マリクは何か別の目論見を立てているに違いない。
タルクンは粘土板を取り出し、それを読み上げる。
要するに、マリクの提案は捕虜と人質の交換、五百台の戦車の引き渡し、そして毎年の穀物と油の貢納だ。量までは理解できない、忌々しい単位め。さらにリッギオンとキッタンナの間の地域を非武装化し、両国にとっての自由地帯と宣言することも提案している。交易を促進し、軍隊の通過を防ぐための緩衝地帯とするためだ。
筋の通った和平案だ。だが、帝国の目的がこれではないことを私はよく知っている。最初からの目標はミルワンの征服と服従であり、新たな和平条約を結ぶことではない。これはマリクのブラフだ。
ヴェルティワザ王は一言一句に深く耳を傾けている。本気で検討しているかのようにも見えた。
私のことは一度も言及されない。
「以上がマリク王子の提案です。もし陛下がお受け入れになるのであれば、王子は同じ提案を皇帝陛下にも提示されるとのことです」
「つまり、公式な申し入れではないのだな」
「まだ、そこまでは」
やはりマリクの独断なのだ。私を家へ連れ戻すために和平を成立させたいのか、それとも何か別の問題が発生したのか。
「仮に私が受け入れたとして、皇帝が承諾するという保証がどこにある?」
「王子のお言葉そのものが保証となります。それに、この提案は我々にとっても利益がございます。戦争を終わらせることができるのです」
「そもそも戦争を始めなければよかっただけの話ではないか」
「無礼を承知で申し上げますが、先に我が国の長年の同盟国であるキッタンナを攻撃されたのは陛下です」
「それは別の話だ。いずれにせよ王子の軍は私を待ち構えていた。私が攻撃しなかったとしても、そちらが攻め込んでいただろう」
どちらにしても戦争は起きていたのだ。マリクはいつか、このすべてを回避したいと願うようになるのだろう。
「いずれにせよ」周囲に聞こえるよう声を張り上げる。「過ぎ去ったことを変えることはできませんが、これから起きることを決めることはできます」
タルクンが頭を下げる。「イシュダー様は今回もまた実に賢明であられます」
「貴様の意見を聞いた覚えはない」王が闘技場の時と同じ憎悪の視線を私に向ける。「だが言っていることは正しい。過去を議論したところで過去が変わるわけではない」
「同感でございます」タルクンがすばやく付け加える。
「だが、だからといってこの提案が無意味であることに変わりはない。マリクにはこの協定を承認させ、履行させる権限などない。それに、お前たちドゥルハンのことだ。長老会議や皇帝、そして戴冠の炎の承認が必要だと言って時間を稼ぐのだろう。その間に戦争を継続し、稼いだ時間を利用して優位に立つつもりなのだ」
「もちろん、そのようなことはございません」
「つまり、私が間違っていると言いたいのか?」ヴェルティワザが唸る。
「我々には、交渉を利用して戦争を長引かせる意図はない、と申し上げているのです」
「それを証明してみせろ」
「ならば、お受け入れください」
「どうやって信用しろというのだ?」
私を人質にしているくせに、それを思い出させる勇気はなかった。マリクの計画を邪魔してしまうのが怖いし、何より交渉を口実に時間を稼がれ、故郷へ帰るのが遅くなるのが恐ろしかった。
「我々の言葉が保証でございます」
「ふん、お前たちの言葉など保証にはならん」
「それでは我々を侮辱することになります」
「知ったことか」王は気にもとめない様子で言い放つ。まるで和平の可能性など、取るに足らないもののように投げ捨てている。
「では、提案をお受け入れにならないとお考えでしょうか?」
「今の状況では、馬鹿げた提案だと思っている」
「ですが、もし状況が悪化したなら、好機を自ら捨てたことになります」
「悪化するのは、お前たちのほうかもしれんぞ、侵略者め」
「ずいぶんとご自分の力に自信がおありのようですね」
「お前たちには戦争の女神がいる。探して、卑劣な手段でリッギオンを奪った後、お前たちは目立った戦果を一つも挙げていないではないか」
「今のところは、ですが」
つまり、この十五日間、マリクは勝利を得られていないのだ。だからヴェルティワザはこれほど余裕を見せている。だが、それならなぜマリクは和平を持ちかけてきたのだろう。何か別の理由があるはずだ。
「お前たちがここまで来ることなどない。私の都へ、私の宮殿へなど決してな。私の戦車がお前たちを打ち砕く。それに、私のもとへ援軍が届くかもしれん」
エギントのことを言っている。確か、妹が女王か何かだったはずだ、よく覚えていないが。
タルクンが首を横に振る。「お受け入れになることをお勧めします。すでに我々の軍は、ミルワンとエギントの勢力圏を結ぶ街道を占領しております。援軍は来ません」
私は振り返り、ヴェルティワザを見つめる。
王は玉座の肘掛けを強く握り締め、顎を固く引き結んでいる。
「さらに、陛下にお忘れいただきたくないのは、我々にも同盟国があるということです。戦争が長引けば長引くほど、彼らが問題を片付け、背後から陛下を攻撃する可能性も高くなります」
「バビロニアは介入しない」
「そうとは限らないでしょう」
「いや、間違いない。そう言い切れるだけの理由がある」
皇妃エンラーはバビロニアの王女だ。まさか、彼女が関係しているんじゃないでしょうね。
「一体どこからの情報で?」タルクンも同じ疑問を抱いたらしい。
「我々はバビロニアと国境を接している。お前たちは違う。それを忘れたか?」
「確かに」
つまり、バビロニアは二枚舌を使っているのか、それともすべてが終わるまで介入しないつもりなのか。終戦の一か月前になってようやく宣戦布告し、和平交渉の席にだけちゃっかり座ろうとする連中のように。
「いずれにせよ、マリク王子には我が申し出を拒否したと伝えろ。本当に和平を望むのなら、私の土地から出ていき、二度と戻ってくるなとな」
「お言葉、確かに王子殿下へお伝えします、陛下」
結局、何も進展しなかったわけだ。
タルクンが一礼する。「立ち去る前に、陛下。イシュダー様に敬意を表することをお許しいただけますでしょうか」
なぜ?
「なぜ許す必要がある?」
「何といっても、彼女は我々にとっても戦争の女神です。それに、ドゥルハンの王女でもあります。帝国の臣下である私には、相応の敬意を捧げる義務がございます」
「今では私の妾だ。そのことも王子に伝えろ」
「存じております」
「許してやろう。ただし、二人で一言でも言葉を交わすことは許さん。さもなければお前の両手を切り落とさせる」
「仰せのままに」
ヴェルティワザが手で階段を指し示す。「行くがいい。ただし、口を開けばお前も罰する」
なんてお優しいこと。「承知しております、陛下」
階段を下りる。
タルクンが私の目をじっと見つめている。視線だけで何かを伝えようとしているのだ。
最後の一段を下りて彼の前に立つと、タルクンは跪いて頭を垂れた。
私は手を差し出す。手の甲に口づけを受けるためだ。
タルクンは私の手をそっと取り、その甲に唇を触れさせた。
その瞬間、硬いものが手のひらをかすめた。小さくて滑らかな、小石か粘土の欠片のようなものだ。
タルクンは立ち上がると、軽く頭を下げた。
私は手の中に残されたものを握りしめる。やはり、粘土の小さな欠片だ。
「よし、イシュダー、私のもとへ戻れ」ヴェルティワザはまるで犬を扱うかのように命じる。
振り返って従う。何かを渡されたと知られれば、タルクンは殺されてしまう。私は強く拳を握りしめる。
「よし。これでお前の仕事は終わりだ、下がれ。何を伝えるべきかは分かっているな」
「はい、陛下」タルクンは恭しく身を引き、大広間を出ていった。
「何か言われたか?」
「いいえ」何かを疑っている。
「本当か?」
「はい。そもそも、何か言ったら殺すと陛下がおっしゃったのでしょう? なぜ話しかけたりする必要があるのですか」
「向こうから話しかけようとしたのかもしれん」
「自分の命は惜しいと思いますけれど」
「兵士だからな」
「ですが、彼は使者としてここに来ていたのです。もし彼を殺していれば、重大な罪になっていたでしょう」マリクが教えてくれたことだ。私たちの世界とこの世界が似ていることもある。「神々に対する重大な罪にも」
「確かに。帝国などどうでもよい、どうせすでに戦争中だ。だが神々に関しては、与えてもらえる助力をすべて得ておく必要がある」
「それは今、困っているからですか? それとも助けてもらえれば都合がいいからですか?」
「都合がいいからだ。お前が戦争について聞いている話は本当だ」
「どうして私にそんなことを?」
「今のお前はミルワンの戦の女神だからだ。私たちの勝利を祈ってもらわねばならん。それに、お前は見た目以上に狡猾で賢い女だと思っている」
「私、馬鹿に見えますか?」
「そこは素直に礼を言っておけばいいものを」
「私を殺そうとした人からの褒め言葉って、なんだか妙な感じがしますけれど?」
「まだお前のことを知らなかったのだ、ガイア。だが今は違う、お前を尊重している」彼は私の目をまっすぐに見つめる。「病院でのお前の行動も知っているぞ」
一瞬心臓が止まり、恐怖で身体が跳ね上がる。「何のことですか?」囚人たちのことがバレたのだろうか?
「病院のことだ。病人たちを治療していることもな」
安堵の息を飲み込む。「はい」それだけを言うのが精いっぱいだった。
「王女らしい振る舞いとは言えんが、我が民の助けにはなっている。それに、お前が私の側室であることで、私の評判にも良い影響を与えているのだ」
「陛下がご自分の評判を気にするとは思いませんでした」
ヴェルティワザは頭を反らして笑う。「お前は謎だな。時に老獪な政治家のようでありながら、これほど初歩的なことで間違いを犯す。どんな君主も自身のイメージを重視するものだ。民衆からの評判が良ければ、身の安全を守り、暗殺の企みを防ぐのにも役立つのだからな」
理にかなっている、マリクも同じ理由でそうしているのだ。
「それに陰謀や不評な政策の際にも、民衆に対する自分のイメージを利用できる」
「政治家なら、誰でもそうするべきでしょうね」
「分かっているではないか」
「私が理解しているのは、私が死ぬより生きているほうが、陛下にとって利用価値があるということです」
「今のところはな。もう行け、私にはもっと重要な用事がある」
「かしこまりました」二度言われるまでもなく、その場を離れた。
大広間を離れ、兵士たちに付き添われながら出口へ向かう。
「ガイア」王が私を呼び止めた。「本当に、あの使者から何も言われていないのだな?」
「本当です」しかも、嘘ではなかった。
手の中の粘土の欠片を、痛みを感じるほど強く握りしめたまま、私は部屋を出た。




