異世界から来たガイア 66
第66章
ガイア
侍女の後について後宮を進む。
マリクの宮殿とはまた違う場所だ。中庭には装飾された柱や生け垣が並び、中央には戦車の像をあしらった噴水まである。
壁沿いにはさまざまな女たちの部屋や、使用人用の部屋が並んでいる。
何人かの妾が散歩をしていて、私の身なりを見て驚いたり、あからさまに嫌悪感を露わにしたりした視線を向けてくる。
何日もお風呂に入っていないから臭うのだろうし、着ている軍用のチュニックもかなりボロボロだ。
「お仕えできることを光栄に思います、殿下」と、侍女がもう千回目くらいになる言葉を繰り返す。特に促したわけでもないし、実際、彼女が宮殿案内をしてくれている間もほとんど耳に入っていなかったと思う。自分の考えに没頭しすぎていたのだ。マリクがどう思うだろうかとか、ヴェルティワザに何か裏の目的があるのではないかとか、そんなことばかり考えていて。
「あなたが私の専属侍女になるのよね?」彼女は二十五歳くらいだろうか。ふっくらとした顔立ちで、あまり見栄えがするとは言えない。
「はい。特別な折には、他の者たちにも手伝わせます」彼女は微笑む。歯が一本欠けていなければ実に素敵な笑顔なのだが。「いずれも信頼できる、経験豊かな者たちばかりです」
「心配しないで、大層な機会なんてないと思うわ。私は高望みするタチじゃないし」
「殿下は王女様であり、王の妾でもいらっしゃいます。お世話をするのが私の務めです」
二つの異なる王国で妾になるなんて、よくあることなのだろうか?「私は生まれつきの王女じゃないの」
侍女は目を丸くする。
こちらを凝視していた二人の女まで、石になったように硬直した。
まるで教会で神を冒涜する言葉でも吐いたかのような反応だ。「マリク王子が私を見出して、王女にしてくれたの」本当の経緯まで語るつもりはない。「ここまで来られたのは彼のおかげよ」
「まあ、今は陛下の妾でいらっしゃいますし、過去のことはどうでもよいのです。お部屋へご案内し、お風呂をご用意いたしますね」
切実にそれが必要だった。「ありがとう、助かるわ」
別の妾が私の脇を通り過ぎる。彼女は袖で鼻を覆った。連れている侍女まで顔をしかめている。
「不潔ね……」と妾が呟く。
一言も返す気になれない。ここにはできる限り短期間しかいたくないのだから。
侍女はある扉の前まで私を案内し、それを開けた。「こちらが殿下のお部屋でございます」
彼女より先に中に入ると、侍女は背後で扉を閉めた。
ホテルのスイートルームのような部屋だ。片側には天蓋付きのベッドと大きな窓があり、反対側には長持がいくつも置かれている。大理石の天板がついたテーブルと、もう一つの扉もあった。
侍女がその扉に向かう。「お風呂の準備をしてまいります」
水道も通っていないのに、どうやって準備するのだろう?
後をついていく。
部屋の中にはすでに水が張られた浴槽があり、彼女は棚から小瓶をいくつか取り出しているところだった。
部屋の奥にはスツールと、お化粧をするための鏡台もある。
全体として、なかなか良い環境にあてがわれたものだ。
「殿下、お湯のお加減はいかがでしょうか?」
水面にそっと触れてみる。
水はひんやりしているが、冷たすぎるわけではない。「ちょうどいいわ」
彼女は小瓶をひとつ手に取り、気まずそうに視線を落とした。
「どうかした?」
「お召し物を脱いでいただければ、お身体をお洗いするのをお手伝いいたします」
出た出た。ここでも貴族の女たちは他の女に体を洗わせたり揉ませたりするのが好きなのだ。どうやらこの世界では、まだプライバシーという概念は発明されていないらしい。
「気にしないで。言ったでしょう、自分で洗うのに慣れているから」
「で、ですが……」
「それより、何か食べるものを持ってきてくれると助かるわ。ここ数日、ほとんど何も食べていないの」
「かしこまりました。何かご希望のものはございますか?」
生ハムを乗せたクアトロ・フォルマッジのピザ。だけど、この近くにピッツェリアがあるとは思えない。「フォカッチャとフレッシュチーズがあればいいわ」
「承知いたしました。ではその前に、ふさわしいお着替えをご用意いたしますね」
「分かったわ」何に「ふさわしい」のかは分からないけれど。
侍女は着替えを準備しに出て行った。手に入る限り、一番ピザに近い食べ物を持ってきてくれるといいのだが。
チュニックを脱ぎ捨て、床に放り出す。お腹がぐうと鳴った。まったく、ピザのためなら人殺しだってできそうだ。浴槽に片足を突っ込むと、冷たさが脚を伝って上がってくる。歯を食いしばり、もう片方の足も入れて全身を浸した。
この暑さだ、冷たいお風呂は最高に気持ちいい。
一人用の浴槽だから泳ぐことはできないけれど、どうせ体を洗うためにここにいるのだ。石鹸を手に取り、腕にこすりつける。ラベンダーの香りがした。
マリクはこの香りを気に入るだろう。浴槽はダメだろうけれど。二人で入るには狭すぎるから。
彼が無事でいてくれるといい。私の消息を知らせたいけれど、なかなか難しそうだ。
私は自分の脚をごしごしと擦った。
マリクは都市に入り込むのが一番難しいと言っていたけれど、いま私は敵国の首都の中にいる。彼が私を救いに来ると分かっているから、彼を助けるために自分に何ができるか考えなければ。
適切なタイミングで彼に門を開け、私を救い出してもらうのだ。助けを待つだけの王女様を演じられないのは残念だが、少なくとも何かに没頭していれば不安や心配事も消え去るだろう。あとは行動を起こす手立てを見つけるだけで、戦争捕虜を訪ねるのがその第一歩になるはずだ。
私ならできる。マリクの足手まといにはなりたくない、もう十分彼を失望させてしまったのだから。これ以上、彼に心配をかけたくもない。
石鹸と柔らかいブラシで全身を洗う。生まれ変わったような心地だ。何か食べれば、もっと気分も良くなるだろう。
入り口の扉がギシッと鳴って閉まる。
「陛下」侍女の声だ。
一体全体、何をしにここへ来たの?
お湯から飛び出し、身を隠さなければと思う。布をひっつかみ、体に巻きつける。
「こうして改めてよく見ると、マリクがお前に何を見出しているのか分かる気がするな」
振り返る。ヴェルティワザ王が壁に背を預け、浴室の出入り口を塞ぐように立っていた。腕を組み、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。
裸を見られた。
あるいは、ほぼ裸を。まあ、そんなことはどうでもいい。「ここで何をしているの?」
「ここは私の後宮だということを忘れたか? ここにはいつでも、何の言い訳もなしに来ることができるのだ」
「ノックするか許可を取るのがマナーでしょう」何も見られないよう確認し、胸元から膝までしっかり覆う。
「なぜだ?」
「礼儀よ。聞いたことない?」
「私の妾なら、訪問を受けて喜び、感謝するものだがな。気になるなら仲間の女たちにでも聞いてみるといい」
「私はあなたの妾じゃないわ」とうなるように言う。
「ほう、違うのか? だが、まさにそのために牢から出たのだろう」
「私たちの協定の一部よ」
「お前をここに繋ぎ止め、今やイシュダーが私の味方だと言いふらすためにやったまでのことだ」
一方では安堵する。今のところ私に手を出すつもりはないということだから。だが他方では、私が彼のものになったという噂を広めたいのだ。「それでも、昨日までは私を殺したがっていたくせに」
「ドゥルハンから手札を奪いたかったのだ。手段はどうでもよかった」
「服を着たいから出て行ってくれる?」
「嫌だ」
「質問じゃないわ」
「私にはそう聞こえたがな」
「じゃあ、どいてちょうだい。せめてあっちを向いて」
「断る」
「私は向いてほしいの」
「恥ずかしいのか? だが自分の役割が何であるかは分かっているはずだ」彼は壁から背を離し、私に向かって一歩踏み出す。
「そういう意味で私を欲しがってはいないって言ったじゃない」私は手探りで長持の上を触り、武器になるものを探す。
「嘘をついたのかもしれんし、気が変わったのかもしれん。なにしろ服を着ていないお前は悪くない」
小瓶を掴んで振り上げ、もう片方の手で布を押さえる。「触ったら去勢するわよ」
「その小瓶でか?」
「いいえ。噛みちぎってよ」後ずさりする。
彼は一歩進み出る。「お前にそんな度胸があるとは思えんが」
「試してみる?」
彼は笑って首を振る。「遠慮しておこう。だが一応言っておくが、そんなことをすれば凄惨な苦痛の中で死ぬことになるぞ。ライオンに食い殺されるどころの話ではない」
「ちなみに、あのライオンだって卑怯な手だったわ」
「ライオンがか?」
「そうよ」殺してしまったのは可哀想だったが、どうせこの世界では誰も理解してくれないだろう。
「それまでの見世物が退屈だったのだ」彼は肩をすくめる。「場を盛り上げる必要があった」
「すごく卑怯なやり方だったわ」
私に向かって一歩近づいてくる。真剣で、集中していて、どこか邪悪な目つきだ。
投げつけるぞと脅すように小瓶を高く掲げる。
ヴェルティワザが素早く私の手首を掴む。「ハッキリさせておこう。私は欲しいものがあれば、何としても手に入れる。それが街であろうと、女であろうとな」
私の目をまっすぐに見つめて離さない。すくんで体が固まったようになる。動くことができない。
「ここにおいて、私は単なるお前の王ではない、それ以上の存在だ。まして私がいなければ永久に牢獄で腐り果てるだけのお前にとってはな」
永久なんかじゃない、マリクが私を迎えに来るまでだ。
ヴェルティワザは布を掴み、乱暴に私の体から引き剥がした。
布地が激しく体を擦り、私は彼の前で全裸で立たされる。
私を見つめ、じっくりと観察する。恐ろしい。
彼は身を翻し、出口へと向かう。「服を着るがいい。なにしろ、私にはもっと見る価値のあるものがあるからな」浴室から出ていく。
「けっこうよ、そんな姿を見せるのはこれが最後になるんだから大歓迎だわ!」
玄関の扉が再び閉まる。部屋から出て行ったようだ。
膝から崩れ落ち、浴室の床に倒れ込む。
ここから逃げ出さなければ。
マリク
ジル・バムとキクは、もうかなり長いこと商人と話し込んでいる。
椅子のそばにある革袋を持ち上げて口元へ運ぶが、まだ酒の匂いが残っている。
「兄上、言っておくが、酒の蓄えは全部俺が片付けたぞ」ザナンザが隣で剣を研ぎながら言う。
「お前がやったのか?」
「ああ。二、三日は好きなだけ飲ませてやったが、もう終わりだ」
「俺は自分が何をしているのか分かっている」
「分かってない」
砥石が刃を擦る音が、耳の奥を引っ掻く。「とにかく喉が渇いているんだ」
「水を飲め。酒でもビールでも蒸留酒でも、触ろうとしたら指を一本切り落とすぞ」
「くそっ、俺がお前に何をした?」
「何日も酔い続けているんだぞ。自分で考えてみろ。最初の数日は理解できる。だが、もういい加減、自分を取り戻せ」
「俺は正気だ」
「正気なものか。俺も経験したから分かるんだ。お前は苦しみに呑まれて、あんなもので感覚を麻痺させている。だが、それじゃ駄目だ」
「実際、できている」
ザナンザは剣と砥石を放り出すと、俺の頬を平手で打った。
痛むが、叩かれた強さというより、その行為自体に頭に来た。
「何しやがる?」
「お前が俺を怒らせているんだ。苦しみに自分を壊させるな」
「誰が自分を壊しているって?」
ザナンザが片眉を上げる。
「分かった。俺は少し、羽目を外した」
「商量する余地はない。今は羽目を外している場合じゃないんだ。理由は二つある」
「言ってみろ」
「一つ目だ」ザナンザは親指を立てる。「お前には軍を、そして帝国全体を背負う責任がある。いずれお前は皇帝になるんだ。今この瞬間から、その器があることを示さなければならない」
「それは今さらだ」
「それを理解し、心に刻むんだ。そして二つ目」人差し指を立てる。「ガイアはまだ生きている」
「分からないだろう」
「生きていないと決めつけることもできない。もし生きているなら、お前は取り戻しに行ける。行けるうちは行かなければならないんだ」
俺は立ち上がり、背筋を伸ばす。「その通りだ」妻を失ってから、ザナンザは変わった。生前はあれほどゲッスアに冷たくしていたというのに、今では罪悪感と彼女が残した空白が、深く心に刻まれているのが分かる。「俺もあの商人の話を聞いてくる。ずいぶん長く話しているようだし、何か面白い話があるかもしれない」
「俺も行く」
俺たちは三人のところへ近づいた。
「本当なのですか?」ジル・バムの声には、隠しきれない驚きが滲んでいる。
商人は頷いた。「ええ、ええ。首都では誰もがその話をしています」
「何の話だ?」俺が割って入る。
「陛下」キクとジル・バムが軽く頭を下げる。
商人はさらに深く頭を下げた。「陛下」
「それで、首都では何が噂されているんだ」
商人は両手を揉み合わせる。
キクは俺と目を合わせようとしない。
ジル・バムが長く息を吐いた。「ガイア様が今、首都におられ、ヴェルティワザ王の側妾になられた……そう言われております」
足元で、世界そのものが揺らいだような気がした。
ザナンザが気遣うように俺の肩へ手を置く。
「そ……それは確かなのか?」別の男の側妾に。
「はい」商人が頷く。「私は決して嘘をつきません」
その仕事をしている人間の言葉とは思えない。「何より、お前に俺へ嘘をつく理由もないだろう」別の男の側妾。手が震える。別の男があいつを欲しがるかもしれない。別の男があいつに触れ、俺が自分を抑えてきたこと、俺とガイアがあいつのために諦めたことを、その男がするかもしれない。「お前の持っている品を全部買う。お前はすぐに首都へ戻れ」
「は……はい、陛下」商人の目が、取引の喜びに輝く。
俺の血は煮えたぎっている。誰にも俺のガイアに触れさせない。俺は商人の衣を掴んで引き寄せた。男の頭は、俺の胸に届くかどうかという高さだ。「皆に伝えろ。ヴェルティワザがあいつに指一本でも触れてみろ、この大地にあるものを何もかも焼き払うとな。どこへ逃げようが関係ない。この世界のどこへ逃げようと、俺の怒りからは逃れられない!」商人を放し、後ろへ突き飛ばす。「分かったか?」唸るように問い詰める。
「は……はい……」商人は怯えた様子で頷いた。
「なら行け! 今すぐだ」




