異世界から来たガイア 63
第63章
マリク
宮殿の中庭に足を踏み入れると、そこを満たす花々の香りが俺を迎えてくれた。
ザナンザが俺の隣を歩いている。何日も追撃と無意味な小競り合いを繰り返してきたせいか、その足取りには苛立ちが滲んでいた。
ジル・バムが胸に粘土板を抱えて走ってくる。汗をかき息を切らすような肉体労働は彼らしくない。「我が君……お戻りになられたのですね」
目の下に酷い隈がある。昨夜は眠れなかったのだろう。俺は頷いた。「思ったようにはいかなかった」
俺たちは回廊を抜け、日陰へと身を寄せた。
宮殿のざわめきが俺たちを包み込む。急ぐ足音、抑えられた話し声、上質な絹擦れの音。
ジル・バムは周囲に誰もいないことを確かめた。「何があったのですか?」
俺はまだ砂埃に汚れた顔を擦った。「あと一歩で倒せるところでミルワン王に逃げられた」俺は首を振る。彼がいかに俺たちの時間を浪費させ、陣営を捨てて去ったか、そして捕らえた捕虜たちも結局は役に立たず、王の意図について具体的なことは何も知らなかったことを話した。「戦争のために何か重要なものを取りに行かなければならないと言っていただけだ」
ザナンザが柱を拳で叩いた。「必ず追い詰める」
ジル・バムが息を整えた。「私からもご報告があります……こちらで起きたことについて」
その表情に浮かんでいるのは、ただの疲労ではない。もっと張り詰めた、深刻な何かがあった。
「ガイアはどこだ?」彼女に関することに違いないと直感し、返事を聞く前から胸の鼓動が跳ね上がった。
書記官は、粘土板が急に重くなったかのようにそれを下ろした。「それが……まさに彼女についてお話ししなければならないのです」
口の中が乾く。「話せ」
「昨日……姿を消しました」
周りの空気が凍りついた。まるで雪の中に突き落とされたように、息ができなくなる。
ザナンザが身震いした。「どういう……姿を消しただと?」
「目撃者の証言では、下町にある神殿へ入ったとのことです」ジル・バムは一言一言を噛みしめるように語る。明らかな動揺が伝わってくる。「小さな聖堂です。一人の神官と一緒に中へ入られました。そして……そこから出ておられません」
俺は彼に詰め寄った。「どの神官だ?」
「特徴から察するに、テンヌだと思われます」
「テンヌ? あいつなら何日も行方が分からないはずだ」裏切ったというのか?「俺はあいつをよく知らんし、本当はどういう奴かも分からない。だが、俺を裏切るはずがないし、ガイアを裏切るはずもない。俺たちは皇族なんだぞ!」
「そこなのです」書記官は深呼吸をした。「彼を告発できる明確な証拠がないのです。誰一人、姿をはっきり見たわけではありません。ですが……」
「ですが?」
「神殿の地下に小さな地下墓所が見つかりました。そしてどこへ通じているのか分からぬ抜け道も。血痕が残っていたことから、そこで闘乱があったことは間違いありません。遺体は見つかっておりませんが」
「くそっ!」
「他の者が踏み込まぬよう、現在、兵たちがその入口を壁で塞いでおります」
息が詰まる。神殿、地下墓所、隠し通路。あまりに多くの可能性が交差する。「なら……さらわれた可能性があるわけか……」俺は呟いた。
「そうであってほしいと願うばかりです」ジル・バムは最後まで言わなかったが、その必要はなかった。それ以外のあらゆる仮説を恐れるように、彼は視線を落とした。
床が傾く感覚がした。俺は額に手を当て、それから胸へと移した。あばら骨を締めつけるこの衝撃を、手で抑え込めば止められるとでも言うように。
「死んでいる……かもしれない」乾いた、途切れ途切れの声が漏れる。
ザナンザが俺の肩に手を置いた。
視界がかすみ、色が混ざり合う。耳に届くのは、あまりにも荒く速い自分の呼吸音だけだ。
神殿の暗闇のなかで消息を絶ったガイア。
危害を加えようとする誰かの手に落ちたかもしれないガイア。
あるいは……すでに死んでいるかもしれないガイア。
膝から崩れ落ちた。力なく床にひざまずき、顔を叩きつけるのをかろうじて両手が防いだ。
「ガイア……」
彼女の不在は、どんな敗北よりも重くのしかかる。世界のすべてが、彼女が遺した空白のなかへと縮んでいった。
ガイア
敵の捕虜として、私を監視する兵士たちの間を歩く。
今朝入れられた牢獄の出口へと向かっている。
背中で縄が手首を強く締めつけている。
一房の髪が目の前に垂れてくる。
息で吹き払う力もなく、私は自分の足元に視線を落とした。
ミルワンの首都までの行軍中、泣かないように全力を使い果たしたし、今さら泣きたくもない。
これから、奴らの王と話さなければならないのだから。
私を人質にしてマリクを妨害しようとするのだろうが、私は強くいなければならない。折れるわけにはいかない。
日光の下へ出る。
目が眩まないよう、目を細めて俯いた。
それでも目が痛む。昨夜も、さらわれてからの四日間も、流せる涙をすべて流してしまったせいだろう。
今頃マリクは私がいないことに気づき、すでに動いているはずだ。私を捕らえてここまで連れてこられたのは、奴らが運がよかっただけにすぎない。
動画で私が愚かだったのだ。
一人の兵士が槍の柄で私の太腿を突く。「歩け」と唸る。
私をさらった将校が振り返り、後ろの兵士を睨みつけた。「命令を下すのは俺だ。敵とはいえ王女なのだから、敬意をもって扱い続けろ。お前の母親のような娼婦とは違うんだぞ」
「はい、閣下!」と兵士たちが唱和する。
他の兵も加わり、今や一ダースほどの護衛がいる。
なぜかは分からないが、私は彼に好かれているのかもしれない。少なくとも、彼はできる限り私をまともに扱おうとしてくれている。
「前進!」と彼が命じる。
私を中心に置き、全員が一斉に動き出す。
「ありがとう……」と将校に呟く。
彼は肩越しに私を見た。「礼儀というものは過小評価されていますから」
私は視線を上げた。「いずれにせよ、ありがとうございます」
彼はかすかに微笑み、再び前を向いた。
私たちは群衆の中へと足を踏み入れる。
通りは人々で埋め尽くされ、沿道だけでなく家の屋根の上にまで伸びている。
私自身、髪を汚し、服を破かれ、束縛された姿でここにいる。
背筋を伸ばし、顎を上げる。耐えなければならない。ここで折れてしまえば、マリクの助けがあろうとなかろうと終わりだ。
血筋や外見は王女らしくなくても、気品において王女であってみせる。少なくとも、それが私の覚悟だった。
「偽りの女神のおでましだ!」と屋根の上の誰かが叫ぶ。
「人殺しの雌犬!」と通りから誰かが叫ぶ。
私はため息をつく。「その通りね。良いマナーは過小評価されているどころか、蔑まれているわ」
「黙ってろ……」と左の兵士が呟き、私の足元に唾を吐き捨てた。
私兵たちの慰みものとして与えられなかったことに腹を立てているのかもしれない。
罵声のなかを頭を高く掲げ、気高く歩く。震えずに歩くにはそれが最善の方法だ。囚われの身となろうと死であろうと、自分の運命に向き合う間は誇りを保ちたい。どのみちマリクがいなければここから抜け出せないことはわかっている。
護衛の誰も言葉を発しない。
だが、心の中では震えていた。
まるで断頭台へと引き立てられるマリー・アントワネットのようだ。
大通りが広がり、私たちの集団は、惨めな状態の男たちと別の兵士たちの一団の先頭に位置についた。
「あの人たちは誰?」と、将校が答えてくれることを願って尋ねる。
右側の兵士が鼻を鳴らす。「お前の同胞だよ。俺たちの国に侵略してきたドゥルハンのクソ野郎どもだ」
「戦いがあったの?」画像で私たちは負けたの? マリクの身に何かあったのだろうか?
「戦いは常に起きているのですよ、閣下」将校は振り返りもしない。「生き残りが捕らえられ、奴隷や戦俘として扱われるのは世の常です」
私と同じように。
「自分たちのしたことの報いを受けろ!」と群衆が叫ぶ。
鼻先を石がかすめて飛んだ。
身体が凍りつく。
これまで保ってきた虚勢の仮面に亀裂が入る。
私は身を屈めた。できることなら自分で自分を抱きしめたかった。
背後の兵士が私を突き飛ばす。
動けない。
今日、私は死ぬ。そう確信した。
私に対して、裏切りや私が彼らの多くにとって象徴するものに対して、思いもよらなかったほどの憎悪が渦巻いている。
戦争なのだから予心していなかった私自身が愚かなのだが、それでも辛い。
石が私の左腕を直撃した。
上腕二頭筋から激痛が弾け飛ぶ。
悲鳴は押し殺したものの、目から溢れ出る涙を止めることはできなかった。
「将軍」背後の兵士は私を打ち叩く許可を求めているのだろう。
「何だ?」
「捕虜が動きません。それに腕に石が当たりました」
将校が完全にこちらを振り向く。怒っている。雄牛のように鼻息を荒くしている。「閣下」その声は数分前よりも荒く乾いていた。「同胞たちの無礼な振る舞いをお許しください。ですが彼らの心境も察してやっていただきたい。あなた方やその親族のせいで多くの者が愛する者を失い、戦争の不安に苛まれているのです」彼は手を伸ばし、私の涙を拭った。「強くおありなさい。どうか挫けないで」髭の奥で、微かな笑みが揺れた。
頷く。
マリクが、このことの代償を払わせてくれるわ。
私を屈服させる満足なんて、絶対にあげない。
顎を上げ、涙をこらえる。
「よろしい」将軍が頷く。再び私に背を向ける。「進め! それと、捕虜を守るために盾を掲げろ!」
周りの兵士たちは嫌そうにため息をつき、盾を取り出す。
私を守る気なのだ。
次に飛んでくる石を遮るように盾を掲げる。
鈍い音が響く。
だが、もう怯えはしない。囚われているのは私だけではないし、マリクが状況を解決してくれる。
大きな正方形の館に到着する。
巨大な門から、群衆が中へと雪崩れ込んでいく。まるでスタジアムの回転ゲートのようだ。
「ここで死ぬんだ」背後の兵士が私に囁く。
背筋を冷たい悪寒が駆け抜ける。
ここで私を処刑するつもりなのだろうか?
私たちは曲がり、群衆を押し分けて進む。
そうか、見世物の一部なら、特別口から入れるはずだ。
将軍は足早に私たちを導き、八人の番兵に守られた鉄格子の扉へ向かう。
言葉を交わしている。きっと命令を伝えているのだろう。
扉が蝶番を鳴らして開き、大勢の警備兵がいる非常に広い部屋に入る。床は清潔で、嫌な臭いもしない。
牢獄の入口でもなければ、動物用の入口でもない。上出来だ。
「こちらへ、閣下」将軍が顎で階段を示す。
「どこへ連れていくの?」
「ヴェルティワザ王のもとへ」彼は階段に向かって歩き出す。
後を追うが、誰も私についてこない。
武器を持たず、縛られているからだろうか?
象嵌細工の大理石の床に花びらが散りばめられた、豪華な部屋へと上がっていく。
目の前のカーテンの向こうにはバルコニーがあり、喧騒からして群衆を見下ろす位置にあるようだ。
将軍は反対側を向き、膝をついた。「陛下、あの神官との約束通り、マリク王子の妾、ドゥルハンがイシュダーと呼ぶ女をお連れしました」
金色に輝く王座には、三十歳ほどの男が座り、四人の美しい女性に囲まれてロースト肉を貪っている。
その匂いに腹が鳴る。一昨日の夜からほとんど何も食べていない。
ミルワン王は肉を咀嚼し、女性が差し出すお盆の上にジューシーな肉片を戻した。こうして近くで見ると、『アイアンマン』の主演俳優、たしかロバート・ダウニー・Jrにそっくりだ。顔立ちも髭の形も似ている。「お辞儀くらいするのが礼儀というものだろう」
私は唇を噛む。私も肉が食べたい。こんな時に真っ先に浮かぶのがそれなんて。
「本当にこいつなのか? 無礼なだけでなく、それほど美しくもないが」彼は周囲の女たちに向き直る。「なあ、横になったら床と区別がつかないと思わないか?」自分の冗談に笑い、女たちもそれに倣う。
胸が小さいことをわざわざ思い出させてくれてどうも。男にとって女性の美しさって、そんなに胸が重要なのだろうか?
顎を上げる。容姿のせいで私がマリクに相応しくないと言うなら、別の方法で証明するまでだ。「他人の女をさらうことが良い礼儀だとは思いませんけれど」
「ほう。随分と強い言葉だな。だが、私がお前をさらったわけではない。引き渡されたのだ。お前たちの中に、お前の死を望む者がいるのだろう」
そう、皇妃だ。何の得があるのかはよく分からないけれど。私を取り戻すためにマリクが何か愚かなことをする、その可能性に賭けているのかもしれない。「私にとっても珍しい話ではありません。ただ、誇りある人間なら応じなかったでしょうけれど」
「戦争において、常に名誉ばかりにこだわる者ほど呆気なく死ぬものだ。お前の言う意味で私が名誉を捨てようとも、それによって多くの命を救うことができる。私にとってはそちらの方が重要なのだ」
「それで、私をどうするつもり?」生唾を飲み込む。
「民を楽しませてもらうのさ。お前はこの闘技場のメインイベントとなる」彼は杯を受け取る。「そしてドゥルハンの士気を挫き、我が兵たちの士気を高めるのだ」一口含んでから続けた。「もちろん、お前を殺すことによってな」




