異世界から来たガイア 61
第61章
マリク
俺は馬車の中から、俺とミルワン王の陣営を隔てる平原を眺めている。
この平原では、俺の兵たちが二百人ずつの部隊に分かれ、前回と同じように盾の後ろに身を隠している。その姿は、まるで巨大な亀の群れだ。最前列の兵が敵の柵を斧で叩き壊せるようにするには、かなり近づかなければならない。
左右の両翼に配置した戦車隊はその場で待機し、馬たちは落ち着きなく地面を踏み鳴らしている。ここ数日は十分に休ませていたせいか、今は少し興奮しているようだ。それでも、御者たちはきちんと役目を果たしてくれると信じている。
「ご気分はいかがですか、陛下?」キクが手綱を握りしめる。こいつも緊張している。
「絶好調だ」父からの助言だ。常に元気で、前向きな姿を見せろ。
「でしょうね」キクは俺の目をまっすぐ見つめる。「もうすぐガイアのもとへお戻りになれるのですから」
そうだ。この数日、あいつがかなり恋しかった。また離れ離れになり、何週間も話せなかったこともある。それなのに、今回は妙に堪える。戦争のストレスのせいだろうか。「今日勝つ理由が、また一つ増えたな」
「それ以前から、十分すぎるほどあったと思いますが」
「まあ、俺にとっては都合がいい」
「変わられましたね」
「そうか?」
「本気で言っています。これまで陛下は、誰か一人の女性に特別な関心を持つことなどありませんでした。いつも世間から一歩距離を置いていて、情を見せる相手もごく限られていた」
「何が言いたいのか分からん」
「以前の陛下は、冷めていく途中のパンのようでした。ですが今は、焼きたてのパンみたいです」
一体何を言っているんだ?「お前の例えがあまりにひどくて、何を言いたいのかさっぱり分からない」というか、誰にも理解できないだろう。
キクは後頭部を掻いた。「言葉にするのは苦手なのです」
「ああ。絶対に苦手だな」
「とにかく、陛下は変わりつつあります。人のことを以前より気にかけるようになった。探して、ご自身だけのためではない目標を持つようになった」
「昔からそうしてきたつもりだが」
「いいえ、失礼ながら、これまでの目標はいつだって陛下ご自身に関わるものでした。たとえ立派な目的であっても、どこかに自己愛があった。ですが今は、陛下ご自身とご自分への愛だけではない、もう一人の誰かが陛下を動かしている」
「パンなんて持ち出さずに、最初からそう言えばいいだろう」
「おっしゃる通りです」
「いずれにせよ、俺にとっては何も変わっていない」彼が正しいのだと認めたくはない。あいつが自分にとってそこまで重要な存在になり、その身を案じ、隣で生きていきたいと望むようになったなどとは。まだ一度も寝てすらいないというのに。
「私の勘違いだったのでしょう」
全然勘違いなどではない。「戦いに集中しよう」
「陛下の命令をお待ちしております」
「探して俺は、向こうがどう動くのか見たいのだ」
ヴェルティワザ王は兵を出していない。俺たちが陣形を整えたことには、当然気づいているはずだ。こちらが攻めてくるのを、防御陣地で待ち構えるつもりなのか? それとも、ここはただの守備隊で、本隊はすでに移動させたのか。それなら筋は通る。だが、それはここに兵を残して死なせるということだ。そんな決断を平然と下せるものではない。
俺は唾を飲み込む。喉が乾いている。いつも以上に緊張しているのは、この戦いのせいだけじゃない。ガイアのこともある。
向こうが誰も出してこないなら、こちらから攻めるしかない。被害を抑えながら突入する。もし大量の兵が外へ出ていたなら、俺たちが気づかないはずがない。もちろん、夜中に移動したのなら話は別だが、軍隊が動けばどうしたって音がする。
「進軍を命じろ!」俺は命令を下す。これ以上待つつもりはない。奴らが臆病者のように籠城するなら、俺が中から引きずり出す。少なくとも、あの中に何があるのか確かめなければならない。今の俺が選べる最悪の選択は、ここで何もせず立ち止まっていることだ。
ラッパ兵たちが俺の命令である進軍の合図を吹き鳴らす。
亀甲陣の部隊が落ち着いて動き出し、歩調を合わせようとしている。一番右の部隊が手こずっているようだ。彼らにはもっと訓練と規律が必要だ。
ガイアが言っていたが、これは彼女の世界の非常によく訓練された兵士たちの戦術らしい。俺も戦車だけでなく、歩兵の訓練にもっと力を入れるべきなのかもしれない。
左右の両翼の戦車隊はその場に留まり、馬たちが地面を蹴っている。側面を援護するためだけに発進せよという命令が下されており、とりわけ好戦的な者たちはそれが気に入らないようだ。
敵の柵から最初の弓兵たちが姿を現し、警報が鳴り響く。さて、向こうがどう出るつもりなのか見せてもらおう。
最初の矢が放たれ、数人は投石紐をぐるぐると回している。
盾の装甲が持ちこたえてくれることを願う。今日のすべてはそれにかかっているのだ。探して、あの中にはバンヌとタルクもいる。
俺の兵たちから届くのは、苦痛の叫びではなく味方を鼓舞する歓声だけだ。実にいい。
城壁の上にさらに敵が現れ、新たな矢が放たれる。
援護射撃を行わせる気にはなれなかった。こちらの弓兵を危険に晒しすぎることになるからだ。
まだ砦から出てくる部隊はない。
本当に戦うつもりがないのだろうか? もしそうなら、もっと早く攻撃するべきだった。
何本もの矢が、ヤマアラシの針のように盾に突き刺さる。
先頭の部隊は柵まであと数歩のところにおり、間もなく斧を振るって突破口を開かねばならない。
「陛下」
「どうした、キク?」
「誰も出てこないのがどうにも妙です」
「ああ、俺もそうだ。いっそ門の一つを狙うこともできたはずだな」
「先に分かっていれば……」
「だが、今は分かっている」
「手遅れではありませんか?」
「そうとは限らん」俺は予備兵の一人を呼び寄せた。
兵士が駆け寄り、軍礼をする。
「ザナンザを呼んでこい。すぐにだ」
兵士は盾を置き、走り去った。
「裏の門も攻めるおつもりですか?」
「そうだ。戦車なら矢の届かないところを大きく迂回できる。奴らはすでに正面に釘付けになっているから、こちらの意図に気づいたとしても二方向から挟み撃ちにされることになる」
「ですが、矢で多くの馬が傷つけられるかもしれません」
「だからこそ、戦車に盾を持った兵を乗せられないうちはな」今のところは、だが。
「つまり……」キクは目を見開いた。「戦車から降りて戦えとおっしゃるのですか? ですが貴族たちが、普通の歩兵のように戦うことを受け入れるとは思えません」
「受け入れさせる。俺が指揮しているのだからな。適応できる者だけが生き残るんだ」ガイアだってそうしている。ここに来てから、彼女は大きく変わっている。
「それを分からせるべきは、私ではなく彼らにです。私はあなたに従います」
「感謝する。お前の友情にもな」
「ありがとうございます、陛下。それに、ガイアにも感謝しています」
「なぜだ?」
「私個人の考えですが、そしてそう思っているのは私だけではないはずですが、陛下がこうして心を開けるようになったのも彼女のおかげだと思うからです。さっきお話ししたことにもつながります」
「ああ、分かった。その話はやめよう」
歩兵部隊が柵に取りつき、彼らの威勢のいい歓声と斧を打ちつける音が響いてくる。
守備兵たちは矢を放ち続け、手当たり次第に物を投げつけて突破口を開かせまいとしている。かなりの数の盾を交換しなければならないだろう。予備の盾が十分にあるといいのだが。壁の向こうへ姿を消す守備兵もいる。倒れたのか、あるいは抵抗の準備をしているのか。
ザナンザが駆けてきて軍礼をし、息を整える。
俺は彼に計画を説明した。
「分かりました、陛下。兵たちはあまり喜ばないでしょうが、従うのが彼らの義務です」
「よく言った」
「敗走時の援護や敵の逃走を遮断するため、御者の三分の一は戦車に乗せたまま残す許可をいただけますか」
俺は顎を掻く。理にかなっている。「いいだろう。よし、すぐに行動を開始しろ」
「はっ、陛下」ザナンザが走り去る。
あとは待つだけだ。
柵の最初の杭が崩れ落ちる。計画はうまくいっている。
「順調すぎる気がします」
「ああ、そう見える。奴にはめられたんじゃないかと心配だ」
「陽動だったとお考えですか?」
「その通りだ。ただ何のための陽動なのかが分からん」叔父にエギントへ続く街道沿いに部隊を配置するよう伝えたほうがよさそうだ。最も可能性が高いのは、奴らが援軍を待ちつつ、同時に俺たちを兵糧攻めにしようとしていることだ。
ザナンザと部下たちが出発する。敵の矢を避けるために大きく迂回し、急がねばならないと分かっているため速度を上げていく。いいぞ。
俺は地平線を見渡す。
ザナンザが出発した方角には誰も見当たらない。数マイル先にはすでに調査済みで問題のない村があるだけだ。反対側では戦車隊が所定の位置に留まっており、地平線上に敵の姿はない。
俺は別の兵士を呼ぶ。
兵士が駆け寄り、軍礼をする。
「戦車隊へ行って状況を説明しろ。いつでも動けるように準備し、予期せぬ事態に備えて警戒を怠るなと伝えろ」
「はっ、陛下!」兵士は全力で走り出した。
最初の柵の杭はすでに何本も抜かれ、各部隊がその隙間をさらに広げている。
もうザナンザたちの姿は見えない。ということは、向こう側を大きく迂回して、門への攻撃に備えているのだろう。破城槌があれば楽だっただろうな、もっとも、あの柵が破城槌に耐えられるほど頑丈だったなら話は別だが。
一つの突破口が一歩分ほどの幅まで広がり、俺の兵たちから勝鬨が上がる。
兵士たちが一気に雪崩れ込む。
さらに二つの部隊も同じように突入していく。
守備兵たちが最後の抵抗をするため、城壁から降りてくる。
「俺たちも近づくぞ!」
予備兵たちに向かって叫ぶ。
もう矢の射程外だから危険はない。ならば、一刻も早く近づいて自分の目で確認したほうがいい。
「陛下、お気持ちは分かりますし、興味がおありなのも理解しております」
「堅苦しすぎる。お前らしくないな。はっきり言え」
「はい。やはり陛下は離れていたほうがよろしいかと。一発の矢で陛下が殺されれば、敵にとっては戦争に勝ったも同然です」
「心配するな、分かっている。野営地の安全が確認されるまでは、中に入るつもりはない」
キクが頷き、俺たちを近づけるために戦車を走らせる。
それからほぼ一時間が経って、ようやく使者がやって来た。
野営地全体の制圧が完了したという。そこにいたのは、わずか百五十人だけだったらしい。
しかも、身代金を要求できるような貴族は一人もおらず、目立った財宝もなく、食料さえほとんど残っていなかった。
「捕虜は?」
「投降した者が五人です。それ以外は全員、戦って死にました」
なんという執念だ。
見捨てられたというのに、それでも最後まで戦って死んだ。
俺たちをそこまで恐れ、止めるためなら何もかも投げ出す覚悟だったのか。
「尋問したい。生かしておけ。傷つけることも許さない」
「承知しました、陛下」
「行って、俺の命令を伝えろ」
使者は征服した野営地へと戻っていく。
「結局、陽動だったか……」
俺は呟く。
「そのようですね」
キクが地面に唾を吐く。
そうだ。
だが、何のためだ?
俺たちをここに釘付けにして、別の防衛作戦でも仕掛けるつもりだったのか?
おそらく、もう次の川の向こうまで退いているか、それとも俺たちの進軍を遅らせるために、こんな野営地をいくつも作っているのだろう。
俺は戦車から降りる。
それでも、確信している。
三日前まで、ここにはヴェルティワザ王がいた。
奴は軍を率いて、確かにここにいた。
俺をここに足止めしたのには、理由があるはずだ。
その理由を突き止めなければならない。
ガイア
階段を下りていく。
前を歩く兵士の松明は、ほとんど周囲を照らしてくれない。足元には十分注意しなければならない。
私は剣の柄を強く握りしめる。
嫌な予感がする。
こういう地下墓所や人目につかない場所には、宝が隠されていることもあれば、罠が仕掛けられていることもある。
それなのに、ここまで暗い階段以外に危険らしいものが何もないことが、かえって気味が悪い。
突然、肩に手が置かれる。
「ひっ……!」
思わず飛び上がり、小さな悲鳴が漏れた。
「ご安心ください、閣下」
ここへ続く通路の存在を教えてくれた神官だ。
「ついさっきまでは安心していました」
「怯えておられるように見えました」
「この場所は、どうも落ち着きません」
私の立場を考えれば、これ以上は言えない。
「申し訳ありません」
温かく、安心させるような声だ。
でも、マリクの声には遠く及ばない。
「やらなければならないのです。私の役目ですから。街の防衛に関わる場所なら、私自身の目で確認しなければなりません」
「陛下が閣下を信頼されたのは、正しいご判断だったのでしょう」
私は壁に手をつき、足を滑らせないようにする。
冷たく、ざらざらしている。
この場所は急ごしらえなのかもしれない。
私たちがいるのは神殿の地下だ。
どれほど意味がある場所なのかは、まだ分からない。
「信頼してくださってありがとうございます、テヌ神官」




