異世界から来たガイア 60
第60章
マリク
あくびをして、空いているほうの手で口元を覆う。
ガイアも目を細め、あくびをする。
ジル・バムが片眉を上げた。「よく眠れませんでしたか?」
「あまり眠れなくてな」
私の書記は薄笑いを浮かべる。最近の彼はガイアのことや、彼女が私に与える影響をずいぶん気に入っているようで、昨夜の段階で一線を越えたのではないかと期待しているのかもしれない。「いずれにせよ、睡眠不足で私の腕が鈍ることはない」
「滅相もございません、陛下」
「キクが馬車を走らせている間に眠るつもり?」ガイアは兜の紐を結ぶ。叔父が到着するか私が戻るまで、この街の軍事責任者を務めるのは彼女だ。
「すでに試してみたが、問題はあの窪みだな」
「それさえなければ、安らかにぐっすり眠れるってわけ?」
彼女の耳元に近づき、兜からこぼれた一房の髪を払う。「お前となら安らかに眠れる」その髪を指に巻きつける。こんな風に、愛おしくも官能的な感覚で彼女に触れることが、ひどく恋しくなるだろう。
ガイアは視線を落とす。「私も、あなたなしじゃ眠れそうにないわ」と呟く。「これから数日間は不安で、すごく心配してしまうと思う」
「分かっている、だが君を信頼している」彼女の耳元から離れる。「それに、ジル・バムも軍事面では助けを必要としている」
「まさにその通りでございます」
ガイアは私をじろりと睨む。「私達三人とも、もっと適任で経験豊富な人がいるって分かっているでしょう」
「そのご意見には異議を唱えさせていただきます、閣下。あなたは皇族の一員であり、高位の貴族としての地位をお持ちです。さらにあなたはイシュダーであり、自ら部隊を率いて貴族で満ちた大広間全体を単身で威圧したという噂は、すでに至る所に広まりつつあります」
「ほら見ろ、うまくいくさ」
「怪しいものね」ガイアは不満げに呟く。「それに、噂なんていつも大げさになるって誰もが知っているわ」
「まあ、ともかく陛下のご指示通り、すでに噂を広めておきましたがね」
自分の額を手で打つ。「彼女には言うなと言っただろう」
ジル・バムは、すでに出てしまった言葉を遮るように手で口元を覆う。「おっと失礼、お許しください陛下」
「私についての噂を広めるのはやめてちょうだい。そのうち空を飛べたり、エネルギー波を放てたり、瞬間移動までできると思われるわ」
「さあな、いつか本当にできるようになるかもしれんぞ」
「私は悟空じゃないんだから」
「誰の話をしているのかさっぱり分からん」
「なんでもない、気にしないで」手で払うように言う。彼女の世界の誰かなのだろうが、それだけのことができるのなら、間違いなく凄まじい人物に違いない。
「いずれにせよ、陛下がこの噂を広めようとされたのは正解です。民衆に敬意を払わせ、恐れさせる助けになります」
ガイアは思案深げに唇を指でなぞる。私はその唇に無性に口づけたくなる。「そう言われると理解できるわ。一種のプロパガンダね」
「お見事です閣下、ご理解いただけてきましたね」
そして私は、これほど一人の女を欲したことはなかったのだと悟り始めていた。今や甲冑と兜をつけ、剣を帯びた兵士の装いをしているというのに、ただただ美しいとしか思えない。
「役立てるといいんだけど」
「閣下、これまでもあなたは常に期待以上の成果を収めてこられました」
兜をかぶる。「お前がそんな結論を口にするとは驚きだな」
「ですが事実でございます」
「私が彼女を側室にすると決めた時、一番懐疑的だったのはお前だったはずだが」
「陛下には、凡人には見えぬものが見えておられるのでしょう」ジル・バムは軽く頭を下げる。
「胡麻すりめ、私を騙せると思うなよ」
彼は微笑む。
「あら、じゃあ私の気のせいじゃなかったのね。最初は本当に私に対して冷たかったんだわ」
「否定はいたしません、閣下」
「考えを改めてもらえて嬉しいわ」
「私もでございます」
「ふむ、どうやらお前たち二人はすっかり打ち解けたようだな。これなら安心してこの街を二人に任せられる」
「ご信頼に応えてみせます」
「あなたを失望させないよう、全力を尽くすわ、マリク」
彼女の手を握り締める。「そして私は、お前のもとへ戻るために全力を尽くす」
ガイアはため息をつき、視線を落とす。
ジル・バムに視線を送る。
「陛下、閣下。お二人だけにいたしましょう」私の書記は察して辞し去る。
こうした気配りにおいても聡明な者を配下に持てたのは幸運だ。「不安なのだな?」
「ええ。すごくね」
「きっとすべて上手くいく」
「そんなの保証できないでしょう」
「無駄な危険は犯さないと誓おう」
「約束して」
「分かった。無駄な危険は冒さず、一日も早くお前のもとへ戻ると約束する」
「ありがとう。あなたにはたくさんの責任があることは分かっているわ、だから信じて、マリク」私の目をまっすぐに見つめる。瞳は潤んでおり、私が発てばすぐに泣き出すに違いない。「あなたの邪魔をしたり、事態をややこしくしたりしたいわけじゃないの。私にとってあなたは大切な人だから。あなたがいなければとっくに死んでいたから、というだけじゃなくてね」彼女は唇を噛む。
彼女の首筋を撫でながら、昨夜ほぼ一晩中そうしていたように、口づけしたい衝動をこらえる。
「ただ、あなたにすごく情が移ってしまったみたいなの。好きよ、身体だけじゃなくて、人としてもあなたの良さが分かってきたの」
彼女の首の後ろに手を回し、親指でその顎のラインを撫でる。
「こんなことを考えるなんて私どうかしているけれど、でもね、私はあなたが大切なのお前。あなたが王子だからでも、何度も命を救ってくれたからでもなく、あなただから。マリク、あなたは私にとって大切な人、だからこそまた会いたいし、もう一度抱きしめ合いたいの」
彼女を強く抱きしめる。言葉を失い、何と言えばいいのか分からない。まるで水を通して見ているかのように視界が滲む。
涙を追い払うために目を閉じる。
彼女の香りを吸い込む。それは私の香りでもあり、二人で過ごした気配と、共に過ごした最後の夜の密接さを感じさせるものだ。最後と言っても、当分の間に過ぎないが。
「ガイア」息を整える。「私にとってもお前は大切で、特別な存在だ。敬服しているし、いつも驚かされる」彼女をさらに強く抱きしめる。「必ずお前の元へ戻ると約束する」
「もう一つあるの」
「妊娠したのか?」
「バカ! そんなの無理に決まっているでしょう、分かっているくせに」
「さっき話していた内容からすれば、そういう知らせかと期待したのだがな」
「違うわよ。もう、雰囲気をぶち壊したわね」彼女は身体をこわばらせ、まるで気分を害したかのようにうつむく。
「聞いている、話してごらん」
「もう。いいわよ、大したことじゃないし、本当はさっきの話に関係することなの」
「分かった」
「あと二十日ほどしたら、あなた達のカレンダーを知らないから私のものと照らし合わせないと正確には分からないけれど、私の誕生日なの」
「プレゼントは何がいい?」
「えっ……じゃあ、あなた達の世界でも誕生日にプレゼントを贈るの?」
「いくつかの点では、我々の世界も似通っているのだよ」
二人で共に笑う。
「ええとね、その日までに戻ってきてほしいの、ただそれだけ。その日をあなたと一緒に過ごせたらと思って」
「それを贈り物にしてほしいのか?」
「ええ」
彼女の額に口づける。「分かった、ならば何を贈ればいいか決まったな」
「ありがとう」
彼女は顔を上げ、私に口づける。
***
ザナンザは携帯食の干し肉を一切れちぎり、牛のようにむしゃむしゃと噛んでいる。
俺たちの周囲には、平坦な大地が何マイルも続き、畑や牧草地が広がっている。村からも遠く離れているため、補給する手段もない。
俺はヴェルティワザ王の陣営を見つめる。
細い煙の柱が、いつものようにこの時間になると立ち上っている。あちらは食料の心配がない。四日もここで足止めされ、携帯食を食べ続けている俺たちとは大違いだ。
「兄上」ザナンザはまだ肉を噛み終えていない。「村を略奪しないという兄上の判断は理解している。だが、兵たちがいつまでもこんな食事で我慢できるとは思わないほうがいい」
「兵たちがか? それともお前がか? うちの兵の多くは、普段だってそれよりましなものを食べているとは限らないぞ」
「兄上なら、俺が何を言っているか分かっているだろう」
「村は襲わない。何か必要なら、住民から食料を買う」
「変わった戦争のやり方だな」
「分かっている」だが、ガイアならきっと喜ぶ。住民が苦しむことをあいつは決して許さない。だから俺も、これからは少しでもその苦しみを減らすために自分の役割を果たしたい。
「彼女のせいだろ?」
「何の話だ?」もうバレているのだから、今さら誤魔化しても仕方がない。
「はいはい、どうせガイアのことだ。彼女と一緒になってから、兄上はいろいろなことに気を配るようになった」
「これから侵攻する場所の住民を守ることは、俺たちにとっても利益になる」
「分かっている。信じてくれ。無意味な虐殺や暴虐を避けること自体は、俺も嫌いじゃない。ただ、それを避けるなら、毎日干し肉と乾燥豆ばかり食べずに済む方法も考えないとな」
「理想はヴェルティワザをおびき出して、戦わせることだ」
「従兄弟の首を刎ねると脅してみたらどうだ?」
「三日もそれを言っているが、却下だ。もっといい機会のために取っておく」
「例えば?」
「逃げ道を確保するときか、人質交換のときだ」
ザナンザは歯で干し肉をもう一切れ引きちぎった。「それはありかもしれないな」
俺たちの挟撃が成功していれば、今頃はもうガイアのもとへ戻っているかもしれない。九日が過ぎた。勝利を手にして戻るまで、残された時間はあと十一日だ。「向こうは俺たちと戦わざるを得ないはずなのに、なぜ戦おうとしないのか分からない」
「怖いんじゃないか?」
俺は顎を掻いた。「それはないだろう。今ここで弱腰だと見られるわけにはいかない」
「なら、時間を稼ごうとしているとか」
「そうだな。だが、何のためだ? 俺たちの遠征軍の残りが進んでいることも分かっているはずだ」
「もしかしたら知らないのかもしれない。このまま夏が過ぎるのを待っているとか」
「あるいは援軍を待っている」俺はそう推測した。
「マリク、もうその話はしただろう。疑心暗鬼になりすぎだ。誰が来るっていうんだ?」ザナンザは唾を呑み込んでから続ける。「バビロニアは俺たちの側だ。兵を送ってくることはないだろうが」
そうだ。あの国は北と東で自分たちの問題を抱えている。
「残るのはエギントだ。だが、あそこが軍を送ると決めるまでには何か月もかかる」
「それに、あそこにも問題がある。噂では、大王トゥタンクモールにはあまり権力がないらしい」
「その通りだ」ザナンザが同意する。
「だが、あいつの母親はヴェルティワザの姉妹だ」
「マリク、お前も分かっているだろう。二十年も会っていないんだぞ。くそっ、二十年だぞ? だからって、あの女が自分の弟を救うために、すぐここまで駆けつけてくると思うのか?」
「分からない。お前なら俺のために来るか?」
「二十年後に聞いてくれ」
「ずいぶん役に立つ答えだな」
「考えすぎだ」
「そうかもしれない」ここで膠着するとは思っていなかった。なぜなのか、俺には分からない。今のところ、向こうは一度も戦いを仕掛けてこない。陣地を守り、こちらが近づけば矢を射かけてくるだけだ。
「いずれにせよ」ザナンザは背筋を伸ばし、賢者にでもなったつもりなのか空を見上げる。「焦って動けば、たいていは失敗するものだ」
「さっきまで、早く決着をつけてもっといいものを食べたいと言っていた奴の台詞とは思えないな」
「何について言っているのか分かっているだろう」
俺はため息をついた。「ガイアのことか?」
「そうだ。もっと冷静になれ。焦りすぎると、俺たち二人とも奴らにしてやられるぞ」
「彼女が心配なんだ」
「それは分かる。だが、今のお前に彼女を助けるために何ができる?」
「勝つことだ」
「くだらない。何もできないだろう。お前は彼女のところにいるわけじゃない。ここで自分の兵を率いているんだ。あの臆病者どもを倒す作戦を考えろ。それに、できれば向こうの食料も奪いたい」
確かに、その通りだ。
これまで三度、攻撃を仕掛けた。だが三度とも、奴らは外へ出てこず、城壁の上から矢を浴びせてきた。
俺には、奴らの矢より遠くへ飛翔体を飛ばせる攻城兵器がない。そんなものを誰か発明してくれればいいのに。石を投げ飛ばしながら、こちらは矢の届かない場所にいられるようなものがあれば、かなり役に立つ。
キッタンナでやったように、盾の下に身を隠して進むこともできる。だが、同じ手を使うのは気が進まない。今度は向こうも警戒しているかもしれない。まず間違いなく。
それでも騎兵で側面を援護すれば、盾を構えて進む兵たちの脇を守れるはずだ。
いずれにせよ、ここで何もせずにいるわけにはいかない。ガイアに会いたくて仕方がないからというだけじゃない。この状況そのものが気に入らない。奴らは間違いなく何かを企んでいる。
「ザナンザ」
「何だ?」
「斧で柵を叩き壊すなら、どれくらいかかる?」
「さあな。六、七回も叩けばいけるんじゃないか?」
「作戦がある」




