異世界から来たガイア 56
第56章
ガイア
衛兵が私を起こすのを手伝ってくれる。
くそっ。今見つかったら、もう後がないわ。
「大丈夫か?」と彼が再び尋ねてくる。
話せば余計なことを明かしてしまうかもしれない。なまりやそれに類することとか。あるいはもっと悪いことに、霊薬の効果が切れてしまうかもしれない。それでも何かしら反応しなければ。
彼は好奇心と疑念の入り混じった目で私を見ている。
私はうなずく。それしかできない。
「安心しろ、お前にぶつかってきたあの泥棒は捕まえたからな」
ああ、泥棒が逃げていたのね。私は再びうなずく。うまくやれば口がきけないふりを突き通せるわ。
「あのドゥルハン人のくそ野郎どもだけでも十分だってのに、身落ちした奴らまでしゃしゃり出てきやがる」
くそ野郎扱いしてくれてどうもね。
「とにかく、そいつは捕まえた」そして彼はまだ私の手を離していない。この衛兵は私まで捕まえているのだ。もし私があのくそ王子マリクの側室だと知ったら、二度と私を離さないだろう。
空いているほうの手のひらに汗がにじみ、恐怖で胸が締めつけられる。
私は何度も深くうなずき、微笑む。
彼は不思議そうに私を見る。
私は空いている手で自分の喉を触り、口を触り、それから首を横に振る。
「ああっ! 口がきけないのか」彼は理解した。
私は力強く何度もきっぱりとうなずく。
衛兵が私の手を離す。危険はないと納得したのか、あるいは口がきけない女が好みではないのだろう。「すまない、気づかなかった」
私は微笑む。
「その色からすると、宮殿で働いているんだな?」
くそっ。私は確信を込めてうなずく。制服があるなんて思いもしなかった。
「変だな、口がきけない者まで雇うとは思わなかったが」
ええ、私だってそう思うわ。私は肩をすくめる。手話なんてものがあるのかどうかさえ分からない。
「おい!」同僚が声をかける。「誰彼かまわずナンパしてないで仕事に戻れ!」
「すぐ行く!」彼は私に向き直る。「あいつらはいつも大げさなんだ。何か手伝えることはあるか?」
彼は親切で、口がきけないという話をすっかり信じているようだ。でも怪しまれずに外へ出なければならないことを伝えなければ。
やってみよう。
私は自分を指差し、それから門を指差す。
衛兵は首をかしげて私を見る。
動作を繰り返す。より強調して。霊薬やら何やらのおかげで、このごまかしが十分持つことを祈りながら。
「……街の外に出たいのか?」彼は理解した。
私はうなずき、色っぽく見えますように、せめて可愛らしく見えますようにと祈りながらパチパチとまばたきをする。
「ふーむ」彼は顎をかく。「おれならやめておくがね。外にいる連中は粗暴だ。捕まったらおれみたいに親切にはしてくれないぞ」
くそっ。
「だが、どうして外に出る必要があるんだ?」
その粗暴な連中に知らせて城街を攻略させるためよ、当たり前じゃない。身振り手振りで伝えられる、説得力のある理由をでっちあげなきゃ。
手元には何もない、しっかり隠した剣を除いては。
書面でのメッセージならどうかしら。そうね、どうせこの男は文字なんて読めないでしょうし。
木札に文字を書く身振りをする。 scanそして門を指差す。
「何か届けるものがあるのか?」
うなずき、もう一度書く身振りをする。
「手紙か……だが、なぜお前に託すんだ?」
疑い始めている。
私は両手を広げ、首を横に振る。分からないというように。
「分からないのか?」
うなずく。私が本当に何をすべきなのか見抜くほど勘が鋭くありませんように。
「かなり変な話だな。兵士ではなく召使いに手紙を託すなんて」
私は絶望のため息をつき、うなずく。思いついた中ではこれが一番マシな話なのだ。
「誰に届ければいいのか言えるか?」
私はきっぱりと首を横に振る。
ヴェールが動く。
髪の毛が飛び出す前に、手で押さえる。
「おれが付き添おうか?」
あんた、仕事に戻るんじゃなかったの?
口を閉じておくために奥歯をかみ締める。
「おい、動けよ!」仲間がまた彼に怒鳴る。
「一緒に来い。外に出るなら一人で行かせるのは心配だし、それに今は外の人通りも少なくなって怪しい奴らが増えている」
彼は私の手をつかみ、仲間たちの方へ歩き出す。
誰かに疑われたら終わりだ。
彼はすべて親切心でやっている。少なくとも本気で私とどうにかなりたいのだろう。霊薬を飲んだ後の私はそれほど美人でもないというのに。
門に到着する。そこには他に八人の衛兵がいる。
「なんだ、もうお持ち帰りか? 早速お披露目かよ」三つ編みの若い男が彼の肩を叩く。
彼はその手を振り払う。「女のスカートの中に潜り込むためだけに親切にする奴ばかりじゃないぞ」彼は私を指差す。「宮殿の召使いで、しかも口がきけないんだ。城壁の外へ手紙を届けるらしい」
「外へ? それは変だな」別の衛兵が髭をなでる。
「分かってる、だが身振りでそう言ってたんだ」
頷く。
「メッセージを見せてもらえるか?」髭はさらに疑い深くなっている。
首を横に振る。くそっ、粘土板すら持っていない。
「機密事項なんだろう。見つかっても口を割らないから、この子を使いに出したんだ」私の付き添いは実に善意で言ってくれている。
「そうかもしれないが、どうも納得いかないな」
「念のため、俺が付き添う許可を頼みます」
「彼女の安全のためには、お前と二人きりにさせない方がよさそうだがな」三つ編みがウインクしてみせる。
「お前はそれしか頭にないのか」
「もう十分だ、俺たち三人で行くぞ。さっさと済ませるんだ、誰も彼女に触るなよ」
髭が上官に報告し、私たちは本当に外へ出る。
くそっ、三人の衛兵に警護されている。彼らから逃げ出してジル・バムに知らせなければならない。しかも槍で武装し、兜と胸には革の胴甲を着けている。三人かがりなら私を簡単に片付けられるだろう。
門を通り抜ける。
だが、私の方が速いかもしれない。サンダルはしっかり固定されているし、私の方が軽い。
残念ながら、もう霊薬をあてにはできない。今や彼らには私の姿がしっかり見えすぎている。
髭が私の後ろに立ち、残りの二人が両脇を固めている。
罠にはまった状態だ。
私の唯一のチャンスは、野営地に近づいて逃げ出すことだ。だが疑いを招いてはならない。
選択肢はない。歩き出し、一行を帝国軍の野営地へと導く。結局のところ、手紙を誰に渡すのかは一度も言っていないのだ。
今のところ、彼らは何も尋ねずに私についてくる。
城壁の上の見張りたちを確認する。彼らは私たちをじっと監視しており、愚かな真似をして彼らの命を危険に晒すわけにはいかない。
この可能性も除外しなければならない。残されたのは、巡回隊に出くわすか、野営地まで護衛してもらうことだけだ。
遠回りをするためにカーブを切る。マリクを助ける時間がそれほど残されていないことはわかっているが、こうすれば味方の誰かが気づいてくれるかもしれない。
地面に突き刺さった大きな岩の周囲を回る。野営地の側面まであと一キロもないだろう。
「おい、嬢ちゃん」髭は苛立っているようだ。「誰かと待ち合わせでもしているのか? 一体全体、何をするつもりなんだ」
彼の方を振り返り、手で適当な身振りをする。
「くそっ、口のきけない女め」男は地面に唾を吐く。
「そう言うなよ」さっき私を助けてくれた衛兵が割って入る。「この子のせいじゃないんだ、この子だって俺たちと同じ権力者の犠牲者だろう」
「かばったからって、そいつと寝られるわけじゃないんだぞ」三つ編みはバカだ。
「やめろ」
「まともなことを言う時だけ喋ってくれ、頼むから」髭はいよいよ苛立っている。
野営地の方を見る。幸いなことに、一台の馬車がこちらに向かってきている。少なくとも三対三にはなる、なんとかなるかもしれない。
三つ編みが野営地の方を振り向く。「くそっ、馬車が来るぞ」
「ようやくまともなことを言ったな」髭もそちらを見ている。「ずらかるぞ」
首を横に振る。自分を指差し、それから文字を書くジェスチャーをする。何かを持つように手を丸め、それから馬車を指差す。
「あいつらに手紙を渡す気か!」髭は岩に拳をたたきつける。
三つ編みが地面に唾を吐く。「行こうぜ、こいつはここに置いていけばいい」
「そうだな、俺もあのくそ野郎どもに見つかるのは御免だ」
立ち去ってくれることを願う。感謝の意を示すためにお辞儀をし、立ち去るよう手で合図する。
「俺たちに去ってほしいのか?」私を助けてくれた衛兵の顔が曇る。
「悪くない考えだ、お前がもっと情熱的な結末を期待していたとしてもな」
「くたばれ」
「気に食わんな」髭は馬車の方へ進み出る。「こいつがスパイじゃないか確かめるべきだ」
くそっ。
「おいおい、口がきけないんだぞ、どうやって情報を渡すってんだ?」
「演技かもしれない、いずれにせよすべてが怪しくて奇妙だ」
髭は感づきすぎている。一歩間違えれば見破られて殺される。
馬車は百メートル未満の距離にあり、御者はタルクのようだ。後ろに四人の走者もいることには気づいていなかった。
私たちの方が彼らより大人数だ。怪しいと勘づかれないようにしなければならない。
三人の衛兵は神経質になっており、槍を強く握りしめている。
もし私がタルクに駆け寄れば、背中に槍を投げつけられるだろう。
タルクに近づき、理解させなければならない。走らず、そして何も疑われることなく。
タルクが近づき、和解の印として片腕を上げる。「おはようございます、みなさん。お見かけしたので挨拶に来ました」二十メートルほど手前に荷車を止める。彼の周囲には走兵たちが控えている。六対三だ。
「おはようございます、殿方」髭が一行を代表して答える。「決して怪しい者ではありません、こちらの召使いを護衛しているのです」私を指差す。「あなた方のどなたかに渡すメッセージがあると言っておりまして」
タルクは私を品定めするように見るが、気づかない。「本当か?」
うなずく。
「口がきけないと言っています」髭が私の代わりに話す。「私達にもメッセージは見せてくれていません」
「で、あんたらは誰だ? 失礼だが、俺以上に何かを知っているようには見えんが」
「我々は市警備隊です。この娘の無事を確かめるため、託された任務に勝手ながら同行させていただきました」髭は優秀な士官に違いない。
「では見事な仕事をしたわけだな。娘さん、メッセージを見せてくれ」私に近づくよう合図する。
おどおどと数歩を踏み出し、護衛たちから離れる。怯えているふりをして体を震わせるが、タルクの目をじっと見つめ続ける。
唇を動かす。ガイアよ。
口パクで二度繰り返し、チュニックの陰から何かを取り出して見せるふりをする。
タルクがうなずく。「この娘は連れて帰る。お前たちも任務に戻れ」
「ですが……」髭は納得していない。
「安心しろ、丁重に扱う。メッセージの封印が示す通り、彼女は我々の客人だ」
「差し支えなければ、大まかにどういった件か伺っても?」
タルクはため息をつく。「誰にも喋るなよ、本来ならお前たちが知るべきことではないのだから」荷車を強く掴む。「現在交渉が進行中でな、この娘は重要な書類を届けてくれたのだ。お前たちが知るべきなのはそれだけだ」
「つまり、行ってよし、誰にも口外するな、ということですか?」
「その通りだ。お前たちはこの事実にすら触れるべきではなかったのだ。限られた者しか知らん」
髭なら私かタルクを殺すくらい簡単だろうが、その直後に自分も死ぬことになる。それがわかっているなら軽率な行動はとらず、引き返すはずだ。
「従いましょう。あなたにではなく、ジョフィ王に」髭は恐れていない。
「我らの間に常に平和があらんことを」
振り返り、お辞儀をして感謝を示す。
挨拶もなく立ち去る彼らは、気圧され、あるいは腹を立てている。間違いなく疑っている。
タルクが手を差し伸べ、私を荷車に乗せる。「ガイア、本当に君なのか?」
「キッタンナで一緒に大男と戦ったわね。ザナンザが手に怪我をしていた時よ」
荷車が再び走り出す。
「ああ、君だ。となると、マリクが魔法を使ったんだな」
「ええ、すぐに動いて今夜中に街を奪取しなければならないわ。絶好の機会だし、マリクが敵を自分に引きつけてくれるから」
「くそっ」
「ええ」
「ジル・バムとの賭けに負けた」
「はあ?」こんな時にどうしてそんなことを考えられるわけ?
「行動を起こすまでまだ五日はあると賭けたんだが、あいつは遅くとも明日だと言っていた」
「へえ」
「幸い、すでに数人の男たちを街に潜入させているが、王宮内にはまだ誰もいない」
「王宮なら私が案内できるわ」
「もう戻るつもりか?」
「マリクを救いたいの」
「ああ、そうしよう」
テンヌ
ザナンザの陣地を迂回するのは簡単だったが、難しかったのはミルワン王を見つけ出すことだった。彼は自国領内に軍を隠し、敵の失策を待っている。あいにく彼の目的は敵を遠ざけておくことであり、戦うことではないのだが。
杖で印を描き終える。
呪文は完成した。この国の王に、二、三の情報を提供してやる時だ。




