異世界から来たガイア 54
第54章
ガイア
扉が叩かれた。
私とマリクは抱き合うのをやめる。
「くそ、もう少し待てなかったのか」
「どうせ待たれても文句を言っていたでしょう?」
再び扉が叩かれる。「陛下」聞き覚えのない声だった。「どうかお開けください」
「少し待ってくれ!」マリクは私に短く口づけをした。「せめて何か重要な用件であってほしいものだな」
「行って」
「少し髪を乱しておけ。邪魔されたように見せるためにな」
「早く」私は彼の肩を掴み、押しやる。二人で楽しんでいたかのような印象を与えるため、自分でも少し髪を乱した。実際、その通りでもあったのだけれど。
マリクは扉を開け、中に誰かを招き入れる。
背の低い太った小男が、頭を下げて扉から入ってきた。禿げ上がった頭と垂れ下がった頬のせいで、いくつなのか年齢が見当もつかない。「感謝いたします、陛下。お邪魔でなかったでしょうか」
「男が自分の女といる時は、大抵邪魔になるものだ」マリクは不機嫌なふりをしてみせる。
小男は歯をがちがち鳴らした。「お、お許しください、そんなつもりでは……」
「大抵は、と言ったのだ。今回は違う。ほんの危機一髪だったがな」
ほっとした笑みがたるんだ頬の間に広がる。「幸い、あまりお邪魔にならずに済んだようですな」彼は私に気づき、頭から足元までじろじろと観察した。「あなた様がイシュダー閣下に違いない」と深々と一礼する。「噂以上のお美しさでございます」
お世辞を言う者たちの言葉には慣れつつある。「感謝いたします」
「で、何の用だ? まさか俺の女を近くで見に来ただけではあるまい」
マリクにそう呼ばれるのが嫌いではない。
「もちろんでございます。今夜、我が主ジョッフィ王が街の貴族たちと共に催します晩餐会に、陛下をご招待したい旨をお伝えにまいりました」
マリクは鼻を鳴らす。「男だけの晩餐会か?」つまり私は招かれていないということね。「女抜きの宴の何が楽しいのか分からんな」
「これらは一般的な慣習でございます。偉大なるドゥルハン帝国でも、この種の晩餐会は存在いたしますので」
「ああ、ミルワンでもそうなんだろうな」
「その通りでございます」
「女がいない宴など退屈だが、欠席するわけにもいかんな。ジョッフィ王に出席すると伝えてくれ」
「承知いたしました」
「自分の女を一人残していかねばならんのだ、せめてワインくらいは王の趣味に恥じぬものであることを願うよ」
「もちろんでございます、陛下。ご退屈しのぎに侍女たちをお付けいたしましょうか?」
マリクが私を見る。
何と答えていいか分からない。
「俺が出かける前に侍女を一人寄越せ。着替えを手伝う者が二人になれば好都合だ」
「お一人だけで?」小男はニヤリと意味ありげに笑った。何を考えているか想像がつく。スケベオヤジめ。
「一人で十分だ。若く、庶民の出の者がいい。俺のガイアは風習や街に興味津々だから、語り合うことも多いだろう」
嘘としてはなかなかもっともらしい。「そうしていただけると大変ありがたいわ」できる限り甘く親しみやすい声を作る。自分がバカみたいだ。
「承知いたしました。日没後ほどなくしてお迎えに上がります」
「準備をしておこう。だが侍女は二時間前に寄越せ。見極めておきたい」
「仰せのままに。すでに心当たりがございますので、すぐに向かわせます」
「完璧だ」
「役目は果たしました。他にご用命はございますか?」
「いや、下がっていいぞ」マリクが下がらせる。
小男は一礼して出て行き、私達は再び二人きりになった。
この招待は気に入らない。
マリクは天井を見つめる。「くそが」
「私も気に入らないわ」彼のそばへ寄る。私にだって感じ取れるほど、あからさまな罠に見える。
「罠だ。誰にだって分かる」
「私もそう思ったわ」
「最良の場合でも、俺を見極めて陣営を乗り換える利点を探りたいのだろう。最悪の場合は殺される」
「でも、それならとっくに殺しているはずじゃない?」
「愚か者ならそうだな。だが晩餐会では何でも起こり得る。事故、毒殺、失言からの決闘。だからこそ、少しでも緊張感がある時は、まさにそういった事態を避けるために女抜きの宴は避けるのが普通なのだ」
「あ……。つまり、そういう宴では命を落とす危険があるのね」
「俺が命を懸けていない時などあるか?」
「あなたの話を聞く限り、一度もないわね」
「その通りだ。だが、これは絶好の機会でもある」
私は頷く。計画は内部から制圧すること。「王と貴族たちが全員同じ部屋にいるなら、一網打尽にできるわ」
「話が早くて助かる」
「問題は、どうやって兵を送り込むかよ」
「ああ、今夜のうちに召集をかけ、戦略的拠点を確保せねばならん」
「でも時間があまりにないわ。ジル・バムだって部隊の編成を終えられていないはずよ」
「急がないとな」マリクは自分の小箱へ向かい、中身をベッドの上へひっくり返した。
「何をしてるの?」
彼は底をいじり、板を外す。二重底になっていたのだ。
「専門家ではないが、何とかなるだろう」彼は小瓶を取り出し、さらにもう一本取り出した。
「毒? それとも魔法?」それ以外には思いつきもしない。
「両方だ」
私は彼をジロリと睨みつけた。毒は大嫌いだ。
「安心しろ、誰も殺すつもりはない」彼は小瓶を持ち上げた。「これは強力な睡眠薬だ」
「じゃあ、人は死なないの?」
「大量に服用すれば死ぬ、当然だ。だが適切な量なら、数時間眠りにつくだけで済む」
「クロロホルムみたいなものね」
「クロロ……何だと?」
「ううん、気にしないで。その睡眠薬を使って、どこかの女の子をどうにかするつもりだったの?」
「その予定はなかったが、結局はそうすることになるな」
「侍女ね」
「その通り、だからこそ呼んだのだ。眠らせたら服を奪い、宮殿を出て味方を呼びに行ってもらう」
そうだ、まだ味方は誰一人として内部に入り込めていないのだ。
「道は覚えているか?」
「やってみるわ。宮殿を抜けるくらいなら怖くないし、覚えていると思う」
「結構」
「問題は街を出ることよ。うまくできるかあまり自信がないわ」
「道を思い出せそうにないか」
「たぶん無理ね。通った時はちょっと気が散っていたから」
「無理もないな」彼はニヤリと笑った。
「気を散らしていたのはあなたじゃないわよ」少なくとも、あの時は違った。
「真に受けていいものか」
「とにかく、これじゃ問題は解決しないわ」
「ああ」
「人に道を尋ねるのも助けにはならないわね、怪しまれすぎるもの」
「その通りだ。誰にも見られず、気づかれないことが絶対条件と言っていい」
「すごく難しいわ。このあたりで赤毛の女の子なんて、ほとんど見かけなかったもの」
「残念だな、俺は赤毛の娘が大好きなのだが」
「あなたなら女の人なら誰だって好きなんじゃないの」
「お前が一番だ」
「とにかく、服を着替えたところで問題解決とはいかないわ。もし来る侍女が、背が低くて太っていて黒髪だったらどうするの?」
「だからこそ、服だけでなく呪文も使うのだ」
「危険なの?」
「いや、心配いらん。ある人物により巧みに変装するためのもので、お前の面影と相手の面影を混ぜ合わせるのだ」
私はベッドに腰を下ろした。「つまり、他の人の顔になるの?」
「まるごとではない。二人の顔を混ぜ合わせた、新しい顔を作り出すのだ」
「あ……でも、ちゃんと元に戻るのよね?」
「勿論だ。さもなければ使わん」
安堵のため息をつく。「よかったわ」
「問題は、それでも誰かが何かしら違和感に気づくかもしれんということだ」
「そこまで考えていたのね」
「まあ……俺自身がそうやって逃げ出さねばならん状況に置かれたことが、何度かあってな」
「どうして?」間違いなく女絡みの話に違いないわ。
「教えてやらん」
「怖いの?」
「お前が存外に嫉妬深いと分かってきたからな、だからその通りだ」
「嫉妬するのは当たり前じゃない、愛情表現の一種よ。それに、あなただってかなりの嫉妬深いじゃない」ザナンザに攫われた時の彼の反応を考えれば。
「事実、俺はお前に嫉妬しているのだからな」彼は私の顔から一握りほどの距離まで顔を近づけた。「誰にもお前に触れてほしくない」




